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リゾームマーケティングの時代

土俵際の既存放送ビジネス、起死回生の鍵はテレビ同時配信/プログラマティックTV/マイデータにあり


テレビ広告の無駄撃ちをなくす発想

 既存のテレビ広告では、トヨタは1億円の広告費でこの12万人をターゲットにしている訳だ。これは、先ほどの資生堂の小出氏が「20代女性が総視聴者に占める割合は約10%なので」と発言していることと同じで、100万人のうち12万人以外は無駄撃ち、つまり、88万人には広告が届いたとしても響かない状況になっている(もちろん、ブランディング効果があることは否定しない)。

 プログラマティックTVでは、同じ広告枠を同時に見ている人であっても、属性に応じて、異なる広告を見せることができる。テレビ局は、プログラマティックTVで配信する技術的な費用などを上乗せして、リーチ単価を通常の広告配信の3倍に設定したとする。

 1億円で100万人のユニークリーチだと、リーチ単価100円。3倍なら300円だ。リーチ単価300円の条件で、対象者の合計12万人にだけ配信すると、3,600万円になる。要するに、テレビ局は、3,600万円の売上となるわけだ(広告代理店に手数料を支払うだろうがここでは無視する)。

 テレビ局は、100万人から12万人を差し引いた88万人にも、同様の方法で、他のトヨタ以外の広告主に既存のテレビ広告の3倍の単価で広告を売る。

 すべての在庫が売れれば、100万人のリーチ単価が300円なので、3億円の売上になる。テレビ局の売上は現状の放送では1億円だが、プログラマティックTVでは3億円になる。

 広告主(トヨタ)は、3,600万円でトヨタ・日産・ホンダのオーナーの合計12万人に広告を配信し、10%のコンバージョンレート、つまり10%がトヨタ車を購入してくれたとすると、1万2,000台が売れることになる。

 この人たちはマイデータ利用者なので、所有車情報が変更される。コンバージョンのトラッキングができるのだ。リーチからコンバージョン(購入)はもちろん、やろうと思えばその後のCRM施策まで、マイデータを利用することで、テレビ局はクライアントの支援ができる状況になり得る。

 現状の放送では、トヨタは1億円で100万人リーチを獲得するが、実際の対象者はそのうちの12万人。そのコンバージョンレートが同様に10%なら、1万2,000台が売れるのだが、ここでは1億円で1万2,000台を売る計算になる。

 そのほかの費用を考慮しないとすれば、プログラマティックTVでは3,600万円で1万2,000台を売るのに対して、現状のテレビ広告では1億円で1万2,000台を売ることになる。獲得効率はどっちがいいのか、考えるまでもない。

 さて、ここで、「そんなに広告主とテレビ局に美味しい話でいいのか? 勝手にオレの個人情報を使っておいて、自分たちだけ儲かればいいというのは許さないぞ!」と生活者が立ち上がるはずだ。これは、ヨーロッパがマイデータのビジョンを掲げてGDPRを成立させたのと同じロジックである。

 GoogleやFacebookなどIT企業は、クッキーやIDなどの個人情報を勝手に広告配信に使っておきながら、生活者にはその収益をまったく共有しない。

 テレビ局は、GoogleやFacebookと同じ穴のムジナになる訳にはいかない。テレビ局は、公共の電波を使うサービスでもあるため、国民から正当に支持されなければならない。

 そこで、トヨタの1億円のうち、3,000万円をマイデータ使用料として使う。これを、生活者(データ提供者)・媒体社(テレビ局)・データ仲介業者(マイデータ・インテリジェンスなど)でシェアする。それぞれ3分の1だとすると、1,000万円ずつだ。

 生活者は、マイデータ提供料として100万人で1,000万円。生活者一人当たり10円になる。「10円は少ないだろう!」とクレームがありそうだが、テレビを見れば見るほど、チャリンチャリンと様々な広告主経由で積み上がっていく。

 つまり、暇な時間に、同じ番組や映画をYouTubeやNetflix、Huluなどで視聴するくらいなら、結線されたテレビか同時配信端末で楽しんだほうがいいということになる。おそらく、このマイデータは放送ビジネス以外でも使われることを考えると、年間で5万~10万円ぐらいは普通の視聴者でも貯まるのではないか。

 ただ、気をつけないとならないのは、このモデルだとお金目当てで個人情報だけを共有してテレビを点けっぱなしにするという、フリーライダー的な生活者が出てきて荒稼ぎをする。だから、その防御策として、広告のフリークエンシーキャップを設定するなど、技術的に制御することになる。

 このマイデータ使用で、テレビ局も1,000万円売りが立つ。したがって、プログラマティックTVの3,600万円の売上に追加で1,000万円、合計でトヨタから4,600万円の売上になる。

 さらに、生活者はテレビを見れば見るほどお金をもらえるので、視聴者離れを食い止める力が働いて、視聴率が上がっていく好循環をつくれる可能性がある。結線されたテレビでも同時配信端末でも、他のネットサービスと同等の(あるいは、それ以上の)レベル感のコンテンツを提供している限り、競争優位性を維持できるはずだ。

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既存のテレビ広告とも併用できるアイデア

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/10/17 13:49 https://markezine.jp/article/detail/29377

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