マス思考からOne to Oneマーケティングへ
西口:そうなると、テレビ=マス媒体、ではなくなりますね。さらに今後、テレビCMのオンライン運用と個人IDとの紐づけが完了したら、本当にテレビでのOne to Oneマーケティングが可能になります。
小霜:まさに、そうですね。個人の属性やニーズがわかったら、スマホでのターゲティング配信ともう同じです。そうなったとき、テレビを扱う部門とデジタルを扱う部門が分断していたら、どっちがやるのか。一気通貫でできないと、仕事にならないと思う。
テレビ局も、たとえば僕が仕事をしている日本テレビは“お茶の間”の世帯視聴率だけで番組を評価せず、個人視聴率を重視し始めています。世帯の数字と比較することで、また新しいことがわかってくる。マス媒体におけるOne to Oneマーケティングの萌芽だと思います。
西口:いや、まったく同感です。あとは、テレビ局にデータを開放してもらえると、もっといろんなことができるんですが。
小霜:スマニューのようなアプリのインストールだと、デジタルならすべて数値でわかりますからね。でもターゲットが広いから、テレビCMを使うにも、アニメ好きみたいな属性でターゲティングしにくい。
西口:そうなんです。視聴者のデモグラ属性で番組を選んでも、あまり想定どおりにならないので、今は結局少しずついろんな番組に出稿してみて、結果から類推して効果のある枠を見つけるしかないんですが。
ここまでうかがっていてちょっと驚くのは、ブランド広告を手掛けられることも多いと思うんですが、ブランディングという言葉がまったく出てこないことです。ブランディング目的の場合は、CPAで評価できないですよね?
ブランディングとは、体験

小霜:それはそうなんですが、その場合も僕は予算配分にものすごくシビアなので、一定のメソッドを使って最適化を図っています。あいまいにやらない。
西口:数理モデルか何かを使っているんですか?
小霜:はい、重回帰分析という手法を使っています。トレーディングデスクと業務提携して、モデルを開発しているんです。これを使うと、かなり確実に効果が上がるのですが、同時に無駄な投資も明らかになるので、“不都合な真実”が浮かび上がってしまうこともあるんですよね。テレビは効いていない、みたいな。
それでも僕が実行できるのは経営層と握っているからですが、「ブランディング」は数字をブラックボックス化したい人が都合よく使う言葉になっていたりします。イメージを作るため、ぐらいの理由にしておけば成果は問われにくいので。
西口:ああ、そのあたりは僕も想像がつきますね……。ではご自身は、ブランディングとはなんだとお考えですか?
小霜:僕は、ブランディングは体験だと思っています。たとえば吉野家と聞いて、皆がまず頭に浮かぶのはカウンターで牛丼を食べている姿だと思うんですね。
人は、自分が体験したことを思い出す。その体験が心地よかったらマルだし、悪かったらペケです。ブランディングとは、そのマルな体験を増やすことです。だから吉野家にとっての最重要のブランディング活動は、店舗を増やして、体験する人数を増やすことになります。
で、広告は「吉野家に行くとこんなおいしい思いができるよ」と疑似体験させてあげて、店舗への動線を作る役割を担っています。でも、こっちの活動だけをブランディングと思われている人が多いですね。
後編では、小霜さんの考えるブランディングをさらに掘り下げるほか、マーケティング人材のローテーションについて、広告主企業の“エージェンシー不信”など、業界の課題を話し合います。お見逃しなく!