クリック課金型のテキスト広告として始まったAdSenseとコンテンツマッチ
杓谷:検索連動型広告の急激な成長が、業界の黎明期を支えた“予約型”のディスプレイ広告であるバナー広告の世界にも影響を及ぼしたわけですが、2003年にGoogleはAdSenseを、Overtureがコンテンツマッチを発表して”運用型”ディスプレイ広告を開始します。それぞれの仕組みを教えていただけますか?
アタラ合同会社 会長 佐藤 康夫さん
アタラ合同会社 シニアコンサルタント 鹿毛 比呂志さん
杉原:AdSenseもOvertureのコンテンツマッチもWebページの内容と連動して関連性の高いテキスト広告を掲載する「クリック課金型」の広告でした。
Webページの内容に連動した広告を出すためにはWebページの内容を解析してテーマごとに分類しておく必要があります。Overtureのコンテンツマッチは当初はとても原始的な仕組みで、Webサイトの内容を人の目で判断して分類していました。後にOvertureが検索エンジンのAltavistaを買ったのはこのWebサイトの自動解析も理由のひとつだったかもしれません。
佐藤:Googleは元々検索エンジンを作るために世界中のWebサイトをクローリングして解析していたので、分類が容易にできました。2003年5月には今の「Google Display Network(以下、GDN)」の前身にあたる「Google Content Network(以下、GCN)」にAdWordsから広告を配信することができるようになりました。検索連動型広告で培った「広告ランク」の概念もそのまま導入しています。
杓谷:今考えると信じられないことですが、GCN開始当初、AdWordsは検索連動型広告とGCNを分けて出稿することができませんでした。検索連動型広告とGCNを分けて配信できるようになったのは2005年です。この意図はどういうものだったのでしょうか?
佐藤:デフォルトでONになっていましたね(笑)。検索結果に出ているWebサイトをクリックすると、そこにもまた広告が出てくる。そういう感じだったのかなと思います。ユーザーを追いかけていく、という意図もあったかもしれません。この時点でGCNもコンテンツマッチも、これまでのバナー広告とは別物として捉えられていました。
レムナント枠(余剰在庫枠)の収益化として利用が進む
杓谷:AdSenseやコンテンツマッチの広告枠はどのように広がっていったのでしょうか?
佐藤:当時、ニュースサイトなどの大手パブリッシャー向けに営業をしていたのですが、レムナント枠(余剰在庫枠)の収益化を目的として広まっていきました。
トップページのバナー広告は自社の広告営業やメディアレップが管理して販売していたわけですが、下層のページは売りにくかったので、そこにAdSenseやコンテンツマッチの広告枠が貼られていくことになりました。パブリッシャー側からすると、自分たちが販売しづらいページビューを勝手に収益化してくれるので、メリットがあったと思います。
杉原:トップページとトップから中段くらいまでのページまでのバナー広告は売れていたのですが、最下層のページなどの在庫(ページビュー)はそれ単体では売りようがなかったので、収益化する手段が見つかって喜ばれましたね。
検索エンジンの普及によってユーザーの動きが変わりはじめた
佐藤:インターネットが普及しはじめた90年代後半は、Yahoo! JAPANなどのポータルサイトがインターネットの入り口だったので、ユーザーは基本的にポータルサイトのディレクトリから各ウェブサイトのトップページにアクセスし、Webサイトの中を回遊していました。
しかし、検索エンジンの利用が普及するにつれて、Webサイトのトップページを飛び越えて直接下層ページにトラフィックが流れていくようになりました。ユーザーの流入経路が変わってしまったわけです。
佐藤:この流れはパブリッシャーにとってはあまりありがたくない事態でした。収益の柱としていたトップページのバナー広告のインプレッションが増えていかないわけです。一方で、単体では売ることが難しい下層ページに大量のトラフィックが生まれていくことになりました。
杉原:梅田望夫さんの『ウェブ進化論』(2006年発売)がベストセラーになって「ロングテール」という言葉が登場してきたのも丁度その頃ですね。
