情報過多の時代だからこそ適切なメッセージングが必要
数多あるMAの中でも、世界最大級の顧客数を誇るマルケト。MAに特化した専業ベンダーで、グローバルでは約6,000社、日本でも約480社を超える企業に利用されている。
なぜMAが、多くのマーケターたちに受け入れられるようになっているのか。マルケトのシニアビジネスコンサルタント 丸井達郎氏は、その背景に「企業が発信する情報量が非常に多くなっていること」があり、そのためお客様にとって本当に必要な情報を最適なボリュームで提供する必要が出てきていると言及する。
さらに、コミュニケーションチャネルが多岐にわたっている中で、顧客にとって一番心地良いコミュニケーションを選択していかなければならないことの大変さについても指摘。
「単一チャネルのマーケティングでも大変なのに、それを多くのチャネルを通じて一貫してお客様の欲しいと思う情報を届けるというのは、人手では難しい時代だ。ではどうすれば良いのか。ここを効率化させて、より良いコミュニケーションを実現するためのプラットフォームをマルケトは提供しています」(丸井氏)
お客様により良いコミュニケーションを実現するためには、「データ収集」「顧客体験の設計」「気づきを与える」、この3つのサイクルを作っていく必要があり、そのサイクルを回すためのプラットフォーム=“エンゲージプラットフォーム”をマルケトは提供していると、丸井氏は続ける。
セッション内で語られたマルケトの強みは、「製品力」、「成功支援」「エコシステム」の3点。中でも、この「成功支援」という部分で、数多くの企業のMAツール導入や運営を支援してきた実績から見えてきた成功企業の特徴と、MA導入時に押さえるべき以下のポイントが紹介された。
MA導入時の3つのポイント
- クイックウィンで素早く成果を創出
- 成果を最大化させる改善プロセスの確立
- 組織を横断したMA運用チームの構築
そして、実際にこうしたポイントを押さえて導入を成功させ、今、運用で成果を出している企業として、丸井氏に代わりクックビズの齋藤 理氏より、中小・ベンチャー企業によるマルケト導入の勘所についての話が続いた。
「マーケティングの役割が変わった」クックビズのMA導入
クックビズは、大阪に本社を構える、フード産業に特化した人材サービス業。設立10年を迎えた現在の社員数は160人ほど。
運営する飲食店の求人・転職メディア「cook+biz」は、PV数をこの3年で約7倍に伸ばしているほか、料理人向けのSNS「Foodion」など、「フード産業を人気業種にする」をビジョンに事業を展開している。齋藤氏はメディア事業部長として、こうしたメディア・SNSの責任者を務めている。
クックビズがマルケトを導入したのは、2年ほど前のこと。狙いは、ユーザーと良い関係を持つことだった。「本当はユーザーと向き合いながら素早くPDSを回したいのですが、なかなか自社開発や運用だけでは、リソースとスピードが足りない。それを補完しようと、マルケトを導入しました」(齋藤氏)
導入してみて、様々な変化や成果が現れたというが、中でもマーケティングの役割が変わった点が興味深かったと話す。
「ユーザーのファネルを分けたときに、一般的に人材会社のマーケティングの役割はファネルの上段、リードジェネレーションの部分のように思うのですが、MAを使うと、どんどんファネルの後ろ側にも施策が打てるようになっていく。リードジェネレーションからプロセスエンジニアリングへと変化していきました」(齋藤氏)
導入初期のキーワードは“クイックウィン”
実際に、どのように導入を進めていったのか。まず初期段階として行ったことは、「自社データとのつなぎ込み」と「クイックウィン」の2つ。
データのつなぎ込みは、CRMデータなどの自社で所有しているデータとの連携が必要になるため、その部分をまず決めて設計。何とつなぐかを決めたら、対象データをどうするか、同社の場合は、起点をメールアドレスに置き、プラスしてどこまでのデータを対象にするのか、同期条件・項目などを決めていった。
その後、Web上の動きと連動させるため、cookieとデータを紐づける。開発などと連携し、作業にかかった期間は1~3週間ほど。
クイックウィンについては、「簡単」「わかりやすい」「効果がすぐ出る」、これら3原則があると齋藤氏は説明。初めの旗振り役に齋藤氏自身がなり、まずはメールのABテスト、HTML配信などを、1~2週間で実施したという。
「初期導入で大切なポイントは、1.運用・システム部門の巻き込み 2.迷ったら、一通りデータ同期する3.壮大なことは後で考える の3点だと思います。2.については、マルケトはリード数課金で項目数は関係ないので、運用が大変にならない程度に同期してしまえば良いと思いますし、3.では、カスタマージャーニーやスコアリング、セグメンテーションの設計などは後で考え、クイックウィンで動いていくことが大切です」(齋藤氏)
なぜ、クイックウィンが重要なのか。理由の一つは、旗振り役の精神的安定の確保。MAツールに投資した分を回収しようとすると焦り、コミュニケーションが「プロモーショナル」になりがちに。しかしそれは本来の目的とは異なってくるため、早めに投資回収の目途をまずは小さく立てて、成果が出ていることを周囲にわかってもらうことが大切だという。
もう一つは、他部門の協力を得るため。マルケトの組み込みには、他部門の協力が必須になるが、人を動かすのは容易ではない。しかし、わかりやすく成果があると人は動くので、まずは少しでも成果が出ていることを伝えることが大切だと齋藤氏は説明する。
運用フェーズの3つのポイント
初期がある程度回ってきたところで、いよいよ運用フェーズに移っていく。運用時のポイントとなるのは、以下の3つ。
- カスタマージャーニーの整理
- 施策の洗い出し、優先順位
- 施策の実施・改善
基本的には、2.と3.を定期的に回し、1.をたまに見直していくサイクルだという。
1.のカスタマージャーニーの整理で大事なのは、計測できる「遷移指標」。マルケトの様々なプログラム発動のトリガーになるので、しっかりと定めておく必要がある。
2.の施策洗い出し・優先順位決め、これはジャーニーをもとに、各部門を集めてどんな課題があるのか、何をしたいのか出し合い、効果×労力(コスト)のマトリクスで整理していった。優先順位はやりやすいところから始めていく。
3.は、施策ごとにメッセージ(コンテンツ)を作成。自社のオウンドメディアのコンテンツや過去の資料、実際の運用者の業務メールなど、あまり手間をかけずに、ありものを使っていく。改善については、ABテストによるチューニングを実施。メッセージ・ネタに困った時には、ユーザーになりきることが有効だと話す。
「運用フェーズのポイントを3つ挙げましたが、その際に心がけるべき大切な点も3つあります。それは、『1.段階的なチューニング』『2.越境』『3.成功の連鎖』です。『段階的なチューニング』は、ABテストをやるときに、基本的には差がわかるように段階的にやっていきましょうということ。また、頻度・タイミングを考えましょうということです。曜日や時間というだけではなくて、ユーザーアクセスやステータス変更を起点にチューニングしていくと良いと思います。
『越境』については、MAの守備範囲は広くて組織の分掌を超えるので、他部門の業務・課題もできるだけ把握し、時には業務を変えてもらうことをやることも大事だという意味です。これまでのマーケティングの領域は、サイト訪問やリード獲得など前半のファネルの部分でしたが、今後はカバーできる領域が広がっていき、より越境できる範囲が広がっていくので、いわゆる“坂本竜馬型マーケター”を目指していくべきではないでしょうか。
最後の『成功の連鎖』は、結果検証の徹底です。ファネル遷移率など改善結果の見える化、部門のローカルKPIだと伝わりにくいので、それをコスト価値に換算するなどが有効です。また、そうした成功の共有を、部をまたいで行うことで、その後の連携がよりスムーズになりますし、場合によってはマルケトの運用自体を各部門に任せていけることにもつながるのではないかと思います」(齋藤氏)
デジタルトランスフォーメーションの前哨戦となるか
最後に、MA運用の体制をどう組むのかという話では、必ずしも専任を置かなくてもやれると齋藤氏は語る。
体制の肝となるのは、初期の旗振り役を立てること。旗振り役としては、越境があること、ローカルKPIに捉われないこと、ある程度のホスピタリティがあることが望ましいという。
また、どうやって体制を拡大させるかという点では、色々と啓蒙活動を行うことも大切だ。たとえば、MA起点での業務アラートメールなどでMAへの興味のフックを作ったり、運用者の手作業をMA化して「システムの背中に乗る」ことに慣れさせる。情報共有するというのも大事なポイントとなる。
「まとめになりますが、MA使うコツは色々あります。特に、クイックウィン・改善・越境が大事だと思っているのですが、実はこれはアジャイルマーケティングのアプローチとほぼ同じ。なので、マルケトを入れるからと特別新しいことをする必要はないように思います。この取り組み自体が組織にとって『テクノロジーの背中に乗る』ことに、慣れるきっかけになるので、来たるべきAI時代に備えた組織のデジタル・トランスフォーメーションへの前哨戦として良いのではないかと思います」(齋藤氏)