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看板を外すに至るまでに30人で共有した危機感

――“圧倒的な危機感”という言葉が業界大手の御社から出るのは、意外にも感じます。今はECの浸透やキャッシュレスの発展などによって、カード会社の事業は追い風なのではと考えていたのですが、当時は厳しい状況だったと。

 厳しかったですね。出向の経験もあるのですが、3度目の出向先となる合弁会社では、最後に代表まで務めたんですね。ただ、30人ほどのその会社は、前述の厳しい環境に耐えきれず、合弁解消に至りました。

 最終出勤日にはオフィスの受付の看板を下ろし、皆で集合写真を撮ったり、関東財務局に廃業届を出しに行ったりしたときのつらさや淋しさは忘れられない。私や各社からの出向メンバーは戻る場所がありましたが、同社で雇用した方々には本当に申し訳なく、その後の勤め先の相談などできる限りのことをしながらも、やるせなさしかありませんでした。

 経営とは、1日で傾くものではありません。少しずつ外的要因や競合環境などの変化があって、それを乗り越えようと努力をするものの、だんだん打ち勝てない気配が濃くなってくる。30人ほどの会社だと、その危機感は本当に一人ひとりがひしひしと感じていたと思います。ただ、それが4,000人規模のクレディセゾンになると、なかなか同じようにはいかないですね。

――危機感を“自分ごと化”できない。

 そう、できないですよね。数十人規模だとお互いの仕事内容や進捗具合も細かく把握できますし、事業の全体像も把握できますが、4,000人ではどうしても業務が分断し、全体的な視点を持ちづらくなります。

 ただ、規模が大きくなったからといって、一人ひとりの仕事量やその重要性は変わらないと思っています。会社の規模によらず、もっと一人ひとりが自分の仕事の重要性を理解し、危機感を持ってそれにあたらないといけないと感じています。

デジタル全般を事業に活かし2つの事業を推進

――なるほど。磯部さんが現在率いているデジタル事業部の皆さんには、危機感の自分ごと化が浸透している?

 いや、実際、まだまだですけどね……。私にとって看板を外す経験は大きかったですが、それをいくら話しても、実際に経験していなければリアル感がないことだと思います。ただ、それでも言わないことには伝わらない。またフィンテックの進化によってまったく新しい業種からライバルが登場する可能性もあるので、それぞれの経験や現在の当社の状況や新しいテクノロジーについて常に情報共有しながら、一人ひとりの危機感を高めることが組織力の強化につながると思っています。

――では、セゾンDMPをリリースされてから直近2年ほどの展開と、組織改定を経て誕生したデジタル事業部のミッションをうかがえますか?

 前身となるネット事業部は元々、セゾンカードの会員データを活用して当社のマーケティングのデジタル化やネット領域の新規事業開発を進めてきました。ネット会員数とスマホアプリ「セゾンPortal」のダウンロード数をKPIに、直近ではセゾンDMPを通してCRMの強化と広告事業の展開、またIT技術と金融サービスを融合したフィンテック関連の取り組みを強化することを掲げていました。

 ネット事業部からデジタル事業部に改称したのは、既に現在でも扱う領域がネット関連に留まらず、ブロックチェーンやAI、また認証や決済に関するAPIなど、デジタル技術全般が範疇になっているので、その実態に合わせてのことです。

 主なミッションは2つあり、ひとつはデジタル技術を活用してカードビジネスをリモデリングしていくことです。従来のビジネスのやり方を、積極的に新しい技術を導入してどんどん変えていくつもりです。もうひとつは我々の有しているリソース、つまり顧客基盤を使って新しいビジネスを開拓していくことです。

キャッシュレス社会におけるカード会社の戦略

――ひとつ目のリモデリングとは、どういったことなのでしょうか? カード発行枚数と利用金額を増やすという従来のカード事業を変えていく?

 そうですね。背景にあるのは、キャッシュレスの拡大です。今、Apple PayやOrigami Payなど新しい決済方法が登場しています。これらはいわゆるプラスチックのカードを使わないだけで、クレジットカードが間に介在している仕組みですが、たとえば中国で普及しているAlipayやWechat Payは、クレジットカードを介さない仕組みです。スマホアプリに直接銀行口座をAPIで結びつけて、利用時に引き落とされる。もしこうした仕組みが日本でも広がると、我々は従来の事業ではとても立ち行きません。

 現状、キャッシュレスの動きは世界的に進んでいますが、サービスの拡大状況は各国によって違います。韓国だとキャッシュレス決済比率は約90%で、主軸はクレジットカードの決済。アメリカはクレジットカードとデビットカードが半々、ヨーロッパはデビットカードが中心です。

 ただ、日本はそもそもキャッシュレスが約20%弱と大変遅れています。この半年ほど、経済産業省がとりまとめを行っているキャッシュレス検討会に参加していたのですが、昨年設定した「2027年までに40%」という目標を検討し直し、世界最高水準となる「80%」を目指すと改めました。日本は治安が良く、ATM網も発達し、また現物の貨幣を貴重と感じる文化もある。しかしながら、少子高齢化が急速に進む日本では、キャッシュレスによるレジオペレーションの省力化は喫緊の課題です。

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小売りと決済が一体化すればデータ活用は進化する

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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2021/02/26 17:59 https://markezine.jp/article/detail/28622

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