「どう売るか」ではなく「何を売るか」が本質
押久保:Amazonが自社店舗で、売り方ではなく売るものを突き詰めるというのは、裏を返すと既存の流通小売りでは「何を仕入れて売るか」ではなく「仕入れたものをどう売るか」に捕らわれている、ということですか?
吉松:そうです。「何を」のところにデータが活用されていない。
仮にメーカー担当者が、「@cosmeで競合商品の100倍評価が高い」と自社商品を流通に売り込んでも、バイヤーは決して100倍仕入れてはくれません。2倍もいかない、だいたい1:1のままです。なぜなら、@cosmeの登録ブランドは約3万あり、小売店のバイヤーが直接会うメーカー担当者の数より圧倒的に多いので、知らない情報が多くて判断がつきづらい。
それに、店頭回転率が勝負の彼らにとって、2倍仕入れると2倍売らないといけないので、経験上の根拠がないとやりません。で、その根拠は何かというと、メーカーが出稿するテレビCMのGRPだったりする。そもそもメーカーの生産量自体、広告予算も判断材料になりますよね。
押久保:完全に、売り手目線ですね。
吉松:そうです。この状況は、データに対する流通の意識が変わらないことには変えられません。だから僕らは、@cosmeのデータに即した店として2002年にECを、2007年に@cosme storeのリアル店舗を立ち上げ、追って2012年にECを始めました。
要は、ユーザーデータにどれだけ真摯になれるか。これはとてもシンプルな話ですが、ただし実現するのは商習慣などが障壁になって、相当に難しい。話が戻りますが、だからこそAmazon GOは従来の流通に劇的に差をつけると僕は思いました。あの規模で、ユーザーデータに完全に真摯な店を実現できるわけですから。
スマホはメディアではなくデータ収集ツール
押久保:スマホで決済できる、といった見方とはまったく違う見方ですね。スマホの登場も、潮目を変えたひとつの要素だと思いますが、どう捉えていますか?
吉松:もちろんインパクトがあったと思います。ただ、多くの人はスマホを「生活者が情報を得るデバイス」、つまり企業から常に情報を届けられる「メディア」だと捉えている。それは誤りではないものの、僭越ながらスマホをメディアとしてだけ捉えたビジネスは苦しんでいるのが実情です。いっとき、Webサイトを置き換えたようなアプリが数多く登場しましたが、WebにおけるSEO的な発想でアプリを増やしても苦しいだけです。
押久保:確かに、メディアはコストがかかりますからね。
吉松:そうです。僕は、アイスタイルはデータベースの会社だと考えているのですが、そのデータ屋からすると、あれは「ユーザーデータの収集ツール」なんです。スマホを見た瞬間に「あ、これからはデータドリブンな世界になるんだ」とわかった人は、同じように早くからデータの価値を活かしたビジネスを始めています。
だんだんデータの有用性が理解され始め、ビジネスの見方が変わってきました。だからテクノロジーによるゲームチェンジだけではなく、本質的なデータ活用を皆が理解した、キャズムを超えた瞬間こそが潮目だったと思っているんです。
押久保:なるほど。ここ数年、オウンドメディアでユーザーデータを収集してDMPを強化する話や、データを重視したビジネスや組織へのトランスフォーメーションの事例も増えています。データの価値に気づいた企業から、振り切った投資をしているのだと捉えていますが、その判断の速さは今後5年後10年後に大きな差を生むと強く感じています。
吉松:同感です。データの価値や、データドリブンが必然だということは、今はもう皆がわかっている。つまりゲームのルールが変わったことはわかっているのだから、後はそこに乗れるかどうかなんです。