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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

日本郵便の実証実験プロジェクトから見る「デジタル×アナログ」の未来と活用

 「デジタル×アナログ」の組み合わせこそ、コミュニケーション設計には重要であると考え、様々な形でこの難問に挑んできた日本郵便。同社は3年前からプロジェクトを推進し、様々な企業と連携し実証実験を行い、PR活動や産学協働の試みを通じて様々な発見や学びを繰り返してきた。本連載では全3回にわたり、プロジェクトを振り返りつつ、これからの「デジタル×アナログ」への期待について明らかにしたい。初回は、発足当時からプロジェクトに参画するイーリスコミュニケーションズの鈴木睦夫氏に語っていただく。

「デジタル×アナログ」が実行されない理由

――これまで、日本郵便は「デジタル×アナログ」の実証実験などを通じて、その効果の高さを伝えてきました。少しずつデジタル×アナログの重要性は広告主の間で浸透しているように思うのですが、鈴木さんから見ていかがでしょうか。

 確かに浸透は進んでいます。日本郵便として「デジタル×アナログ」の重要性を説き始めたのが2015年頃ですが、当時はちょうどMA、DMPという言葉がバズワードとなっているタイミングで、デジタルマーケティングの勢いもすごかった。周りのマーケターがデジタルの世界に閉じていく中で、デジタルとアナログの融合について発信していく必要性を強く感じていました。

イーリスコミュニケーションズ株式会社 Co-Founder/エグゼクティブプロデューサー鈴木 睦夫氏
イーリスコミュニケーションズ株式会社 Co-Founder/エグゼクティブプロデューサー鈴木 睦夫氏

 しかし現在では、オフラインとオンラインの施策をどう統合していくかはマーケティング業界全体の大きな課題と言い切っても過言でないほど議題に挙がりますよね。統合しなければならないという認識が広がったのだと思います。

――やらないといけないのはわかっているが、実行には移せていない、というのが課題になっているのでしょうか。

 そうですね。その要因には、実行に移したくても移せない環境の問題が大きいと思います。現在、多くの企業ではデジタルとアナログの部門は分断されています。そのため人材や知見、予算といったものすべてがサイロ化しているのです。

 その中で双方を統合した知見を持ち、統合したコミュニケーションを考えられる人や会社というのは本当に限られている。そのような背景もあり、「デジタル×アナログ」の施策が実行できていないと考えています。

コミュニケーションを分解して検証

――そのような状況の中、鈴木さんは「デジタル×アナログ」最適解を導くべく、様々な企業と成功事例を作ってきたと聞いています。その事例をいくつか紹介してもらえますか。

 たとえば、リクルートジョブズさんとの事例は、「デジタル×アナログ」におけるPDCAを回す方法を知るのに良い例なのでご紹介します。デジタルとアナログを組み合わせていく上で、重要なのは各要素でPDCAを回すことです。

 そこでリクルートジョブズさんとは、コミュニケーションを「ビークル/ターゲット/タイミング/クリエイティブ/オファー」の5つに分解しました。その内4つの要素は固定して1つを可変させることで、PDCAを回しました。

 最初に行ったのはビークル(伝達手段)に関するテストです。ダイレクトメール(以下DM)やEメールなどのビークルを評価するものです。他の要素は固定して、ビークルだけ変えて検証したところ、「DM×メール」の組み合わせが1番高い効果を得られたとの結果が出ました。

 続いて検証したのはターゲットについてです。ここでは、「ホットリード(見込み度が高い顧客)/コールドリード(見込み度が低い顧客)」のそれぞれの効果を測りました。ここでわかったのは、どちらのリードでも反応が良かった点です。つまり、コミュニケーションの仕方を変えれば、コールドリードと思われていたリードから案件につながる可能性があることを示しました。

 3つ目に行ったのはクリエイティブに関するテストです。他の要素を固定してDMのクリエイティブを「普通紙/上質紙」に変えてコミュニケーションを試みたところ、特に変化はありませんでした。

 ここでわかったのは、クリエイティブも重要だが、それ以上にタイミングが大事だということ。普通紙でもタイミングが良ければ良い反応が得られます、逆も然りですが。

 そして、5つのコミュニケーション要素の中で、ターゲットとタイミングは技術の進歩によりある程度のコントロールができます。しかし、多くの方は「ターゲティングに関することは細かに設計しているが、タイミングはそこまで……」となっているのではないでしょうか。実はタイミングも非常に設計には重要であることが、この事例からは明らかになりました。

「DMとEメール」両方送るならどっちが先?

――コミュニケーションの要素分解と、各要素の検証が重要ということがわかりました。他にも、DMとメールを配信する順番についても実験されたそうですね。

 そうですね、それは富士フイルムさんのフォトアルバムをはじめとしたBtoC向けのフォトビジネスを手がけているメンバーの方と行いました。リクルートジョブズさんの時と同じようにビークルテストは事前に行いました。

 同じターゲットに対して「DMだけ送る層」「メールだけ送る層」「DMとメールを組み合わせて送る層」とで比較検証したところ、「DM+メール」の層が「メールだけ」の層に比べて、CTRが60倍との数値が出たんです。

 それで2回目の実験では、組み合わせた時にDMとメールのどちらを先に送ると効果が高いかをテストしました。一般的なデジタルマーケターであれば、コストが低いメールを先に送りたくなると思います。

 しかし、今回の実験でDMを先に送ってからメールを送ったところ、メール単体に比べCVRは約5倍、サイトアクセスは2倍以上に増えました。

 DMを含んでいる方は順番に関係なくメールだけに比べ、サイト訪問数は同じ程度上がったのですが、CVRに随分差が出ました。CVRはDMを先に送ったほうが、2ポイントほど数値が高かったんです。

DMを送った後は必ずフォローを

――しかし、なぜメールを先に送った場合のCVRが低いのでしょうか。

 そうなったのかは非常に単純で、昨日ないし今朝もらったメルマガの内容って覚えていない人が多いからです。自分の体験で振り返ってみて、そう思いませんか。

――確かに、思い出したら検索して探すくらいなので、ほとんど覚えていないかもしれません

 そのような状況の人が多い中「メールをお送りしているのですが」とDMで伝えても組み合わせにはならず、DM単体の効果と変わりませんよね。

 一方で、DMが送られてきたことは認識されていることが多く、そこに「DMは届きましたか?」とメールを送ることで相乗効果が生まれる。メール単体に比べて開封率も高くなるのはもちろん、DMを見てアクセスしたいけど面倒だと思っていた層を引っ張り上げることもできます。

 Webサイトで情報を確認したいニーズのある方にとっては、メールのほうが楽ですから。要するに、DMとメールの相乗効果を最大限引き出すのであれば、DMを先に送ったほうが良いのです。

――なるほど。DMとメールを組み合わせる時は、DMから送るのが最適ということですね。

 はい。ただ、メールを先に送るのが悪いわけではありません。メールだけで反応する人はいますし、DMに比べればコストも安いですからね。安いコストで反応が得られるのであれば、マーケティングとしては正解です。

 個人的には、まずメールを送り、それに反応しなかった人にDMを送った後、DMを送った人に必ずメールでフォローするというのが正解だと思っています。

 つまり、事例からの学びは、DMを送ったら必ずフォローの施策をしようということです。

実証実験を通じて得られた5つの学び

――日本郵便では、リクルートジョブズや富士フイルム以外にも様々な企業と実証実験を行ってきたと聞いています。先述の学びも含めて、実証実験で得られた学びをまとめて教えてください。

 実験を通して得られたのは、以下5つの学びです。

1.組み合わせ効果はBtoBもBtoCも同じ

2.DM単体ではなく、組み合わせことで相乗効果が出る

3.DMとメール。先に送るならDM

4.とにかくタイミングを意識すること

5.パーソナライズはシナリオが命

 1つ目は、基本的にBtoBもBtoCも効果の出方は同じということ。必ずDMを組み合わせることで効果は出ます。もちろんLTVの観点でROIが合うのか検証する必要はありますが、基本的にはプラスオンの効果が出ます。しかも、多くの場合で数倍近い数値の増加が見られます。

 2つ目と3つ目はこれまでの事例で明らかだと思います。そして4つ目は、先ほどコミュニケーションの要素について話しましたが、近時一番重要なのはタイミングです。デジタルマーケティングに関わるとクリエイティブとターゲットばかりに目が行き過ぎるように思います。それよりも、適切なタイミングを模索すべきだということです。

 5つ目は、そのままですが、パーソナライズにはシナリオが命です。パーソナライズの方法は商材にもよりますし、手法も様々あります。それでも、シナリオを最初に固めておけば効果の最大化はもちろん、バジェット(予算・経費)の最適化もできます。

これからは「オムニメディア」の時代に

――マーケターが「デジタル×アナログ」の施策に取り組む際に、意識したほうがいいことはありますか。

  伝えたいのは、「“事例くれくれ君”になるのはやめましょう」ということです。事例がきっかけに実行されるのであれば構いませんが、そもそも動かなければ何も始まりません。たとえ、すぐにビジネス上の結果が得られなくても、レビューできる環境を作れば必ず知見が得られます。つまり、損はしないので、ビビらずやってみることが必要だと思います。

 また、これは釈迦に説法かもしれませんが、データドリブンに施策を進めることがこれからのマーケティングには求められます。その中でも直近で大きな課題として挙がっているのは、オフラインの行動データの蓄積、オフラインとオンラインで得られたデータの統合です。いずれにしても、勘ではなくデータドリブンでなければ統合した施策を行っても意味がありませんので、必ず評価できるような設計を作ることが大事だと考えています。

――今後のマーケティングコミュニケーションの中で、注目しているキーワードはありますか。

 「オムニチャネル」というワードを、皆さんよく聞かれると思うのですが、これは別にECと店舗の統合に限った話ではないと私は思っています。オムニチャネルというのは、いつでも・どこでも・好きなものを・好きな時に手に入れられる環境を生活者に提供すること。それの1つの手段がECと店舗の統合だったりするわけですよね。

 その考え方はコミュニケーションにも当てはまると思います。販売チャネルだけでなく、メディアもオムニ化して生活者中心で情報を届けるべきです。昨今、広告が邪魔者であるというイメージが強まっていますよね? それは、生活者が欲しくないタイミングで、欲しくない情報を押し付けてしまっているからです。

 タッチポイントを全部コミュニケーションの軸で捉えたら良いと思っていて、店舗・店員・棚・パッケージ・テレビCM・DMなど、これらすべては生活者とのタッチポイントです。それらのすべてを統合しようと私が考えたのが「オムニメディア」です。

 これを実現するためには、シナリオの設計と、オフラインデータとオンラインデータの統合が重要になってくると思います。

 デジタルを中心にパーソナライズの取り組みが進んでいますが、アナログでも自動的にパーソナライズを行うことができるようになっています。「デジタル×アナログ」を統合してシナリオを設計することが本当にできるようになっているので、まずは挑戦してみて欲しいですね。

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/18 16:19 https://markezine.jp/article/detail/30327