マスとデジタルの部署の距離感が対応を左右
――小出さんは、アドベリフィケーションに関する業界全体の対策の進み具合や課題についてどう考えていらっしゃいますか?
2017年5月、JAAが広告主企業に当該問題の認識や進捗に関するアンケートを実施していました。すると、各問題について認知は進んでいるものの、一部の先進企業を除くと、対策やアクションはまだまだという状況が浮き彫りになりました。現在はそこから少し進捗した印象はありますが、まだ大きな進展はない状況だと思います。
その大きな要因は、組織にあると見受けられます。デジタル広告を扱う部門と、マス広告の出稿部門が分かれている企業が多いんです。そのため、この問題は、デジタルに閉じた部門だけで議論すると、以前の慣習から「まあそんなものだよね」と見過ごされがちな傾向があります。
もし、テレビCMを5回分支払ったのに4回しか放送されていないとか、OOHを100面出稿して5面は人が見ることのできないところに出ているといった状態だった場合、マス広告の常識では補償がともなう重大な問題だと大騒ぎになると思います。当社も実際、マスとの対比で「おかしいよね」という認識が共有されていきました。マスとデジタルの部署が縦割りで分断されていると、そうでない企業より動きが遅くなるかもしれません。
――デジタルの領域で、そうした問題が許容されてきてしまった要因は、どういう部分にあると思われますか?

難しいところですね。もうデジタルもこれだけ当たり前の手段になり、世代的にもデジタル領域出身の方々が多くなって業界の中心で活躍されるようにもなっています。ただ、デジタルは数値化できることが大きな利点で、それを追求してきた領域なだけに、数値化しづらいブランドリフトに対する理解やアプローチが不足している部分はあると感じています。
それは、マーケティング業界全体として、望んでデジタル広告独自の発展や可能性の追求に注力してきた流れがあるので、個人の問題ではなく業界全体が取り組むべき課題だと思います。デジタル広告がブランディングに使われ始めたころから、ブランディングやマス広告の知識や経験もプラスオンしていかなければいけなかったのに、追いついていないからだと思います。
費用は誰が負担すべき? 業界全体で動く可能性は
――現状、このアドベリフィケーションの費用を広告主が負担することが多く、それを良しとできないから対策に乗り出せない状況もあるようです。
そうですね。資生堂ジャパンとしては、シミュレーション上、その費用を拠出しても広告の適正出稿によるリターンが上回ると判断できたので踏み切りましたが、広告主の心情としては、費用負担への抵抗感があることはある種当然のことと思います。広告主の中には、そもそも広告主は広告を買う側で、売る側である広告会社なりメディアなりがその商材の品質を保つべきでは、と主張する意見もあります。
――アメリカでは冒頭で上がったIABを中心に認証制度の設立が進み、広告取引には広告主も広告会社もそこへの加盟が必須になるような動きがあります。もし日本でもそうした制度ができるなら、費用負担もステークホルダーの皆で分担する可能性もあるでしょうか?
可能性は、あるでしょうね。トラディショナルメディアでも、たとえば日本ABC協会が新聞と雑誌の実売部数を調査する第三者機関として機能し、同会の加盟紙・誌への広告出稿の信頼性を担保しています。メディア、広告会社、そして牽制の意味合いでも広告主企業も加わり、それぞれが会費を払って運営されているので、デジタル領域にも応用はできるでしょう。業界全体で健全化を目指すことは大切だと思います。
――ありがとうございました。最後に今後の展望をうかがえますか?
まずは前述のホワイトリスト方式の配信を迅速に確立し、安全性が確認できないサイトへの出稿を限りなくゼロに近づけて、ブランド事業部とともに出稿の最適化・健全化を進めます。また、志をともにするパートナーとの連携も強めていきます。2017年末以降NHKや『週刊東洋経済』が特集を組むなど、一般の方の注目を集めていますし、今後も後手後手ではなく主導権を持って取り組んでいきます。
アドベリフィケーションは、やはり対策が体系的に整えられていくことが今後いちばん大切になってきます。日本がこれだけの広告大国でありながら、欧米に遅れをとっている状況には、各国からの外圧もあり疑問視もされています。欧米の各ブランド企業、対策機関や認証機関設立の動きを注視しながら、新たな取り組みにどんどんチャレンジしたいと思います。