オリジナルアニメーションはCMの救世主となるか
「君の名は。」に端を発したアニメブームは、CMの領域においても2017年に大きな潮流となりました。「アオハルかよ。」というキャッチコピーと、「君の名は。」を彷彿させる展開で話題となった日清カップヌードルのCMは、皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。
昨今のアニメブームを企業はなぜ自社の広告に採用しているのか、またそれが世の中に受け入れられている背景にはどのような理由があるのか。本稿では、これらを紐解いていきたいと思います。
では、まず初めに、広告における時代の変遷から整理していきます。
CMの効果は絶大で、CMを流せばモノが飛ぶように売れていた時代は過去のもの。ネット、ひいてはスマートフォンが日常生活に浸透した現在では、「スマホを操作しながらテレビを観る」「スマホを操作しながら通勤する」などというように“ながら人口”が増加したため、従来の広告論調型のCMでは人々を惹きつけることが難しくなりました。
これを受け、企業のCM戦略には「複数タレントの起用」という大きな流れがやってきます。資生堂のTSUBAKIのCMは、その代表格と言えるでしょう。当時の国民的アイドルグループの曲とテレビドラマ主役級の女優を複数同時に起用したCMは、大きなインパクトを与えました。現に、多くの方がこのCMを記憶しているのではないでしょうか。
とは言え、資生堂のように多額のコスト(ギャランティー)をかけてCMを放送することができるのは、ごくわずかな企業に限られるのが現実です。加えて、タレントを起用してブランディングを図る施策がありふれた結果、タレント頼りのCMをキラーコンテンツとするのには限界がきているのかもしれません。
そもそもアニメは、世界観や表現・演出の自由度が圧倒的に実写よりも優れているため、企業は理想的な演出やタレントを自ら生み出すことができます。また、どんなに大がかりな世界観を描き、沢山の人間を出演させるアニメを作っても、コストは制作費のみです。タレントや有名コンテンツを利用したCMと比較してアニメCMは、大幅なコスト削減に加え、自由度の高い表現が叶うプロモーション手段として、その可能性が期待されているのです。
「アオハルかよ。」を筆頭に、壮大なストーリーと伏線で話題を呼ぶ
先述した日清食品のカップヌードルのCMは、隕石の落下による都市の破壊が起きている中で高校生カップルが青春を貫くという、シチュエーションを描いています。このような現実味のない壮大なストーリーを展開できることも、アニメCMの特長です。
ネット上では、「2006年のCMとストーリーがつながっている」「シリーズCMに仕込まれていた伏線がすごい」などと反響を呼びました。このような反響を狙い、WebCMを制作したり、テレビ用に制作したCMでもWebで配信するケースも多く見られます。
また、映画「君の名は。」で演出・脚本を務めた新海誠氏が手掛けた作品として、大成建設のアニメCMも話題となりました。
このCMは、ベトナムのノイバイ国際空港でターミナルビルの建設工事に携わる一人の男性技術者の人生の歩みを描いたものです。シリーズとして制作されたこのCMはストーリー性だけではなく、普段立ち入ることができない大規模な建設現場を繊細に描いた美しい映像にも注目が集まりました。この映像美は、企業ブランディングや採用活動において、人々が建設現場に抱くイメージを変える効果もあったと考えます。