未来に生き残る道への渇望が原動力に
――BtoB企業では、そもそも営業など他部門や経営層にマーケティングへの理解がないという話をしばしば耳にします。御社ではそういったことはなかったのですか?
それは、なかったですね。元々経営層はじめ社内に「マーケティングを強化すべき」という認識はあり、その推進役として私が来た格好でした。市場にアンテナを張って情報収集し、次の一手に活かすことを一般的にマーケティングインテリジェンス活動といいますが、当社だとマーケティングインテリジェンス活動の他に、技術系と新規事業開発系のインテリジェンス活動がありました。現場ではわざわざマーケティングと呼ばずとも、活動自体はしっかりやっていました。ただし、我々は市場を広く見る一方で時間軸は短く、逆に技術系だと領域はピンポイントでも時間軸が長いなど違いがあるので、現在は横断的な会議で各自の活動で得た気づきを共有しています。
コーポレート部門にマーケティング機能を統合
――御社は企業のデジタル支援を事業のひとつとしながら、自社のトランスフォーメーションも進め、今年4月にはマーケティング組織を再編されました。この3年の歩みをうかがえますか?
前述のように、私が来た時点でマーケティングを強化する具体的なニーズがありました。ただ、各事業に機能が分散し、個別最適化が進んでいたため、同じマーケティング職でも認識や言葉の意味にズレがありました。BtoC事業も持ち全盛期で売上高5兆円規模の事業体だったときは、たしかに事業のバラエティから考えて個別最適化が有効だったのでしょうが、BtoB企業にトランスフォームするには、マーケティングの定義から立て直して統一する必要がありました。
ただ、統一といっても簡単なことではありません。組織再編も見据えていましたが、組織を動かすのはそれ自体が目的化してしまうこともあり、怖いんですね。本来の目的は、皆の意識を統一し、マーケティングをずっと高いステージに引き上げて、NECの目指す姿に近づくこと。そのコンセンサスをとるのに2年をかけ、実際の再編に漕ぎ着けた形です。具体的には、各事業部のマーケティング機能を統合し、コーポレート部門にマーケティング戦略本部とIMC本部を設置しました。大まかに言うとマーケティング戦略と施策を担い、連携して業務を推進していきます。

リード獲得と育成の仕組みはほぼ完成した
――再編してまだ半年ほどですが、変化は見えてきましたか?
そうですね。マーケティングはどうしても左から右へと流れ作業で業務が進みがちなので、部門が分かれていたころは次工程の人の業務がイメージできていなかった部分がありました。それがひとつになって、自分の前後の業務がわかると相手の立場になれるので、仕事の仕方が変わりますよね。相対する他部門とのやり取りでも同様で、仕事を過度に切り分けず、マーケティング側が柔軟に対応しよう、と。結果として全体のスループット(処理能力)が上がったと思います。同時に、マーケティングはやはり少々専門性があるので、以前は事業部内での小さな人事異動に留まっていましたが、視野を広げ経験値を積むために、今ちょっと大きくローテーションしているところです。
――では、対外的なマーケティング活動についてうかがいます。御社はオウンドメディア『wisdom』を長く運営され、ABMやインサイドセールスの取り組みも進んでいるそうですが、全体としてどう動いているのでしょうか?
従来のBtoBマーケティングは、成約をゴールとするファネルをいかに狭めずに効率的に誘導するかがセオリーでした。ですが今、当社が重視しているのは、その先の関係構築です。我々のソリューションをいわゆる売り切り型ではなくサービス化して、リカーリング型やサブスクリプション型のビジネスモデルを構築していく。顧客の課題に即したプラットフォームの提供、あるいは顧客とともに価値を共創して、そこでの我々の支援に顧客が満足し続ける限り、関係が続く。これは直近2020年に向けた事業戦略の柱のひとつでもあります。

