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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Autumn

定期誌『MarkeZine』特集

新しい大人市場をつかむ秘訣は“若者が憧れる”要素

60代、ジムから帰って「マイッタネ、じいさんばっかり!」

 東京五輪を3年後に控え、今、日本全体の気運が全体的に上り調子です。若いアスリートのイメージも手伝って2020年までは活気づくでしょうが、それが終わった途端、おそらく皆さんびっくりすると思います。気づけば、大人の10人のうち8人が40代以上の社会になっている。これは、五輪を機に社会全体に弾みがついた1964年と今回とで大きく異なる点です。

 しかしながら、個々人を見ていくと、これまた驚くほど気分は若い。60代も半ばで退職し、運動でもしようかとジムへ行った知人が「マイッタネ、じいさんばっかり!」と驚いていました。そのジムにいた人の多くが家に帰ってそう言っているでしょう。まさしく自分以外は全員じいさんなのです。自分が思う自分像は、皆じいさんじゃないのです。健康は大きなテーマですが、決してじいさんの健康ではありません。

 ここに、いわゆる企業のシニアマーケティングがうまくいかない大きな要因があります。シニアというと介護を筆頭に、老後や老化といった切り口が挙がるのが一般的ですが、そもそも年を取った自覚がない人にそうしたメッセージを投げかけても、自分のこととは感じません。「“シニア”マーケティングをすると若者が離れるのでは」と危惧するマーケターが多いですが、若者どころか、本丸が離れてしまう。“シニア”と捉えた時点で失敗する、といってもいいくらいです。

 自覚のなさは、データにも表れています。一応、政府や自治体の基準だと65歳以上が高齢者とされていますが、我々が今年行った調査では、50代で「シニアと呼ばれて自分のことだと感じる」のはわずか12.6%です。60代になると41.3%になりますが、「シニアと呼ばれてみたい」のは、これも11.9%と約9割の人が「そう呼ばれたいとは思わない」ことがわかりました(図表2)。

図表2
図表2:50・60 代の当事者世代に“シニア”はますます不人気

 その傾向は年を追うごとに強まっています。また、実に85%の人が「自分たちは20〜30年前の同年代とは違う」と思い、その観点として「年相応にならない」「若さ」「新しいものやコトに敏感」が挙がりました。

 敏感といっても、デジタルを使いこなす若い世代にはかないませんが、スマートフォンの所有率も高まっていますし、知らない情報に積極的に耳を傾ける姿勢は十分にあるわけです。

最初の恋愛結婚世代 女性もぐっと主体的に

 しかも先ほど紹介した調査結果で興味深いのは、前述のように「昔の同年代と違うのは自分と自分の周りだけ」と思っている点です。まさに「(自分以外は)じいさんばっかり!」なのです。

 しかしながら、決して自分たちだけではなく、全体として今の70歳以上の高齢者とは確かに異なっています。背景としてまず挙げられるのは、学校給食が導入された世代であることです。栄養バランスが大事だという教育を受けた女の子が主婦になり、家庭の献立も改善したので、上の世代より栄養状態がまず良好です。

 メディア環境の変化も大きいです。彼らは10代のころにテレビが普及し、テレビや雑誌の情報からトレンドが生まれていくのを体感してきました。景気が右肩上がりの中、どんどん登場する新商品を吟味してきた賢い生活者なので、今も最新情報の取捨選択に忙しいのが常です。

 もうひとつ特筆すべきは、今の70歳以上の多くがお見合い結婚でしたが、団塊世代を境に恋愛結婚が一気に主流になった点です。お見合いは受動的ですが、恋愛は男女とも自分で相手を選ばざるを得ない。それまでは周囲に言われるがままになりがちだった日本の女性も、主体性を持ち始めた最初の世代なんです(図表3)。

図表3
図表3:世代の区分

 当時はまだ、女性の働き口はほぼ一般職で、結婚したら専業主婦になることが大半でしたが、意識としては「女性の自立」にも目が向き始めた。ある意味でこの主体性が、後の1985年の男女雇用機会均等法の下地になっているともいえます。

デジタルが加速する「新しい大人中心」の社会

 当然、団塊の世代にも年齢なりの衰えはあります。ただ、それが70歳を超えて顕著になり、今までの“高齢者”のように枯れていくのか、それとも今までの勢いをもって“高齢者”の概念自体を覆していくのか。今がまさにその分かれ目です。

 どちらになる可能性が高いかというと、私は後者の可能性が極めて高いと思います。なぜならテレビを見ると、ビートたけしさんも高田純次さんもちょうど70歳、この人が出れば視聴率が取れるといわれるバリバリの現役です。もちろん、極めて才のあるタレントと一般人は違いますが、気持ちの上では彼らと同じなのです。ちなみに40代男性も外見はさておき、意識はキムタクです。“いつまでもやんちゃなオレ”な若者気分の彼らは、ヒットした若者向け商材の何割かを支えているはずです。

 また、分かれ目という点では、デジタルの存在も大きいといえます。世代的に団塊の2つ下の新人類世代(現在50代前半)あたりからデジタルにも慣れ、情報接触量が劇的に増えるので、これまでの高齢者とは違う新しい大人が中心になります。「新しい大人社会」はデジタルが加速していくともいえます。

 我々は既に2001年、従来型の「地縁・血縁」に代わって情報を介して縁をつなぐ「情報縁」という概念を提唱しました。最初は、テレビドラマの感想で夫婦の食卓の会話が成り立つようなアナログな話でしたが、これがデジタルによってネットの口コミやSNSなどでの情報流通が極めて多くなり、それで人とつながるという現象が、団塊以降の世代で加速度的に増えています。まさに2017年、「情報縁」の急速な進化です。

 では、団塊世代のお金の使い方を見てみましょう。中高年へのスマホ普及には、娘や息子から孫の写真をLINEで受け取るため、あるいは娘や息子や孫とLINEでやり取りするためという理由が大きく働いています。ただ、2年ほど前まではスマートフォンの普及率もいまひとつでした。これが最近、格安スマホによって、ぐっと高まっています。

 退職すると年金暮らしになって財布のひもが堅くなる、といわれますが、実際とはかなりズレがあります。調査結果を見ると、お金も時間もある「金時(きんとき)持ち」は50代から急増し、全年代のうち、50代以上が圧倒的に多いのです。それは、子どもが大学を出て教育費がかからなくなると、急に生活がラクになるからです。つまり子供の独立が家計を大きく変えて、小金持ちが増えるわけです。スマートフォンへの移行のハードルは操作性だけではなく、ほぼ通話とメールだけなのに7,000円も払うのが「ばかばかしい」からです。前述のように、賢い生活者なので、金時持ちであっても、ムダなお金は1円も使いません。

 退職金による巨大消費が期待されたほど起こらなかったのも、彼らが定年退職し始めてすぐの2008年に起こったリーマン・ショックの影響もありますが、そもそも定年直後は様子見をして、徐々に使い出すという賢い消費スタイルだからなのです。

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旅行、趣味、食 メリハリつけて賢く消費

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

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※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/25 17:47 https://markezine.jp/article/detail/27460

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