プログラマティックTVという光明
資生堂でメディア統括部長を務める小出誠氏は、「プログラマティックTVが現実に テレビ広告の進化と未来」の取材の際に、プログラマティックTVへの期待を口にした。たとえば、以下のような発言だ。
「視聴率15%前後をとっているバラエティやドラマなどは、大体オールターゲットで全年代と男女が均等に含まれると明確にわかってきました。20代女性が総視聴者に占める割合は約10%なので、ターゲット視聴率は1.5%になります。<中略> 理想はターゲットのみに配信したいですが、画面の向こうにいるのが男性なら当社においてもメンズ化粧品の広告が流れるという男女の出し分けだけでも、広告費の半分を有効活用できます。
デジタルで行われているターゲティングに近いことがテレビでできれば無駄がない、というのが、やはり最終結論ですね。デジタルも、閲覧サイトなどからのターゲットの類推などを含むとブレもあると思いますが、響く人が約10%しかいないという状況と比べると大きな違いです」
資生堂の小出氏のように、広告主の間では次世代のテレビ広告への期待は高い。仮にリーチ単価が上がっても、効率が良ければ高い値段で広告を買うという意見は多い。つまり、同時配信とプログラマティックTVを組み合わせれば、単価が上がって、テレビ局も儲かるとみている人は意外と多いのだ。
一方で、テレビ局の人たちにプログラマティックTVの話をすると、広告単価が値崩れするのではないかと懐疑的な人が多い。
ネット広告と同じようなビジネスモデルでプログラマティックTVの領域に足を踏み入れても、GoogleやFacebookなど技術的に優位な企業と横並びになってしまう。コンバージョン効率で対抗できなければ、単価が値崩れすると懸念する。それは、もっともな意見だ。
ただ、今のペースで視聴率が落ち続けるなら、収益は悪化する一方だ。既にリーチ数が減少している訳で、認知やブランディング目的でテレビ広告を利用する広告主も減少している。
逆にいえば、テレビ局は、リーチ数を維持しながら、コンバージョン効率を上げることができれば、かなり優位に立てるはずだ。というのは、コンテンツパワーはまだまだ強い。さらに、GoogleやFacebookがやっていないビジネスモデルで、かつ、そう簡単に彼らが参入できない環境を構築できればベストだ。
私は、そのキーになるのが、マイデータとGDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)だと考えている。マイデータについては前回の記事で書いた。ここでは、マイデータやGDPR、プログラマティックTV、そして、リゾーム化社会などについて、理解のある前提で、テレビ局がどのようなビジネスモデルを構築していくべきか、私の考えを提示してみたい。