エリア別のテレビCM接触と販売データから見えた仮説
続いて、新商品のテレビCMを題材として、エリア別のテレビCM接触データと販売データを使用したテレビCM効果について検証してみましょう。まずは、エリアを全国として、新商品の販売データを商品間で比較してみます。2018年の同時期に発売された、4つの既存アイスクリームブランドの新フレーバーについての比較が図表2です。

4つの商品のうち、テレビCMが投下されていた商品はaのみです。aの販売金額シェアはテレビCMを投下していない他の商品を上回っていますが、商品bとの差はさほど大きくありません。なお、販売店率はbのほうが若干上回っています。デジタル広告やオフライン広告への接触、ブランド間の認知率の差など様々な要因で販売金額シェアが左右されると考えられますが、ここではテレビCM接触と販売に焦点をあて、エリア別にデータを確認することでテレビCMの効果について考えます。
発売日から1週間における、商品a、bそれぞれの販売金額および商品aのMG-GRPをエリア別に図表3-1にグラフ化しました。なお、商品aとbの発売日は同日であり、データ集計期間も同じです。
ここで、MG-GRPと販売金額の関係を見てみますが、エリア間で人口に差があるため、MG-GRPと人口1万人あたり販売金額の散布図を図表3-2に示します。

(右)図表3-2 商品aのMG-GRPと人口1万人あたり販売金額の散布図
人口は、総務省統計局の平成27年国勢調査の数値を使用しました。図表3-2では、MGGRPが大きくなるほど、商品aの人口1万人あたり販売金額が大きい傾向が見られ、テレビCM投下量と販売金額に相関があると考えられます。
続いて、図表3-1において見られる、エリアごとの商品aとbの販売金額の差について、販売店率の観点から考察します。まず、商品aについてMGGRPと販売店率を図表4-1の散布図にプロットしました。

MG-GRPが高いエリアほど、販売店率が高い傾向があり、前述のメーカーと小売店との商談において、テレビCMの生活者への訴求効果に期待した小売店の割合が多いことが推測できます。なお、必ずしも販売店率が高いエリアで人口あたりの販売金額が高いわけではなく、テレビCM投下量と販売店率が複合的に販売金額に影響していると考えられます。
続いて、テレビCMを投下していないものの、商品aと遜色ない販売金額シェアを獲得していた商品bとの比較を行ってみましょう。各エリアの販売店率差(aの販売店率−bの販売店率)と販売金額差(aの販売金額−bの販売金額)の散布図を図表4-2にプロットしました。

こちらの散布図から、販売金額差が大きい上位3エリアである近畿、中国、東海エリアでは、販売店率差が正の値となっており、その他のエリアは販売店率差が負の値となっていることがわかります。つまり、販売店率でも商品bを上回ったエリアではテレビCMとの相乗効果で販売金額に差をつけることができ、販売店率で商品bを上回ることのできなかったエリアではそこまでの差をつけることができなかったと推測できます。
以上のように、エリア別にテレビCM投下量、販売店率、販売金額を確認することは、短期的なテレビCM効果の検証、およびエリア別の追加施策検討のため有用な情報であると考えられます。たとえば、GRPが低いエリアは、紙広告、デジタル広告での補完を行うことが有効と考えられます。GRPが高く、販売店率が低いエリアは、営業施策の改善が課題として考えられます。短期的に検証を行うことで、迅速な改善施策の実行が可能となります。
テレビCM効果の可視化の先
本稿では、テレビCMの効果の可視化を目的として、テレビCMが販売に与える影響を考察しました。テレビCM投下GRPと販売店率、販売金額の関係について、トレンドやエリア別データを確認することで、課題や仮説が見えることがわかりました。このように集計値同士を比較するだけでは、テレビCM接触と販売の明確な因果関係まで明らかにすることは難しいですが、検証および改善スピードの点で優位性があると考えられます。従来の広告効果測定手法と比較すると、シングルソース分析を利用する場合よりもデータ収集が簡易であり、マーケティング・ミックス・モデリングのような高度な分析手法を用いることもなく検証が可能です。連続的にトラッキングできる環境も整ってきているため、自動化を進めることでリアルタイムに近いスピードでの施策改善を行える可能性があります。データによりテレビCMの効果を多角的に可視化し、改善のためのアクションにつなげやすくすることで、テレビCMをより効果的に活用できるのではないでしょうか。
▶調査レポート
「テレビCMの効果はどう可視化できる?販売データとの関係性」(Intage 知る gallery)