市場をどう切り拓いたのか
――最初にルンバがリリースされたのは2002年9月でしたが、それまでは「ロボット掃除機」という市場自体は存在しませんでした。この状態から、どのように市場を開拓していったのでしょうか。
何か特別な施策を打ったというわけではなく、ロボット掃除機という商品が持っている商品メリットを地道にお客様に伝えることに注力した結果だと考えています。決して、かっこいいマーケティングを展開したわけではありません。
ただ、今振り返ると、ポイントはいくつかありました。第一に、新しいガジェットやおもしろい製品を探している層に向け、販売チャネルを絞ったことです。ルンバは、今でこそ家電量販店でも販売していますが、当初の販売チャネルは東急ハンズや百貨店などがメインでした。こういうところに集まるアーリーアダプターの方を中心に口コミが広がり、そこから販売網が少しずつ広がっていったのです。
第二に、販売網が拡大する中、日本導入後、早い段階でテレビCMを放映したことです。これにより、「自分で掃除をしないで、ロボットに任せればいい」というルンバの特性が大きく認知されるようになりました。
第三に、初期段階でPR展開に注力したことです。当初はルンバの商品知名度もなければ、そもそもロボット掃除機という商品カテゴリーへの理解もなかったので、雑誌やテレビの情報番組に取り上げていただき、商品認知度を高めていきました。
こうした施策を経て、ルンバという商品に興味を持って来ていただいたお客様に、対面で丁寧に製品の良さを伝えていったのです。これは日本ならではの取り組みだと思います。
価値をユーザー自身に発信してもらう
――もうひとつ、ユニークな取り組みとして「アイロボット ファンプログラム」というものがあります。この目的について教えてください。
今お話ししたように、ロボット掃除機の良さをいくら丁寧に説明しても、それを自分ごととして理解していただくには限界があります。そこで、まずはルンバを使っている方々にアプローチし、「ルンバが来て、こんなに生活が変わった」という実体験の声を集め、ルンバに興味のある方に伝えてもらうために始めました。細かい機能を伝えるのではなく、お客様の生の声やレビューを通じ、「ルンバと暮らす生活の良さ」を伝えることを目的にしています。

――具体的な施策内容を教えてください。
一例を挙げると、昨年のクリスマス前に、ペットのいるご家庭の方を募集し、オフラインのイベントを開催しました。ペットのいる環境でルンバがどのように活躍しているかを、実際のルンバユーザーに語っていただくとともに、ドッグトレーナーの方にも参加していただいて、ルンバと暮らす上でペットをどのようにトレーニングすればよいかのアドバイスもしてもらいました。
その時は「ペットのいる家庭」がテーマだったのですが、テーマは毎月変えています。たとえばテクノロジーに興味のある層に対しては、今後のIoT対応のようにテクノロジー色が強いメッセージを打ち出しますし、今回の場合は、ペットのいる家庭が、ルンバの存在によっていかに良い環境になったのかをメッセージとして発信しました。こうすることで、ロボット掃除機やルンバの良さを、自分ごととしてイメージしやすくなります。
私たちが伝えたいのは、「ルンバはこんなところも掃除できる」という細かい機能ではなく、ルンバがもたらすライフスタイルの変化や進化です。「細かいところが掃除できて良かった」ではなく、掃除が楽になることで生み出される価値や楽しさを知っていただきたいのです。ルンバを持っていない方々に、実際のユーザーがこうした変化を語ることで、製品に少しでも関心を持っていただき、「試しに使ってみようかな」と一歩踏み出してくれることを願っています。
――イベントやプログラムについては、オンラインでも展開しているのでしょうか。
現在のところ、対面での説明や共感をメインにしています。今後は、当社のソーシャルアカウントやオウンドメディアを活用し、ファンプログラムの情報発信に取り組んでいきたいと考えています。