5年で辞めるつもり、が180度変わった
西口:今回は、僕のP&G時代の同期である石谷さんを訪ねました。UCC上島珈琲の東京本部におじゃましていますが、アカデミーやカフェも併設しているんですね。
石谷:そうなんです。上島珈琲店の中でもここは昨年にリニューアルした新コンセプトのお店で、すべてハンドドリップで提供しているんですよ。
当社はメーカーや飲食や商社の機能など、様々な事業を展開していますが、なかなかコーヒーだけを一気通貫で手がける会社はないので、私も今その奥深さを感じているところです。トップをはじめ、皆すごくコーヒーに愛があることも、ジョインした大きな理由ですね。
西口:UCCさんのお話も後ほどお聞きしますが、そもそも石谷さんがこんなに長く仕事を続けて、役員にまでなるようなイメージが全然なくて(笑)。若手のころは5年で辞めるとか言ってなかった?
石谷:そうですね(笑)。5年目くらいでブランドマネージャになったので、もしもその前に結婚して子どもが生まれていたら、迷いなく辞めていたかもしれない。結局26年、勤めたんですよね。西口さんからロート製薬に行くって聞いたとき、私は東京でペットフードを担当していて、神戸に戻るかそれとも海外かという選択でアメリカを選んだところでした。
西口:それ、本当に驚いたんですよ。まずは、そんなにキャリア志向じゃなかった石谷さんが、どうしてお子さん2人を連れて米国本社勤務までするような道を進んだのか、その変遷からうかがいたいと思います。今お話にも挙がったけど、やってみたらブランドマネージャーの仕事がおもしろかった、ということなんですか?
石谷:それはもちろん、ありますね。
小さい失敗を重ねて成長していける仕組み
西口:最初に担当した商品、なんでしたっけ?
石谷:今はもう売却してしまったけど、赤ちゃんの哺乳瓶消毒材の「ミルトン」でした。他のブランドに比べるとすごく小さくて、だから上からあれこれ言われることもなく(笑)、若いなりに自分で考えて進められた。
規模は小さくても、やはりPLの責任をもって年間計画を組んで、決断して提案して承認されて、というプロセスはすごくおもしろかったんです。ブランドマネージャーに昇進させてもらって、初めて部下をもって育てるという経験も、やりがいがありました。
西口:今考えると、20代後半でPL任されるって、すごいことだよね。
石谷:それも、小さいブランドからというところが大事で。小さい失敗をさせてもらいながら、徐々に責任が大きくなっていく仕組みができているんですよね。責任といっても、ファイナンスや営業のベテランがちゃんとサポートしてくれる体制もある。
ただ、それも「こういうブランドを作りたい」という戦略やビジョンがこちらにないと動いてくれないので、それも含めてうまくできているなと思います。
西口:自分のブランドの魅力をアピールして、大きいブランドとの社内コンペに勝って投資を得ないといけないですし。完全にベンチャーの考え方ですよね。で、そのおもしろさで、辞めなかった。
石谷:そうですね。そのころ結婚して、その後に夫が東京に転勤になったんですが、私はまた次のブランドにすごく注力していたから、ひとまず別居生活を選んだんですよ。そうしたら夫の転勤を私の上司が周囲から聞いて、「どうするの?! 辞めないよね?!」って。