TwitterとFacebookを目的に応じて使い分け
――デジタル施策はいかがでしょうか。
河尻:現在、SNS運用に力を入れており、TwitterとFacebookの2つに絞って展開しています。
Twitterは、更新頻度が高くても受け入れられ、かつ流れていきやすいので炎上しにくいという特性があります。そこで市役所の各課にもアカウントを公開し、それぞれの課の取り組みを発信してもらうツールとして活用しています。広報担当ではなく実業務を担当している課の担当者自身が発信するほうが、内容も良くなりますし、市役所の職員全体の広報力醸成にもつながります。
Facebookはブランディング重視で、コンテンツをじっくり読んでいただくことに焦点を当てています。マーケティング課では、プロモーション用のアカウント「moricom 森のまちに住む」(以下、moricom)と、市が事業として行っている「流山市フィルムコミッション」というアカウント、それにイベント用「森のマルシェ」という3つのアカウントがあります。Twitterとは異なり、担当者しか更新できません。そしてmoricomに関しては、タイトルに流山市というキーワードがなく、コンテンツ重視で読ませる投稿を上げ、ブランディング向上に努めています。
――なぜ「流山市」というワードを入れなかったのでしょうか。
河尻:流山市と入れると、市に興味がある人しか読んでくれない可能性があります。そうではなく、幅広い方々に読んでいただくことが目的です。
また、こうした投稿に関しては、地域の話題を取り上げる市民ブロガーの方にも見ていただきたいと考えています。私自身、ブロガーさんのブログを見て取材に行き、SNSのネタにすることもありますから。こうしたつかず離れずのゆるいコミュニケーションをしながら、ブランディングの醸成につなげたいと考えています。
定住人口を増やすプロセスに沿った施策作り
――そうしたSNSの情報を見た人に、どのような態度変容を期待しているのですか。
河尻:デジタルは、流山市に興味を促すための入り口です。その入り口の受け皿として、当市はイベントに力を入れています。
イベントの目的は、市民はもちろんのこと、「市外の方に、流山に足を運んでいただく」ことにあります。近年話題になっているのが、夏の間、水曜日から土曜日までの4日間、駅前にある森のような広場でお酒も楽しめる「森のナイトカフェ」というイベントです。昨年は5万人以上が来場しました。お酒を楽しみたいけれど外でなかなか楽しめないDEWKS世代の方に、「アトラクション付きでお子様と一緒に楽しく飲める」というコンセプトが受け入れられたのか、松戸や柏などの他市からの参加者もたくさんいらっしゃいました。イベントではSNSで企画した催しを実行するなど、市民の方々とのつながりも作っています。
これらはすべて、定住人口増加のプロセスに基づいて企画しています。まずは入り口として、流山市を知っていただくために、メディアリリースやポスター、SNSなどで情報を発信します。次に、実際に流山市に来ていただくための施策として、イベントがあります。ここで流山市の良さを実感していただき、次の「住む」フェーズにつなげます。このフェーズでは市の施策になり、先ほどの駅前送迎保育ステーションや教育環境、住環境の整備を各課で進めることになります。そして、私たちマーケティング課がそれをPRする。
マーケティング課では、「このプロセスを切らさない」プロモーションを重視し、各課が「この仕事は、定住者を増やすためのプロセスのどの段階にあるか」という意識を持って仕事を進めています。
藤原:当市では、消費者購買行動モデルなどを参考に、住んでもらうためのプロセスとして、ターゲットを「未認知層」「認知層」「興味関心層」「比較・検討、転入意向層」「住居購入・賃貸」「熱烈ファン層」「愛着・プライド」の7つに分けました。これに沿っていくと、広告ポスターは認知目的なので、未認知層や認知層の方向けに告知します。これを見て興味を持った方にはイベントに誘致し、流山の良さを知ってもらう。そして、住んでみたい人に対しては、ロールモデルになりそうな人を紹介します。こうして段階に応じて情報を出し、最終的には長く住んでいただくことを目指しています。
今年は河尻が中心となり、流山市に住んでいる方を紹介するパンフレットを4,000部作りました。住宅都市として最も重要な「人」にフォーカスし、その魅力を伝える冊子を、市民と一緒に作成したのです。と言っても、基本的な制作は有志の方が行い、市はサポート役です。冊子は今後、不動産企業を通じてマンション販売の場に置いていただくか、あるいは市民向けにイベントで配布することを考えています。

井崎:こういう取り組みがcivicpride(市を構成する一員としての自覚が芽生え、より良いまちづくりに貢献する意識)を醸成すると考えています。流山では行政主導による「市民参加」という時代が終わりつつあり、市民主体・行政参加という時代に入っているんですね。
実際、この10年間で、実際に人口は増え続けており、12年前は約15万人だった人口が、4月1日現在18万7,000人となりました。合計特殊出生率(一人の女性が15歳から49歳までに産む子供の数の平均)も、この10年間で35%増えています。マーケティング戦略を軸とした市政経営の成果が出てきたと思っています。
――最後に、今後の展望を教えてください。
藤原:市の認知度とイメージ向上もこれまで通りに進めていますが、流山市のブランド強化に主軸を移していきます。私たちは、これまで以上に住民の満足度向上やcivic prideの醸成にも注力し、それをブランド力強化に生かしていこうと考えています。これまで進めて来たイベントや情報発信の施策の継続と拡大はもちろんのこと、そのプラットフォームで流山市ブランドを具現化するコンテンツを展開し、ブランド力の強化に努めていきます。
河尻:私も同じ気持ちです。
井崎:今後、日本の人口減少はさらに加速していきます。流山市も、今の推計で言えば9年後にピークを迎えます。その後も、不動産価値を下げずに住み続けていただくため、子育て・教育・住環境の整備をしっかり進めることが重要です。これが、私たちができることで、それ以上は国の取り組みになるでしょう。今言えるのは、私たちがやるべきことは、定住人口も交流人口も増やし、地域経済を発展させることで、市民が末長く安心して住み続けられる「流山市」を作りあげることです。
