誰に愛されたいか、ではなく「誰に愛されるべきか?」
押久保:まだのびしろがあると感じられたんですね。具体的には、シェアをより圧倒的に高めるなどでしょうか。
榊:そうですね。一休がきっとお役に立てるのに、まだ出会えていない顧客が多くいるだろうと感じました。その方々に知っていただき、使っていただくことが私のやることだと思いました。
押久保:では、実際にどのような方針で、1.5倍もの成長を遂げられたのでしょうか?
榊:強化したことのひとつは、ターゲットの絞り込みです。平たくいうと、年間100万円以上「一休.com」を利用される層に、よりフォーカスしていきました。なぜそうしたかというと、入社して最初にいろいろな顧客のセグメント分析をしたところ、この層は年々かなり伸びていたんですね。
何もしていないのにそんな成果があるということは、何かある。それで、データ分析や顧客へのヒアリングを重ねたら、その方々が他社サービスを使うよりも、一休を使うほうがストレスが少ないから利用していることがわかったんです。
押久保:なるほど、高級なホテルや旅館しかないから、不要な選択肢が出てこないんですね。
榊:そうなんです。逆に、高級な宿を探す方にとって、たくさんの宿を網羅する予約サービスを使うのは、ストレスなんですね。自社の事業を考える際、つい「誰に愛されたいか」と考えがちですが、一休が「誰に愛されるべきなのか?」と考えたら、この方々であることに間違いない。それなら真剣に狙っていこう、と舵を切りました。
いずれかの戦略を選ぶことは、他を捨てること
押久保:元々の高級路線を、さらに強化されたんですね。企業の再成長を考える際、たとえば御社なら富裕層向けの広告事業に注力するとか、選択肢を厚くするといった拡大路線に踏み出しても不思議ではないと思いますが、逆に絞り込むのはかなり決断力が必要だったのでは?
榊:そうですね、ただ、いずれかの戦略を選ぶことは他を捨てることですから。それに、副次的な事業で収益がプラスされるのは当たり前ですが、現業の売上最大化が本質的な問いだったので、広告もすべて切って、宿の数の拡大も成長の柱ではないと位置づけました。
安価なビジネスホテルを探している人には、他社のサービスのほうがたくさん選択肢が出てきますから、一休をお勧めする理由を説明できません。つまり当社が価値提供できていないので、価値提供できる方向けに注力しようと、社内の皆にはそんなふうに説明しました。
押久保:元々データサイエンティストのバックグラウンドをお持ちですが、データ分析はご自身で進められているんですか?
榊:毎週日曜に自分でデータを分析して、関連部署に共有しています。その見方も、たとえばリピート率は人数で見ることが多いですが、我々だと年間100万円を使ってくださる顧客が一人増えるとそのインパクトは大きいので、必ず金額で見るようにしました。
ヘビーユーザーなので、閲覧や宿泊履歴のデータも相当ありますから、ある旅館のこんな特別オファーならこの条件の顧客に伝えれば売り切れるはず、といった分析と打ち手も細かく実施していきました。また、ロイヤルティプログラムの導入など、ヘビーユーザーに特化したサービスも充実させました。それらが17年度の成長に貢献したと思います。