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インターネット広告の歴史と未来

DSP・SSP・DMPの誕生 リーマンショックを契機に人とお金が揃い、動的に広告枠を押さえる世界に


はたしてパブリッシャー側の収益は上がったのか?

杓谷:様々な試行錯誤と課題を残しながら、運用型のディスプレイ広告が立ち上がって現在に至ります。DSP・SSP・DMPが登場したことで、当初の目的であったパブリッシャーの収益は上がったのでしょうか?

鹿毛:オークションプレッシャーが高まったことで、収益はある程度上がったと思います。また、パブリッシャー側のアドテクノロジーへの理解や活用体制、レベルを引き上げたことに大きな収穫があったと思います。しかし、パブリッシャー側が期待する収益を生み出したかといえば、まだその取り組みの真っ最中、というのが正直なところでしょう。ある会社が提供していたサービスでは、パブリッシャーの収益を最大化する入札価格をシミュレーションする機能(入札応札が成立する上限単価を予測する機能)があったのですが、そこでの上限CPMで売れたとしてもパブリッシャー側が期待するCPMとはだいぶ乖離があったと聞いています。PMPやプログラマティックギャランティード、ヘッダービディングなど、ディスプレイ広告の収益を高め、広告主の期待に応えるソリューション提供への取り組みは、まだ発展途上であり、今後に期待できる余地は大きいと考えています。

モラルが問われるディスプレイ広告

鹿毛:また、DSP・SSP・DMPが発展するにつれて様々な課題も生まれてきました。

1. フリークエンシーのコントロール

鹿毛:2010年当時はDSPが乱立し、多くの広告主が複数のDSPを使用して効果を検証していました。その結果、しばらくして広告の過剰接触が問題となりました。DSPや広告媒体をまたいだフリークエンシーをコントロールしていなかったからです。

 たとえば、DSP(A)だけで一人のユーザーに1週間10回までを上限に広告を表示させましょうと設定しても、平行してDSP(B)やDSP(C)を使用していた場合、合計で10回以上一人のユーザーに広告が表示されてしまうケースがあったわけです。

杓谷:DSP・SSP・DMP黎明期にはフリークエンシーコントロールがDSP事業者側にも広告運用者側でも十分に管理できておらず、ユーザーにとって「しつこい」と感じるほど何度も同じ広告が表示されてしまったわけですね。

2. 個人情報に関わる問題

鹿毛:また、ユーザーが閲覧した商品が広告に表示される「動的リターゲティング広告」に対して、ユーザーは追いかけまわされているように感じ、果たして自分のプライバシーは保たれているのか? この会社は自分の個人情報は大切に扱ってくれるのだろうか? という不安を与えてしまう結果となりました。

 個人情報の広告への利用に関しては、これまでも何度か問題となっています。以前はブラウザ側でDNT(Do not Track)というデフォルトで広告配信のためのデータトラッキングを停止する機能のことが話題になりました。同じ課題が2018年5月から施行されたGDPR(EU一般データ保護規則)にもつながっていると言えます。

3. ブランドセーフティーの問題

鹿毛:さらに、DMPを活用することで、広告の配信方法が「枠」から「人」へ移っていったわけですが、広告主側からはどこの広告枠に広告が配信されているのかすべてを把握することが難しくなりました。

 たとえば、ニュースサイトで自動車事故の記事に自動車メーカーの広告が表示されてしまう、などが問題になってきます。また、暴力やブランド毀損リスクの高いコンテンツに広告が表示されてしまうことが普通に起こり得てしまいます。

杓谷:GoogleやYahoo! JAPANなどの大手のプラットフォーマーであれば広告枠が設置されているウェブサイトのコンテンツなどを、AIや人の手で審査する仕組みにしっかり投資をしてきましたが、ウェブサイトは日々生まれていくわけで、100%検知することは正直言って難しいと思います。

鹿毛:そういった広告主側の不安が、あらかじめ広告枠の品質を担保した配信先に限定するPMP(Private Market Place)やIntegral Ad Science社のようなアドベリフィケーション事業者が登場するきっかけになります。GDNやYDNでもディスプレイ広告を配信する媒体をホワイトリスト化して限定する動きが広がってきています。

4. アドフラウドの問題

杓谷:不正に広告の表示回数やクリック数を水増しするアドフラウドも問題になっていますね。実際にはユーザーが見ていないところで広告を呼び出して、水増し請求するなど、悪質な手口も広がっています。

 DSP・SSP・DMPによって運用型ディスプレイ広告(≒Programmatic display)が浸透するに従って、様々な問題も生まれてきました。広告主の要望に応えて広告枠をしっかり管理するために、Google広告(旧AdWords)やFacebookはDSPに開放していた広告枠を徐々に閉じはじめ、いわゆる「Walled Garden」と言われる「複占化」に向かっています。

 広告主・媒体・ユーザーの3社が納得するバランスを、広告運用者も含め業界全体で模索する必要に迫られていると言えるでしょう。

 DSP・SSP・DMPやの登場によって、運用型ディスプレイ広告のターゲティング方法が充実する一方、個人情報の広告配信への利用など、今日まで続く課題も浮き彫りになりました。ユーザー・広告主・パブリッシャーの3者のバランスを業界全体で今一度見直し、より良いインターネット体験、市場の健全化を推進することが求められています。

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この記事の著者

杓谷 匠(シャクヤ タクミ)

Jellyfish Japan株式会社 Data Strategy Director
2008年に新卒一期生としてグーグル株式会社に入社。2010年にスタートアップの立ち上げに参画したのち、しばらく川原でひざを抱える日々を経験。2013年からトリップアドバイザー株式会社にてSEMアナリスト、BIアナリストを経験したのち、20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/01/29 10:04 https://markezine.jp/article/detail/29214

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