日本ロレアルのデジタル化を推進
野村:来場されている方の企業の多くには、まだCDO(Chief Digital Officer)というポジションのあるところは少ないと思います。そこで最初に日本ロレアルの長瀬次英さんから、CDOの役割と職責などについてお話しいただきたいと思います。
長瀬:通常、CDOはWebサイトの運営や管理を手がけていたり、FacebookやTwitterの運用を担当していたりする組織のトップというイメージが強いですが、少なくとも当社におけるCDOの役割と職責は違います。
具体的には、マーケティングだけでなくすべての業務領域でのIT活用を一元化していく役割を担っている点です。現在、どの分野・業種の企業でもビジネスを加速していく上でさまざまなITソリューション、ツール、アプリの導入・活用が必須になっています。
また、クラウドソーシングの普及やAIの進化などを背景にこの流れは加速しているといえます。さらに、生産現場のオペレーションからリソースの確保や配置など、ITの力で解決できる課題はマーケティングの領域だけとは限りません。私は日本ロレアルが抱えている全ての課題に対し、ITの力でどのように対処できるかを考えています。
野村:では、もう一人のパネラーで、私と同じSprinklr Japanにて代表を務める八木より当社と今回のセッションの目的をお話しいただきます。
八木:Sprinklr Japanの八木です。当社はソーシャルメディアに特化したソリューションの提供を手がけています。本セッションの中で、私どものソリューションを活用して「CX戦略」を推進する日本ロレアルの取り組みを明らかにしていきます。
日本ロレアルの現状と課題
野村:では早速、長瀬さんにCDOに就任後行った取り組みについてお伺いします。まず何から手を付けたのでしょうか。
長瀬:現状認識・課題把握ですね。その結果、よくも悪くも「ロレアル」というブランド・ロイヤルティの高さがかえって社内の意識にマイナスの影響を与えていることがわかりました。
野村:というのはどういうことでしょうか。
長瀬:日本企業の多くでは「お客さまは神様」と言われますが、当社では「商品が王様」という認識が蔓延していたのです。そのためマスマーケティングが主流で、「個」を見ることができていませんでした。これだけソーシャルメディアが普及・定着しているにもかかわらず。
どの企業も「個」を無視できない時代になっているからには、私たちも原点である「個=お客さま」を意識したマーケティングのあり方へとシフトしていかなければいけないという危機感を覚えました。
野村:ITの導入・活用にあたっての一元化がミッションとおっしゃっていましたが、まずマーケティングのミッションから取り組んだわけですね。
長瀬:マーケタ―は「市場」を見ているわけですが、私のようなCDOは「個」を見ることが大事だと考えて動いています。
八木:ちなみに長瀬さんは、日本ではまだめずらしいCDOとして活躍されていることから、啓蒙活動を行う団体から表彰されたんですよね。
長瀬:まだ少ないからだと思いますが、一応、一般社団法人のCDO Club Japanから今年1月、「Japan CDO of The Year 2017」という賞を頂きました。
お客様第一主義を浸透させるために必要なこと
野村:商品が第一でお客様が無視されている実情と課題を知って、次に取り組んだことはなんですか。
長瀬:最初はCDOの「必要性」や「役割」を社内に説明し続けました。「商品が王様」というカルチャー、マインドを変えていくには自分が取り組むことの意義を理解してもらう必要がありました。
当社は、ブランドごとにマーケティングの部門があってマーケタ―が在籍しているんですが、お客さまの立場でものを考えるという姿勢ではなかった。それに部門ごとにお客さまを把握しているため、各部門で「サイロ化」が進んでいました。
八木:つまり、ブランドごとが独立していて情報共有や連携がうまくできていなかったということですね。
長瀬:その通りです。このままでは、お客さまが誰かを突き詰めているメーカーとの競争に勝てないと思いました。昨今では、聞いたことのない名前のブランドでも急に出てきて、一定のシェアを獲得できる時代になっています。
野村:それはなぜでしょうか。
長瀬:原材料や原料が簡単に調達できるようになったのが大きいですね。規模の小さなところでも比較的容易に商品開発できるようになっています。
そのため、ユーザーを的確に把握してニーズに応える商品を考えることができれば、一定程度の売上が見込める時代なんです。
大所高所からモノを見る経営陣にもわかりやすいSprinklrのインターフェース
八木:今回、「個」でお客様を捉えるため、当社のソリューションを導入いただいたわけですが、導入背景について教えてもらえますか。
長瀬:以前からソーシャルメディアを活用したマーケティングには将来性があると感じていました。多くの海外企業がカスタマーセンターなどを通して積極的にユーザーの「声」を蓄積してデータベース化していることも知っていたので、そういったツールがないかと考えていました。
八木:そこから弊社に日本ロレアルの現状と課題、Sprinklrをどう活用していきたいかをお話いただいて導入を進めましたね。
野村:先ほどの現状で、導入はスムーズに進めることができましたか。
長瀬:当社の役員の中には、ITやマーケティングをあまり理解していない方もいます。ですからプレゼンテーションのときは、そういった方でも理解してもらえる内容を意識しました。
八木:大手企業の経営陣で、ソーシャルメディアに理解のある方はまだ少ないですからね。
長瀬:自分でやってないからでしょうね、だからなかなか理解できない。でも、ソーシャルメディアは活用次第で大きな力を発揮することができます。
例えば、私どものブランドのアイライナーの先端を「丸くしてほしい」という声がお客様からあったそうなんです。販売の現場やカスタマーセンターでそういうニーズをいただいていても、担当者の判断でなかなか商品には反映されない。それが、Sprinklrの画面を見ればどれだけ大きなニーズなのかが一目瞭然なんです。
八木:カンファレンスでSprinklrのデモ画面を公開するのはMarkeZine Dayが初めてだと思いますが、ソーシャルメディア上で「言及」されているワードについて、その「内訳」「トレンド」「ブランドのセグメント」「ブランドの販売ファネル別言及数」などがリアルタイムで表示されます。
そのため、先ほどの長瀬様からあった「丸くしてほしい」というニーズがどれくらいあるかも確認できます。
長瀬:投稿が広くリーチしている上位ユーザー、会話の流れの表示もリアルタイムでできるので、ユーザーの「実像」がだれでも把握できます。それが私たちの認識とどれくらい差があるかもわかるので、イヤでもお客さまを意識せざるを得ないので、当社にはぴったりでした。
Sprinklrの活用で起きる変化
野村:Sprinklrを導入いただいて、日本ロレアル社内でのマーケティングのあり方や施策の方向性はどう変化しましたか。
長瀬:「ロレアル」や各ブランド名などのワードでユーザーのリーチ度合いが判断できる点がどの部門でも役立っているようです。ブランド別にプロモーションやキャンペーンを実施しているんですが、過去に応募したユーザーも把握できますし、これから応募したいと考えていることも会話の流れからわかる。これは担当者にとって欲しかったけれど手に入らなかった情報です。
この情報があれば広告や宣伝、プロモーションの手法を客観的に評価できますし、次の施策で改善するためのヒントやアイデアを見つけることにもつながります。
それに個々の会話の流れに「メモ」をつけて部門内はもちろん、他部門のスタッフに共有できる機能があります。この取り組みを続けていくことで、販売の現場やカスタマーセンターで保留されていたニーズを吸い上げていけると感じています。このソリューションを導入するだけで、何もしなくてもCRMを回していけそうです。
八木:Sprinklr導入のメリットは、新しいマーケティング施策のための情報の把握と理解にありますが、社内向けのマーケティングツールとしても役立ったということですね。
長瀬:その通りです。意識改革が行える上に、目指すべき施策のヒントやアイデアが得られるコミュニケーションプラットフォームとなっています。ですからスタッフ全員が常にお客様を意識していられるよう、グラフなどをリアルタイムで表示してオフィスの目立つ場所のモニターに映し出しています。
日本ロレアルのCDOがめざすユーザーエクスペリエンスとは
野村:長瀬さんが今後Sprinklrを活用して実現していきたいことを聞かせてください。
長瀬:Sprinklrの導入・活用により、SNSに点在する各ブランドへの意見やニーズを拾うことができるようになりました。今後は、この情報にカスタマーセンターや販売の現場で把握した情報を加えて情報の精度を高めていきたいと思っています。
また、「チャネル」というよりは「ブランド」起点でコミュニケーションを取りたいと考えています。お客様からすれば、どのチャネルで情報を受け取ったかよりも、どのブランドから情報を受け取ったかが大事だと思うので。Sprinklrで把握した情報の精度をさらに高めることができれば、よりブランドのメッセージが強く届くようになるはずです。
そして、店舗、あるいはECサイトへの誘導効果が実証されれば、どの企業もどのブランドも本気になって予算を確保して投入していくと思います。
八木:長瀬さんから、プロモーションやマーケティング向けのツールにとどまらず、今後はSprinklrが広告・宣伝のためのソリューションとして導入・活用可能という力強いエールをいただきました。私たちSprinklr Japanもその期待に応えられるようソリューションの機能・性能強化やサービスの拡充に努めていきたいと思います。
野村:本日は、有意義なケーススタディの紹介をありがとうございました。