マス広告と同じレベルで信頼できるものなのか
――なるほど。特に、この数年でブランド企業が積極的にデジタル広告を使うようになっていますが、ブランド広告主として気づくことなどもあったのでしょうか?
確かに、そもそも「1,000万インプレッションに広告配信した」と言われても、本当にその数字が出ているのかなという疑問は以前からあり、マス広告と同じレベルで信頼できるのかというのは個人的にも気になっていました。
――では、アドベリフィケーションの現時点での進捗をうかがえますか?
まだ模索中というのが正直なところですが、それでも「ブラックリスト」をもとに排除する方法から、「ホワイトリスト」への出稿に絞るという方針へ切り替えたことは、現状でも一歩前進したと言えるかもしれません。
ツール導入当初は、ブランドリスクのあるサイトを検出し、それを次の出稿サイクルから外すというPDCAを回して、徐々に良質なサイトへの出稿率を高めていっていました。ただ、このように「悪質なサイトに出てから検出する」状態だと、ユーザーの目に一度は触れている可能性が高いわけですよね。加えて、次々と新たに出てくるので全体的に数値の揺れがあり、配信ネットワーク間の比較もしづらい。半年ほど運用しながら部内で議論を重ねる中で、そもそも一度でも触れているならブランド毀損の許容になっているのではないか、一度も出さないことが本質なのでは、という議論が起こりました。
ブラックリスト除外からホワイトリストのみ出稿へ
――確かに、出稿をもって悪質なサイトを検出するとなると、そのテストのために一度は出稿することになりますよね。ブランド毀損にもなるし、広告費を無駄にしていることにもなる。
そうなんです。ブラックリスト除外方式で、悪質なサイトへの出稿が仮に100分の1であったとしても、1,000万インプレッションの1%だと10万インプレッションも出ていることになる。これは相当大きな数字です。
この議論はもっともなので、8月に「ホワイトリストのみに出稿する」方針で進めることにしました。これは経営陣とも合意しており、会社として舵を切っています。ひとまず、そこまでの半年強の運用を通して安全だとわかったサイトのみに出稿し、今後は出稿して検出するのとは違う方法で安全性を見極めたサイトを順次追加していく考えです。
――PMPなど、プレミアムな配信先のみをネットワークとしているような場合は、そのままリストに入れられますか?

完全にそのままということではありません。PMPの基準が当社の基準に合致していればという注釈が付きます。ただ、そういうパートナーと優先的に組むというのも、ひとつの手だと思います。ちょうど9月に、ヤフーがアドフラウド対策強化の一環として、安全性が確認できないサイトへの広告配信を一時的に停止すると発表しました。これは素晴らしい、英断だと思います。
ホワイトリストのみへの配信に限ることで、当社も一時的に配信先は限られてしまいますが、冒頭で申し上げた「広告」本来の目的を考えると、現状で採用すべき最善の策はこれだろうと判断した次第です。
どの問題の解決が優先か自社における見極めが必要
――アドベリフィケーションを進める上で、どういった観点を重視されているのでしょうか?
先ほど、ブランド広告主の出稿が増えているとご指摘されましたが、まさにその目的を考えるべきだと思っています。たとえばビューアビリティの問題に限ると、ダイレクト系で成果報酬の広告ならば、究極的には反応があればいいとも言えますよね。かたやブランド系だと、見てもらって初めて広告費を払う価値があるので、誰も見ていないサイトや位置に出ている事実は看過できません。
意外と気づかれていませんが、単に「アドベリフィケーション」と一緒くたに語らず、ビューアビリティ、ブランド毀損、アドフラウドのどれを最優先で対策したいのか、自社の業態や現状に応じて優先順位を見定めることが大切だと思います。
とはいえ、当社も完璧にできているわけではありません。先述の各問題の対策を体系的に整理して進めなければと考えており、当面はホワイトリストの確立を急いでいるところです。年明けを目処に、安定的な運用ができるようにしていきます。
――先ほどマス広告との比較のお話もありましたが、デジタル広告も純広告に絞れば信頼性は担保されます。アドネットワークやDSPなどとの使い分けをどう考えられていますか?
おっしゃるように、信頼性だけで選べば純広告のみにするのが確実だと思います。悩ましいのは、コストの面でトレードオフになることですね。その点は当社の組織構造上、各事業部やブランドマネージャーとの折衝になるので、ちょうどいいバランスを見つけるという回答に留まるというところです。ただ、前述のように「ブランドセーフティの観点からホワイトリスト方式に/悪質なサイトへの出稿はゼロに」という点はトップとも共有していることなので、今後はそれを前提に事業部とも最適解を探っていくことになります。