SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

【楽天インサイト×キーパーソン対談】生活者の意識と行動を捉えるデータインサイトの未来(AD)

ブラックボックス化した生活者の意志決定 その解明に挑む新生・楽天インサイト

 2018年8月1日、楽天リサーチは「楽天インサイト」として生まれ変わった。これまで培ってきたマーケティングリサーチのノウハウを活かしながら、企業に生活者インサイトを提供し、同時にそれを元にした関係構築のコンサルティングまで手がける。このリブランディングを機に、楽天インサイトの田村篤司社長と事業企画部長の伴果純氏がアクセンチュアの加治慶光氏を訪ね、データ活用の課題と楽天インサイトの意義について語り合った。

企業のデータ活用における課題

田村篤司(以下、田村):ビッグデータはマーケティングにイノベーションを起こすと言われていますが、企業のデータ活用はまだまだ発展途上と言えます。

加治慶光(以下、加治):これだけ活用し得るデータがあふれているのに、思うような成果が上がらないと感じている企業は多いですね。

写真左から、楽天インサイト株式会社 代表取締役社長 田村 篤司/アクセンチュア株式会社 チーフ・マーケティング・イノベーター 加治 慶光/楽天インサイト株式会社 事業企画部 部長 伴 果純
写真左から、楽天インサイト株式会社 代表取締役社長 田村 篤司
アクセンチュア株式会社 チーフ・マーケティング・イノベーター 加治 慶光
楽天インサイト株式会社 事業企画部 部長 伴 果純

田村:本来なら、ビッグデータを元に生活者像やそのニーズが精緻にわかり、個々に適したコミュニケーションを図れるはずですし、それこそがマーケターが期待していることですが、実際にはデータの量があっても、それらのデータがそれぞれ断片的なことが多く、むしろ生活者の実像が見えなくなっているという問題が起きています。生活者の行動は多様化・複雑化する一方で、行動データがつながっていないので、生活者のカスタマージャーニーが描きづらくなり、購買の意志決定プロセスの理解できない部分、すなわちブラックボックスが増えています。

伴果純(以下、伴):また、企業の発信する情報への信頼も薄れています。一つの原因は、企業側と生活者側、それぞれが得られる情報量に差がなく、ややもすると生活者のほうが情報へのアクセス方法や情報の選別力に長けてしまい、企業側が生活者に対して情報優位性を持てなくなっていることです。

加治:いずれも同感です。加えて、企業にとっては現代のデータ四強といわれる「GAFA(ガーファー:Google、Apple、Facebook、Amazon)」とどう対峙するかも大きな壁になっている。2007年、企業の時価総額トップ10は主に石油会社が占めていましたが、2017年ではそれは様変わりし、この4社とアリババとテンセントが世界で膨大な情報を独占的に握るようになりました。

グローバル時価総額トップ10
グローバル時価総額トップ10

田村:生活者に関するデータは膨大に生成されるのだけど、ガーファーに独占されがちになっている。さらに、多くのマーケターにとっては生活者行動のブラックボックスが増え、生活者に対して情報優位性もないということで、厳しい環境になってきました。

加治:そんな中で、ガーファーと比較される存在でもある楽天。その一員の楽天インサイトはどのような立ち位置にあるのですか?

田村:そうですね、我々は情報を独占して企業と対峙するというのではなく、クライアント企業のマーケティングをデータ活用の観点からも支援していくことが本懐です。先ほど挙がった課題の解決を含め、クライアント企業を支援することを通じて、生活者と企業の間で本当に意味があるマーケティング活動が行われ、よりよい社会が築かれてゆくよう貢献したいと考えています。

データ活用の本質とは顧客創造

加治:なるほど。リサーチという手法を冠していた以前の社名から、そこから導き出される“インサイト”という言葉を据えたのは、御社が何を提供していくのかを示す統合的な判断だと感じました。ところで、この名前は、田村さんご自身が考えたんですか?

田村:はい。元々、私も加治さんと同じノースウエスタン大学のケロッグ経営大学院でマーケティングや経営学を学び、その後経営者として事業変革をしていくことを志して楽天グループに参画した経緯があります。5年前に入社した当時から、いずれ楽天ならではのアセットを軸にユニークな提供価値を打ち出したい考えはありました。当時はまだ、従来型のマーケティングリサーチ領域においてプロフェッショナルクオリティを極める余地があったのでそこから進め、その成果が明確に出ました。「インサイト」とは生活者の意識や行動の核心に迫る情報と洞察を意味する言葉です。従来型の手法であれ新しい手法であれ、手法にこだわることなく、本来的に社会に求められている価値を再定義して追求しようと思っています。

加治:ということは、機が熟したわけですね。データ活用の本質に迫られていないというクライアント企業の悩みと、ガーファー同様に多様なデータを保有する楽天の一員であるという事業基盤がある。これは楽天インサイトが飛躍する場が整ったことだと、私も思います。

田村:ありがとうございます。単にデータを広告や販促などマーケティングプロセスの下流において活用するだけでなく、マーケティングプロセスの上流、すなわち生活者実態把握や製品開発のアイディエーションなど、マーケティング戦略構築の起点のデータ活用部分から携わって、全体を意味ある形でつなげたいと思っているんです。そこまでカバーすることが、データ活用の本質を追求するうえで不可欠ではないかと。

加治:田村さんが考える「データ活用の本質」とは、どういったことでしょうか?

田村:そもそもマーケティングとは、第一に顧客を創造する活動であり、次にそのマーケティング成果の最大化を求める活動だと考えています。ですからデータ活用も本来、この二つを追求することが本質です。データを元にカスタマージャーニーを明らかにし、マーケティングプロセスの上流工程から活かせれば、効果的なターゲット設定や商品企画・コミュニケーション開発につながる。それは新たな顧客の創造、つまりニーズを喚起して新たな市場を育てることにつながります。ただ、最近ではデータによる即時の業績改善を図ることが測定しやすくなっただけに、ややもすると成果の最大化にばかり重きが置かれてしまっている。それは逆に、市場を狭めてしまいます。

伴:いわゆる“刈り取り偏重”ですね。その行き過ぎた活動は、生活者に広告に対する嫌悪感を抱かせる側面を生んでいるのも事実です。だからこそ、新しい視点で生活者像を描いて、新しい顧客を創造するようなアプローチをしたいというニーズが切実になってきていると思います。そして、新しい視点で生活者像を描くためには、従来型のリサーチデータだけでなく、様々な行動履歴データも活用したいというマーケターが増えてきています。

信頼を築くコミュニケーション設計

加治:何を買ったのか? どこで買ったのか? その結果と手段は、行動履歴データで把握しやすいですが、WHYの部分を捉えるのは難しいですよね。

伴:そうなんです。だから当社では、「行動履歴データ」をつないであらゆる分析を可能にすることに加えて、楽天リサーチとして培ってきたリサーチ領域の「意識データ」のアセットをもって、ちゃんとその理由をたどっていこうと。「行動履歴データ」と「意識データ」の二つが組み合わさることで、本当に役立つ生活者インサイトをクライアント企業に提供できるはずだと思っています。

加治:データ活用の本質について、お二人の意見にまったく同意しますね。一つ最近の潮流を付け加えると、今、ブランドにとって生活者からの「信頼」を得ることの重要性が非常に大きくなっています。その観点を抜きにして、もはや企業活動はできないでしょう。ここには2つの相反する力があります。一つは、ソーシャルメディアの浸透によって生活者の影響力が大きくなってきたこと。もう一つは、企業側も得られるデータの種類が増えて、生活者を観察する範囲や深度も広がっていること。この二つの間には、ある種の相互観察の関係が生まれています。

伴:相互観察ですか、興味深いご指摘です。

加治:たとえばペットボトルにチップが埋め込まれて、どのくらいのスピードで飲むか、なんていうデータも取得されるようになるかもしれない。そんな世界になったとき、生活者が喜んでデータ提供に同意するかどうかは、その企業が信頼できるかどうかとイコールになります。ですから、信頼感を形成するという観点はマーケティングプロセスのすべてに徹底されるべきなんです。今後、データを活用するマーケターにとって、その信頼形成をどう設計するかが最も難しくなるでしょうね。

楽天インサイトの二つのミッション

田村:そうですね、生活者のデータを活用するためにも、企業は生活者に対して、「信頼に足る企業である」と示し続ける必要がある。それはそのまま、現代においてはマーケティングの質を表します。すなわち質の高いマーケティングとは、生活者に信頼される企業活動である、と。これは業界の反省点でもありますが、誤ってクリックさせるような広告や、いつまでも追ってくる広告は、決して生活者が求めているものではありません。また、そのような広告を評価してしまうようなデータ活用では、なかなか信頼は生まれない。本来、マーケティング成果の指標定義自体が、生活者の信頼を得られるもので、データ活用はそこにつながらなければならないと思います。

加治:そうした問題を強く意識された上での、楽天インサイトへのリブランディングなのですね。具体的にどういうミッションを見据えていらっしゃるのですか?

田村:先ほどお話ししたマーケティングの本質、つまり「顧客の創造」とそれに続く「マーケティング成果の最大化」の2点に、行動データと意識データを活用したインサイト発掘をもって貢献していくことを柱として掲げています。私が2012年に楽天グループに参画したとき、楽天IDをシングルソースとしてグループ全体で極めて多様なビジネス領域をカバーしていることに驚きました。人のインサイトは、行動データと意識データの掛け合わせによって洞察できますが、両方の種類のデータが豊富にあるため、インサイトへの迫り方が非常にユニークです。楽天がカバーするデータ領域は実はガーファー各社よりも広く、さらに、ビッグデータに加えて国内最大規模のリサーチパネルも有しているため、独自性ある価値が提供できる基盤が揃っています。

伝統手法と新興手法のハイブリッド

加治:そこは私も期待するところです。御社のコンセプト図を拝見して特に興味を引かれたのは、左側の従来的なリサーチ手法に加えて、右側の行動データに基づく新しい分析手法の組み合わせで深い洞察が可能になるだろうという点です。

楽天インサイトが手がける領域のコンセプト図
楽天インサイトが手がける領域のコンセプト図

田村:そこに注目いただけて嬉しいです。ビッグデータとデータサイエンスの掛け合わせで新しい手法も発展していますが、一方で、インタビューやアンケートのように「人が人に聞いて深層心理を探る」というアナログな人間味のある手法でしか得られない“真理”も必ずあります。そういった部分は、我々が蓄積したコアアセットとして大事にしていきます。そうした意識データと、楽天IDを軸に得られるフルファネルの行動データを掛け合わせて、我々にしかできないユニークなインサイト発掘を極めていきます。もちろん、様々なデータを統合して示唆を出してゆくプロフェッショナル人材の価値も我々の強みとして大切にしてゆきたいと思います。

アクセンチュア株式会社 チーフ・マーケティング・イノベーター 加治 慶光

 青山学院大学経済学部卒業。富士銀行、東急エージェンシー・インターナショナル、レオ・バーネット協同を経て、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA修了。日本コカ・コーラ勤務の後、タイム・ワーナーで映画宣伝部長、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントで、バイス・プレジデントマーケティング統括などを歴任。日産自動車にて高級車担当マーケティング・ダイレクターを務める。2016年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会にエグゼクティブ・ディレクターとして出向。内閣官房官邸国際広報室参事官を経て、現職。文部科学省参与も務めている。

楽天インサイト株式会社 代表取締役社長 田村 篤司

 2002年に東京大学法学部を卒業後、米国系総合金融グループであるシティグループ(東京)に入社。シティバンク銀行及び日興シティグループ証券にて、主に投資銀行業務に従事。2009年ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA取得。米国系戦略コンサルティング会社であるブーズアンドカンパニー(東京)での勤務を経て、2012年に楽天インサイトに入社。楽天インサイトでは、分析組織の強化を進めながら、海外リサーチ事業の強化(海外10拠点)、ビッグデータ分析組織の設置や広告事業との提携などを手がける。2016年より現職。

楽天インサイト株式会社 事業企画部 部長 伴 果純

 米国系ビジネスソリューションベンダーのSAS Institute Japanにて、ビッグデータ分析業務に従事した後、日本コカ・コーラ、日産自動車にてマーケティングリサーチ及びグローバルマーケティング戦略策定を担当。MarketShare社(本社:ロサンゼルス)ではマーケティング投資配分の最適化、マーケティング・メディア戦略のコンサルテーションを提供。アダストリア(本社:東京、アパレル製造小売業)のマーケティング部部長、CRM部部長を経て、2017年より楽天インサイトへ参画。関西学院大学社会学部(社会心理学)卒業、滋賀大学大学院経済学研究科修了(経営学修士)。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2018/08/24 10:00 https://markezine.jp/article/detail/28489