チームの強さに依存しない接点を作りたかった
――動物園などは、野球とはまったく関係ないと思うのですが、野球ど真ん中ではない企画も志向されたのは、なぜですか?
チームの強さに依存せず、様々な形で来場者との接点を作りたいと思っていたからです。確かに試合の動員はチームの状態に影響される部分があります。でもそうするとチームが強いときは良くても、苦戦が続くと観客が減り、負のスパイラルに陥ります。もちろん、チームは日々勝利を求めて努力していますが、勝負事ですので、私たちはそれをコントロールすることはできません。事業側でコントロールできることとして、野球関連ではないコンテンツの充実や、野球のコンテンツでも順位に左右されないことを考えていきました。
話題化して少しでも興味を持ってもらい足を運んでもらう。さらに、リピートを促すというサイクルを作りつつ、試行錯誤しながらデータ整備と分析に着手していきました。それ以降は現在まで、随時データ分析をしながら施策に活かしています。
具体的には、まず来場者特性の分析から進めました。当然、基盤は我々のオフィシャルチケット購入サイト「ベイチケ」で得られるデータになりますが、他にグッズの購入傾向やその他の顧客動向のデータがばらばらで管理されていたので、それをまず同じIDで管理するようにしました。加えて、ファンクラブ会員を中心にどういうイベントが楽しかったかなどのアンケートを得て、企画に反映していきました。

アクティブサラリーマンをメインターゲットに
――当時の来場者データの分析から、導き出されたことは?
2012年から2013年にかけてどのような層のお客様が中心なのか、増えているのかを分析したところ、20代後半から30代の男性がその時点での来場も多く、増加も多いようであるとわかったんです。球場の雰囲気を見ても、そういった印象がありました。このくらいの年代の男性は働き盛りですが、仕事が終わってからは飲みに行ったり、土日もスポーツなど野外で過ごしたりと、アクティブな層が一定数います。我々はこの層を“アクティブサラリーマン”と命名して、特に増やしたいターゲットとすることにしました。
並行して、来場者にアンケートをとり、来場目的や生活スタイルなどを聞きました。そこでわかったのは、野球を観戦に来てはいるものの、試合内容やチーム情報だけでなく、野外で盛り上がる雰囲気を友人などと一緒に楽しんでいるという方々がいることでした。また、たまたま友達に誘われて、ビールを楽しむ居酒屋感覚で来たという人もいました。
ネット裏でプレーをじっくり観る人や、応援団並みに熱狂的な応援をするような人はもちろん大切です。ただ、音楽フェスやバーベキューなどの野外レジャーのひとつとして捉えてもらえれば、ぐっと裾野は広がります。同時に我々としても、レジャーや居酒屋感覚で気軽に来てもらえるような場所にしたいという考えが大きくなっていったので、当時の社長主導のもと「アクティブサラリーマンをメインターゲットにしよう」と大号令をかけて、施策に反映していきました。
――なるほど。当然、彼らは熱狂的な野球ファンよりは来場頻度は少ないかもしれませんが、それでも数が多ければインパクトが出ますね。
ええ。実際、その方々の来場は平均して年2、3回でしたが、根が「忙しくても楽しみたい」という積極的な人なので、友人や家族を誘ったり、また友達の誘いに気軽に応じたりと、輪が広がりやすい。そういった期待もあります。もちろん熱狂的なファンは大事ですが、そもそも全体で見るとそういった方の多い外野エリアのキャパシティは2割程度なので、残り8割の人がなんとなく楽しめる空気感や雰囲気が大事になってくることも実感してきました。そこで、そんな方向性で球場内の演出をしたり、イベントを企画したりするようになりました。
30代男性から波及して女性層、20代男女も増加
――来場者分析にはベイチケのデータを活用しているとのことでしたが、他にはどういったデータを取得しているのですか?
ベイチケに加えて、ファンクラブの会員情報やアンケートなども活用していますが、これらは一度我々に接点ができた方々で、意見がコア寄りになることもあります。なので、神奈川県内で定期的に、ある程度の有意なサンプル数でネット調査をしています。
ちなみに、チケットも以前は一般のプレイガイドの取り扱いのほうが多かったのですが、現在はオフィシャルに先行販売があり、いい席も確保しているので、ベイチケ利用が大半になっていますね。ファンクラブも割引があるので動員数に比例して会員が増えており、現在9万人弱で2011年に比べると13.6倍の規模になりました。このように、そもそも活用できるデータ基盤が拡大しているのは、データを活かしたマーケティングに大いにプラスになっています。
――なるほど。では、現在の来場者の特徴や傾向と、その把握のためにどういった調査や分析をしているのか、うかがえますか?
現在はここ数年の取り組みの成果もあって、30代男性のアクティブサラリーマンがボリュームゾーンになっています。おそらくそこからの波及で30代女性、また20代男女も増えてきています。調査は引き続き、来場者アンケートやベイチケ、ファンクラブ、また県内広域の調査などを実施しています。その中で、来場者の居住エリアの分析も進めているのですが、平日は横浜の南側から来る人が多く、土日は県外を含めて北側から来る人が多いですね。また、スタジアムから同じ距離でも、北側よりも南側から来る人のほうが多いです。生活動線によるのでしょうが、広告掲出には既にこの要素を活かしており、イベント設計などにもこの差を考慮することを検討中です。