APIとRPAで業務効率化が進む
――API公開ありきのビジネスだったんですね!

そう言えますね。1社のAPI公開が、周囲のAPI公開を牽引しているような例もあります。不動産登記簿情報のビッグデータを提供しているトーラス様は、法務局のオープンデータである登記簿情報をデータベース化して蓄積し、銀行や不動産会社がまとめて使いたいときに情報取得を代行しています。今、同社はこれをIBM API Connectを使ってAPI公開しているので、銀行側もAPIを開いてシステム化すれば、この業務が非常に効率化します。
昨年と変化がないデータを買うとか、他部署とのデータ購入の重複も避けられます。最近RPA(ロボティクスプロセスオートメーション)が大変注目されていますが、融資担保物件の審査などの手作業も、RPAで自動化し、審査判断にAIを活用し、プロセス全体をBPM(ビジネスプロセスマネジメント)でコントロールすれば、外部APIとの親和性が高くなり大きな効率化が望めます。なので、トーラス様のAPI公開によって銀行のAPI公開がさらに進んで行く可能性が増していますし、同じくIBM API ConnectでAPI公開した地図情報のゼンリン様とも、データの親和性から空き地、空き家の情報連携が進みつつあるそうです。
登記簿情報を継続して分析することで相続の発生を適切に検知して、銀行などは相続税対策のコンサルをすることもできますし、土地の売買の状況から富裕層に対する営業戦略を立てることにも使えます。登記簿情報はオープンデータなので誰でも入手可能なため、不動産データのAPI化は様々なビジネスでの使い道がありますね。
――なるほど。逆に言うとオプトインがあれば、いろいろなシーンで柔軟な提案ができそうですね。
そうですね。その前提で、複数業界の連携も始まっています。今、ユーザーとのより親密で継続的な関係構築を目的に美容や健康機器でもIoT化が進んでいますが、このようなデータを多様な企業が連携して新たなビジネスにつなげるためにもAPIは標準技術として活用が期待されています。たとえば医療・健康機器を使って健康が向上している、筋肉が増えているなどの変化が数値でわかれば、ユーザーのやる気も出て継続使用しやすいし、各ユーザーに適した化粧品やサプリ、健康食品をタイムリーにお薦めしたりできますよね。さらに医療のビッグデータを有する機関とのデータ連携も可能性があると思います。健康に関するデータを主軸にいろいろな提案が実現しそうです。
課題はオプトインの理解促進個人の意識の向上が必要
――海外ではもっと進んでいるとのことですが、どんな事例が?
最近だと、FinTechからTravelTechなどに発展している例が興味深いですね。スペインの銀行BBVAは、国内でクレジットカード文化が浸透して1ユーロのコーヒーもカードで買われていることから、今どこで決済が発生しているかを分析し、そのデータをAPI公開したんです。ある開発者がそこに注目し、「Qkly」という旅行アプリを作り、決済が集中している場所データを参考に「この時間はピカソ美術館は混んでいるから他へ行くほうがいいよ!」などと教えてくれるサービスを始めました。今、日本の銀行は口座照会APIだけではプラスのビジネスは生まれておらず、むしろ開発費がかかっている状態が悩みなので、参考になると思います。
またアイスランドのFinTechアプリは、元々は個人資産管理アプリだったものが異業種とどんどん連携して、同じような年収の人はこのくらい外食していますよ、とレストラン予約をキャッシュバックキャンペーン付きで提案したり、旅行資金目的の口座の額に応じて旅行のスペシャルオファーをしたりしているんです。完全にパーソナライズした提案がちょうど良いタイミングで送られてきたら、忙しい人などには嬉しいサービスですよね。日本での実現も、技術的には可能です。お金の動きからライフステージの変遷も推測できますから、ローンの提案などもできそうですね。
――なるほど、そうしたプッシュはMarkeZine読者なら皆さん興味を持たれると思います。逆に、この先の発展への課題は何でしょうか?
GDPR(EU一般データ保護規則)も話題になりましたが、やはり個人のオプトインの意識が重要だと思います。特に日本では、FinTechアプリ含め社会的にデータセキュリティの不安を感じることが少なかったため、個人のデータは自分がオーナーだという意識が薄いところがあります。前述のように、今は金融庁が銀行のAPIを使う事業者を管理しているからいいですが、もし海外から有象無象の事業者がアプリを流通させ始めたら、知らずに利用して騙される人も出てくるかもしれません。
そこはもっと個人の側がリテラシーを高めて、信頼に足るサービスかを自分で注意深く判断することが必要です。なので今後は技術面ではなく、教育や啓蒙を通したデータ活用の社会的な理解と成熟が発展のカギになりそうです。