コンテンツマーケティングの課題をデータで解決
生活者が膨大な情報に接している今、そのニーズを汲み取りながら企業の伝えたい情報を届けるコンテンツマーケティングの手法は広く使われるようになり、オウンドメディアの運営に熱心に取り組む企業も増えている。だが、実際にどういった内容なら響くのか、ユーザーの欲しい情報と企業発信の情報のバランスがわからない、最適な体裁を導き出せない、といった悩みが多く挙がっている。効果検証の指標もあいまいになりがちで、他のデジタル施策のようにPDCAを回していくことも難しい。
電通デジタルで企業のコンテンツマーケティングを支援している今井裕香里氏の元にも、こうした課題が多く寄せられているという。同社は、電通が昨年発表したマーケティングの統合フレームワーク「People Driven Marketing(R)」をベースに、電通グループが保有するデータを活用し、"人"基点でコンテンツマーケティングを統合・高度化するサービス「People Driven Content Marketing」を提供している。
前述のような課題は、「実はデータ活用によって思った以上に簡単に解決することが多い」と今井氏は話す。現状では、たとえばAIによるコンテンツの分析や、テキストマイニングを用いて、ユーザーに響く要素を抽出するといった方法があるという。中でも特別なツールや下準備なくすぐに始められるのが、キーワード基点のコンテンツ開発だ。リーチしたいターゲットを見定め、その関心事項に合致するキーワードを盛り込みながら商品やサービスの訴求に落とし込み、コンテンツへの満足度を高めて関心喚起や購入へとつなげる。
キーワードからコンテンツを開発する手法
では、キーワードを使ったコンテンツ開発とはどのように実践するのだろうか。ここからは仮想商材として、キッチン家電であるミキサーを例に、実際に今井氏が日々行っているプロセスが解説された。
はじめに、企業がどのようなコンセプトで商品を開発したのか、ヒアリングをしてテキストで可視化していく。ここでは、メーカーは「現代人の生活スタイルに合った機能性とデザインを兼ね備えたキッチン家電の開発・販売」を手がけており、このミキサーは「おいしさと健康を追求/素材の栄養素を活かした料理が作れる/オートメニュー機能を搭載している」といった特徴が挙げられた。
次に、この商品がどのような人に対して有効かを分析し、ペルソナ情報を策定する。まず現状把握として、アクセス解析ツールなどを活用し、現状で自社サイトやオウンドメディアに訪れている人を確認。また、各種の調査データやDMPを導入していればそのデータを使って、その人たちが普段どのようなメディアに滞在しているのかを抽出する。
「その上で、今回はどのような人に接触したいのか、デモグラフィック属性とメディア接触の2つの観点で詳しく設定していきます。ここでは商品のコンセプトや特徴を踏まえて『30~49歳の女性/関心領域は健康、美容、朝活など』とし、よく接触するテレビ番組や雑誌、Webなどもそれぞれ複数挙げました」(今井氏)。
対応すべき課題の優先順位を決める
その上で、ジャーニーの仮説を策定する。先ほど構築したペルソナを念頭に、商品認知から興味関心を持ち、比較検討し、購入して体験、また再購入するまでにどのような態度変容を経るかを書き出していく。「各フェーズにおけるユーザーの気持ちと、次のフェーズへの遷移を阻んでいる問題、そこでどういったコンテンツに接触すれば次のフェーズに移行するかなどを、チームでディスカッションしながらできるだけ具体化していきます」と今井氏。
そして課題を整理し、コンテンツでどの課題を解決するのかを特定して、訴求ポイントの優先順位をつけていく。仮にジャーニーを認知、興味関心、比較検討〜購入、再購入の4段階に分けると、別のマーケティング施策の進捗状況や、現状のコンテンツで解決することが困難な部分も見えてくる。そうした段階は除外した上で、今回フォーカスする課題を抽出していく。
「たとえば興味関心の段階で、ウェブサイトへのアクセスキーワードに商品特徴のキーワードが含まれていなかったら、商品の優位性を訴求できていないとわかります。また、せっかく来ている人の購入率(CVR)が悪かったら、購買の決め手に欠けることが推測できます。そこで、興味関心と比較検討〜購入の段階の態度変容に焦点を当て、まずミキサーのある生活を具体的に描きながら自社商品への関心につなげ、そのメリットを知ってもらって購入へ……という優先順位で訴求のポイントを決定しました」(今井氏)。
概要から記事構成まで詳細に企画書化
ここまできたら、実際のコンテンツの企画に落とし込んでいく。記事の連載・単発、動画といった企画のタイプから、想定タイトルと1コンテンツあたりのボリューム(情報量)、ターゲットまで明確にする。ポイントは、記事に含めるキーワード軸と、読了率や商品ページへの遷移といった評価指標までを、この時点で決めておくことだ。この2点によって、しっかりとユーザーニーズに応えて狙い通りの流入を実現し、またゴールを見据えながら制作を進めて事後の検証もできるようになる。
上記の項目に加えて、今井氏のチームではさらに記事中の小見出しや起承転結を詳細に記した構成まで立てているという。これらをすべて1枚のシートにまとめておく。
「導入に用いる内容、読後感といったコンテンツ接触後に残す印象、事実情報をどこまで網羅するのか……といった細かい部分まで見通すようにしています。実制作に取りかかる前にこれだけ可視化しておくと、現場の意識統一が図れます」。
ただ、この1枚をまとめるには、ユーザーニーズを詳しく調査する必要がある。それが続いて紹介された、以下のコンテンツ制作の4ステップだ。
・STEP1 ユーザーの検索行動から得たい情報の把握
・STEP2 展開可能な情報をフィルタリング
・STEP3 上位化されているウェブサイトから情報の共通項を見つける
・STEP4 ユーザーが満足する掘り下げ方とストーリーを検討
ターゲットが欲しい情報を検索から把握する
コンテンツ制作のステップのカギは、冒頭で紹介した「キーワード基点」にある。ユーザーの満足と企業が伝えたい情報の提供を高いレベルで実現するために、今井氏のチームで活用しているのが、「ユーザーの検索行動から得たい情報を抽出する」方法だ。
最初のステップで、それを実行する。ここでは「ミキサー」と検索して挙がった結果を元に、商品と親和性が高いテーマとなるキーワードを抽出。「レシピ/離乳食/オススメ(お勧めのミキサーを知りたい)/ダイエット」の4つが浮かび上がった。
次のフィルタリングとは、これらをコンテンツとして成立させることが可能かどうかを分類すること。上記だと、企業のオウンドメディアでは他社商品との比較検討が必要な「オススメを知りたい」ニーズには応えられないため、除外。以下、「レシピ」を軸にコンテンツを検討していった。
3つ目は「ミキサー」や「ミキサー レシピ」などで検索した際の上位化サイトを調査すること。「Googleのアルゴリズムは『ユーザーのニーズに応えている』ウェブサイトを評価する思想の下、そのウェブサイトを検索結果の上位に表示しているので、そこで語られている内容を知ることはユーザーを満足させるためにどんな情報を提供するのが良いか検討することに役立ちます。SEO目的というよりニーズの把握のために、ぜひチェックしていただきたいです」と今井氏は強調する。
これらのウェブサイトが共通してランキング情報を掲載している場合や、動画形式が多い際などは、採用を検討する。同時に、既に高く評価されている記事とこれから制作するコンテンツを差別化できるか、プラスアルファで自社ならではの要素を提供する余地があるかも考慮する。ここでは、自社のミキサーが搭載しているオートメニュー機能がそれに該当した。
オーディエンスとコンテンツの2軸で評価
そして、1~3のステップでわかったことを参考に、ストーリー展開とトピックの掘り下げを検討する。このように、検索を使って着実に情報収集をすることで、企画書に含めるキーワード軸を明確にでき、また記事構成も具体的に記していくことができる。
最後に欠かせないのは、施策の評価だ。通常は、オーディエンス軸とコンテンツ軸の2つで評価する。前者は、実際のコンテンツ接触者とターゲットとの適合率、ウェブサイト解析ツールやDMPデータで確かめること。ターゲットへのリーチや先に設定したペルソナとの適合率が目標値に達していたかどうかで、次の施策の方針を考えられる。
後者は、接触者の読了率や離脱ポイント、SNSでの広がりなど、事前に設定したKPIに参照してコンテンツ自体を評価する。態度変容に与えた要素を分析することで、次の制作への知見が得られる。「ユーザーアンケートなどの定性評価も有効ですし、検証用の記事ならヒートマップを用いて細かく見ていくと気付きが多いですね」(今井氏)。
検索結果からユーザーニーズを把握する方法などはすぐにでも使える手段なので、ここまで紹介した手順は非常に実践的といえる。だが同時に、コンテンツ制作は極めて具体性が必要で、随所でチームでのディスカッションや外部のデータ活用も重要だ。「内製するのが大変だ、という声も多いので、電通デジタルでは様々な第三者データや独自に保有するデータを最大限に活用した『People Driven Content Marketing』を通して、ターゲットとジャーニーの策定、コンテンツ制作までを一気通貫で支援しています」と今井氏。コンテンツマーケティングの成果が出ずに悩んでいる企業、またこれから取り組む企業は一助としてほしい。