コンサルとエージェンシーの合併はまだ起こる?
有園:ところで、冒頭でも少し触れましたが、IMJとアクセンチュアのM&Aもまさにエージェンシー側のデジタルシフトですよね。デジタルシフトを進める企業を、その一歩先をゆく提案で支援していくための。その点では、本当に融合するには苦労もあると思いますが、追い風では?

加藤:おっしゃる通り、そこを狙ってのM&Aでした。アクセンチュアは、CEOなどCXOクラスにデジタルトランスフォーメーションなどのビジネス変革を提案していく能力をもっている。一方でIMJはデジタルマーケティング戦略立案から実行支援まで提供できる能力を持っている。
皆さんお分かりかと思いますが、デジタルの重要性が増し、経営アジェンダになりつつある中で、戦略支援だけでも、実行支援だけでも企業のニーズに応えられなくなってきたので、双方の能力を合わせて本質的な企業のデジタルトランスフォーメーションを支援していく考えです。
コンサルティング会社と、私たちのようなデジタルエージェンシーの本格的な連携は日本ではいまだに例がないので、まさに日本初のチャレンジに取り組んでいるところです。ただ周囲を見渡すと、他でもコンサルティング会社が我々のようなエージェンシーと連携するという動きは、まだ出てくるんじゃないかと思っています。
有園:そうかもしれないですね。Google時代にAPACの戦略担当チームに所属していたのですが、そのチームには、マッキンゼーやボストン・コンサルティング、ブーズ・アレンなどから転職してきた外国人がたくさんいました。実は、当時のGoogleには、戦略チームに限らず、戦略コンサルティングファームから転職してきた人が、結構多かったんです。
その人たちに、なぜ、コンサルティングファームを辞めたのかを飲みの席で聞いたら、「リアルタイムで吐き出されるデータに基づいて戦略を立てられないと、もう話にならない」と口を揃えていったんですよね。飲みの席で聞くには、深い話だなと(笑)。じつは、『マッキンゼー』という本がその後に出版されていて、似たような趣旨のことが書かれています。時代の流れを感じるんですね。
“現在の勝者で、マッキンゼーに助けられてその地位を獲得した企業はほとんどない。アップルやグーグルを考えればわかる。マッキンゼーの代表的な勝者は、アメリカン・エキスプレスやAT&T、シティバンク、GM(ゼネラルモーターズ)、メリルリンチなど、古くからある産業分野の企業だ。”
『マッキンゼー ― 世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密』より引用
変わる課題抽出のプロセス

加藤:確かに(笑)。でも、わかります。
有園:本格的なデジタルトランスフォーメーションを、自社だけで実行できる事業会社はほとんどないと思うので、すると企業だけではなく支援する我々もサポートできる範囲を拡大する方向へ変わらないといけないわけですね。
加藤:そうですね。アクセンチュアと一緒に行うプロジェクトでは、戦略支援はアクセンチュア、実行支援はIMJと思われがちですが、IMJも戦略に関わりお互いクロスオーバーする形で推進しています。
それは単純な業務提携などでは難しく、IMJがアクセンチュアグループに参画したからこそ可能になると思っています。文化や仕事の仕方が異なる会社同士が、一緒に仕事をして価値を出すというのは生半可な覚悟では難しいと実感しています。
有園:ユニクロの柳井正さんが「情報製造小売業になる」と打ち出されていたり、ZOZOSUITのような仕組みが出てきたりと、先進的な企業にエージェンシーが追いつかなくなるのではという危機感はありますが、その危機感をバネに我々も変わっていくしかないですね。環境は変わっても、マーケティングの基本は変わらないですから。
加藤:そうですね。1点だけ付け加えると、課題抽出のプロセスはちょっと変わってきていますね。他社をベンチマークして課題抽出をする手法から、顧客視点で“カスタマージャーニー”を描き、ワークショップなどを通じて、課題抽出をする手法のほうが有効になりつつあります。
有園:あ、それは確かにそうですね。同時に、社内で個別にカスタマーに向き合っている部署のメンバーをつなぐこともできる。この効果も大きいですね。
加藤:一貫した顧客体験設計を考えるということは、マーケティングモデル自体を変えることに等しく、IMJとアクセンチュアでも、これから多くの事例を提供できるようになっていきたいと思います。