ストリーミング拡大が音楽市場自体の盛り返しに
――アーティストらへの還元は?
1曲再生されるごとに、ライツホルダーに還元されます。私たちのミッションは、誰もが音楽を楽しめるサービスを提供することと、アーティストが楽曲を通して正当に利益を得られること、そしてアーティストとファンをつなげることという3つです。
――日本の音楽市場ではCDのセールスが減少し、ダウンロードやストリーミングがその分伸びている様子もあまり感じられません。一方でフェスなどのライブは伸びていると聞きます。その中での音楽ストリーミングの位置づけや、日米の違いについてうかがえますか?
日米だと、かなり状況が違いますね。日本レコード協会によると2016年の音楽市場(ライブや物販などを除く)は、前年比約99%と微減で、数年来少しずつ減っている状態ではあります。おおよその内訳は、CDなどの音楽ソフトが82%、デジタルダウンロードが11%、ストリーミングサービスが7%を占めています。これはアメリカでSpotifyがサービスを開始した2011年の状況と似ていますね。現在はというと、アメリカでは2016年にストリーミングサービスだけで約51%と既に半数を超えました。同時にストリーミングの伸長によって米国では音楽市場全体も、3年ほど前からV字回復しています。ドイツなどでも同様の状況が起きています。

そこから音楽ストリーミングサービスの位置づけを考えると、決してCD購入の需要を奪うものではなく、音楽需要全体を喚起するものだと言えると思っています。むしろ、買ってはじめて全部聴くという楽しみ方ではなく、まず無料も含めて繰り返し聴くうちに、アーティストを好きになり、CDやグッズなどを所有するという流れが起こっていると考えられます。ストリーミングは使い勝手がいいので新しい音楽の発見に非常に貢献していると思います。
――日本でもアメリカの状況を追随しそうですか?
車社会のアメリカでは、随分前から車にCDプレイヤーではなくモバイルをつないでの音楽聴取が当たり前になって、CDを買える場所自体もかなり減っていました。そのステップを経てのストリーミングの急速な普及だったので、日本はまったく同じ道筋を通るとは限らないと思います。ただ日本でも、ストリーミングサービスは着々と広がっており、今後急速に伸びる見込みはあると確信しています。
ブランド認知を高めながら接触頻度を増やす
――日本市場で追っているKPIやKGIをうかがえますか?
無料と有料の両プランを提供するサービスだと、無料から有料へ促すのが大きな目標になることが多いと思いますが、私たちはそうは考えていないんです。あくまで選ぶのはユーザーですし、私たちとしても無料プランは広告モデルで広告収入を得ているので、それがゼロになることは目指していません。
無料プランでは曲と曲のあいだに入る音声広告の他、バナー広告や動画広告を活用して、音楽ファンと広告主とのマッチングを実現しています。たとえば「ランニング用のプレイリスト」を視聴している人は高い確率でランニング中だとわかるので、スポーツ関係の商品やサービスと相性がいい。そんなアドプラットフォームとしての役割は、無料プランがあるからこそ成り立っているので、無料会員もいてほしい。ユーザーにはその時のニーズによって無料と有料のどちらのプランでも好みで選んでいただきたいと思っています。
現状、日本で注力しているのは、まずブランド認知の向上です。他の音楽配信サービスの多くは、日本でも長年ビジネスを展開しているグローバル企業などが手がけているため、サービス自体の認知もスタート時から高いのですが、日本に新規参入したSpotifyはサービス開始前の認知度がわずか4%でした。これまで私たちがサービスを導入してきた国・地域の中でもいちばん低いところからのスタートだったので、まずは熱心な音楽好きの方から知っていただき、ご利用いただけるよう努めてきました。同時に一日のうちに何時間聴いているかといった接触度合いも重視しています。
無料と有料のプランを行き来しても構わない
――先ほどのアーティストへの還元でいうと、ユーザー数が増えても再生回数が伸びないと還元額は増えないのですよね?
そうですね。だから、使い方が理解されているか、どれだけ使いこなしてもらえているかが重要なんです。好きなアーティストや曲をスムーズに見つけられるかとか。そしてロイヤルティやユーザーフリークエンシーを上げていくことをKGIとして見据えています。
――無料会員を一概に有料へというわけではないということですが、そこを促す施策などはあるのですか?
もちろん、行っています。有料会員は1ヵ月980円ですが、3ヵ月間100円の体験キャンペーンを展開したりしています。私のように出張での移動が多いと、有料プランの特徴のひとつであるオフライン再生は不可欠ですが、人によって、今月は有料、来月は無料と行き来してもいい。そこは、私たちはあくまで選択肢を提案するというスタンスでいます。
日本市場でちょっと難しかったのは、他のサービスが無料のトライアル期間を終えたら自動的に有料プランへ移行したりすることが多かったため、皆さんに「最初は無料でも気づかず有料になってしまう」という刷り込みがあったことですね。そこはまだ誤解があるので、地道にサービス訴求をしているところです。