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定期誌『MarkeZine』特集

ルンバ、新市場を切り拓いた マーケティングストーリー

IoT製品やスマートハウスへもいち早く対応

――当初日本市場では、セールス・オンデマンド社がiRobot社製品の国内総販売代理店としてビジネスを展開していましたよね。その後セールス・オンデマンド社からiRobot社製品販売事業を買収し、2017年4月にアイロボットジャパン合同会社という日本法人が立ち上がりましたが、それによって具体的にマーケティングや販売戦略はどのように変化したのでしょうか。

 日本市場のお客様の意見を迅速に取り入れつつ、今グローバルで進化しているスマートハウス化への対応に、いち早く対応できる開発体制が整いました。具体的には、昨年登場して話題を呼んだAIスピーカー対応などでは、国内競合に先駆けて、AmazonのAI音声アシスタント「Alexa」を搭載した「Amazon Echo」やGoogleの「Google Home」との連携を実現しています。元々米国で誕生したAIスピーカーを使ってルンバに動作を指示するというのは、実は技術的に非常に難しいことなのですが、今回AIスピーカーの市場登場と同時に対応できたのは、やはり日米両国に拠点を持つ両社と、開発チームを組んで取り組んだことが大きいと考えています。

ルンバが室内マップデータを作成する意義とは

――スマートハウスのお話が出たので、IoT対応全般についてうかがいます。最新版ルンバでは、スマホアプリ「iRobot Home」に新しく追加された「Clean Map」機能が使えるようになりました。これは、ルンバに搭載されたカメラやセンサーを使って家の中をマッピングし、どこを重点的に掃除して、どこが掃除できなかったのか可視化される便利な機能ですが、2017年には「このマップデータをユーザーの許可なく外部に販売するのでは」と一部で報道されました。マップデータをiRobot社に送る仕様があることから、懸念の声もありましたが、そもそもどのような目的でデータを収集しているのでしょうか。

 まず、「ユーザーの許可なくデータを外部に販売する」という報道は誤解に基づくものであり、そうした構想は一切ありません。マップに関しては、データを収集することが目的なのではなく、「家の中を動き回り、マップを作ること」それ自体に、将来のスマートテクノロジーをより便利にするという意義があると考えています。

 データ販売の記事が出てから、その後様々な媒体でも取り上げられましたが、ルンバのメリットのひとつに、「ルンバのマップが今後増えていくIoT家電のハブになる」という見方があります。人間が指示を出さなくても、気温が低い部屋にはエアコンを入れたり、暗くなってきたら照明を点けるといったように、ルンバのマップは、快適な空間をつむぎ出すハブとしての機能を持つ可能性があるのです。

 米国では現在、家庭内のWi-Fi強度の結果をClean Map上で表示する「Wi-Fi強度マッピング機能」の実証実験を行っています。これもスマートハウス化の一環として利便性を良くする一歩になると考えています。

ルンバによるWi-Fi強度マッピング機能のイメージ
ルンバによるWi-Fi強度マッピング機能のイメージ

――先ほどルンバとAIスピーカーとの連携のお話がありましたが、米国ではAIスピーカーとの併用もかなり進んでいるのでしょうか。

 個人的な話になりますが、米iRobot社の社員宅にいくと、当たり前のようにAIスピーカーを使って家の家電を統制しているので驚くことがあります。実際、米国の量販店ではIoTデバイスの専用コーナーが増えていて、自宅を模したデモも展示されています。日本ではまだAIスピーカーと連携している家電が少ない状況です。

 実は欧州でも米国でも、ルンバとAIスピーカーが連携したのは、AIスピーカーの登場から半年後のことでした。AIスピーカーの発売当初から連携できていたのは、実は日本だけなのです。この分野は今後も注目の的ですし、国内でスマートハウス化が進む日は近いかもしれません。

価格や技術訴求ではなく生活価値を重点に展開

――スマートハウスやIoT対応が米国に比べて進まない理由として、国内メーカーの対応の遅れも指摘されています。こうした背景を踏まえ、今後アイロボットジャパンは競合に対し、どのようなマーケティング戦略や販売戦略を考えているのでしょうか。

 国内メーカーの多くは、やはり自社のプラットフォームの上ですべてを連携したいと考えているのかもしれません。米国の場合、「いかに迅速にプラットフォーマーと連携するか」を考えます。もちろん、この分野の巨大プラットフォーマーが米国企業という背景もあるでしょう。

 当社としては、これまでと同じように、ロボット掃除機という製品カテゴリーの中で機能を高め、同時にIoTの発展についてもエンジニアリングを注力していきます。ただし、マーケティングメッセージとしては、こうした技術面だけを訴求するつもりはありません。また、価格競争に加わるつもりもありません。

 当社はあくまで「生活がどう便利になるか、楽になるか」という生活者目線での訴求をしていきます。そもそもロボット掃除機というものは、暮らしの中で価値を提供するものなので、テクノロジーのロードマップに沿いつつ、そのテクノロジーがもたらす暮らしの中の価値をしっかり伝え、市場を拡大したいと考えています。

――ロボット掃除機市場そのものの拡大を目指すわけですね。

 はい。市場自体、まだキャズムを越えたところに到達していないと思っています。ルンバシリーズは国内市場で200万台の売上実績があり、それなりの数値に見えますが、世帯普及率で言えばまだ4%に過ぎないのです。共働きや、子どもやペットのいる家庭ではそれなりに浸透していますが、それ以外の家庭はこれからの市場です。

 マーケットとしては、まだ96%も残っている。世帯普及率が10%を超えて、初めてキャズムを越えたと言えると考えているので、これまで同様、じっくり「ルンバがもたらす価値」を、あらゆるチャネルを通じて伝えていきます。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

市川 明徳(編集部)(イチカワ アキノリ)

MarkeZine編集部 副編集長
大学卒業後、編集プロダクションに入社。漫画を活用した広告・書籍のクリエイティブ統括、シナリオライティングにあたり、漫画技術書のベスト&ロングセラーを多数手がける。2015年、翔泳社に入社。MarkeZine編集部に所属。漫画記事や独自取材記事など幅広いアウトプットを行っている。
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※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/25 18:03 https://markezine.jp/article/detail/28264

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