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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

“顧客体験の創造”から次のステージへ ポルシェが挑むブランドの継続と強化

マーケティングドリブンの文化 市場との対話を重視

――ポルシェでの施策の方針や内容は、本社で統一されているのですか?

 いえ、その点だと当社のマーケティングは各国にかなり任せられていて、本社からの直接的な指示はほとんどありません。もちろん車自体は本社製造になりますしCIは遵守しますが、私共の商品をどんなターゲットに、どんなメッセージやビジュアルで伝えるかは、ローカルの判断で進めています。料理にたとえると、原材料だけを入手したら、あとは加える素材も調理法も自由、できあがるメニューも国次第ですね。デジタルを含め、新しいメディアも各国が積極的に試しています。

――外資系の、特にラグジュアリーブランドは、本社のガバナンスが強いイメージがありました。ローカル主導の文化は昔からなのでしょうか?

 ポルシェは市場との対話をとても重視しています。その一環で以前から各国への権限委譲も進んでいて、本社の戦略をもとにしつつも、それぞれが市場と主体的にコミュニケーションをとっています。各国のマーケティング責任者は年2回の会議で顔を合わせ、戦略や事例を共有していますし、普段からもやり取りをしています。

――現在は、マーケティングとCRMを統括するお立場ですが、具体的なチーム構成をうかがえますか?

 大きく分けて、「マーケティングコミュニケーション」「プロダクト・プライシング」「CRM」「モータースポーツ」、そして「エクスペリエンシャルマーケティング」という5つのチームに分かれています。

 エクスペリエンシャルマーケティングというチームは聞きなれない方も多いかと思いますが、数年前にグローバル全体で組織され、顧客体験価値の向上を目指してリアルなドライビング体験を軸としながらも、デジタルも駆使した様々な施策を推進しています。特に近年は、体験型のマーケティング手法を取ることが多いですね。2018年はちょうどブランド70周年だったので、日本では富士スピードウェイなどでのオーナー向けのイベントの他、グランピングをテーマにした一般向けの招待企画や、12月の新型マカン発売時にはミレニアル層を狙ったクラブイベントを行ったりもしました。

2018年7月に東京・豊洲で開催したグランピングイベント「Porsche Glamorous Camp」
2018年7月に東京・豊洲で開催したグランピングイベント「Porsche Glamorous Camp」
日本で開催したクラブイベント「THRILLING. driven by Porsche」
日本で開催したクラブイベント「THRILLING. driven by Porsche」

顧客体験の先にある「夢」を追う世界観

――「エクスペリエンシャルマーケティング」というチーム名には、体験をいかに重視しているかが表れていますね。日本では最近特に顧客体験の重要性が言われていますが、御社ではどのように考えられているのでしょうか?

 前提として、車という我々の商品の顧客接点として、やはり乗って体験していただくことはなくてはならない要素です。どれだけデジタルが有効でも、私共の車は今のところEC商材にはなり得ないので、カスタマージャーニーには必ず試乗のプロセスが入りますし、販売店でのアナログな接客も欠かせません。

 ただ、エクスペリエンスの重要性を打ち出して数年が経ち、今グローバルでは「その次のステージに進もう」という話をしています。改めてブランドの起源に立ち返ると、原点にあるのは「夢」なんですね。創業者のフェリー・ポルシェが「小型で軽量、そしてエネルギー効率に優れたスポーツカー。私は自らが理想とするこうした車を探したが、どこにも見つからなかった。だから自分で造ることにした」という言葉を残していますが、まさにポルシェは夢の車だったのです。そこから、進化と挑戦を重ねて今があります。

 なので、オーナーになっていただいた方にはその後もずっと「夢が叶った」と思い続けていただきたいですし、まだ手に入れていない方には「いつか乗りたい」と憧れを抱いていただきたい。そのために、創業者が思い描いた夢をぶらさずにお伝えしていくことは、我々マーケターがすべきことです。常に進化と挑戦を続けるブランドとして、最高のスポーツカーを造り続けていることが、どの施策にも一貫して反映されているように徹底しています。

「車にWi-Fiが欲しい」 若年層の価値観を踏まえて

――「進化と挑戦」が、ブランドを表す大きなキーワードなのですね。ちなみに、その伝わり具合は調査などで把握されているのでしょうか?

 そうですね、世代ごとにブランドがどう受け取られているか、要所要所でモニタリングしています。たとえば、挑戦し続ける姿勢の指標として「伝統」と「革新」のイメージを中間指標として追いかけていますが、伝統に比べて革新のイメージのスコアは上がりにくいですね。その強弱を把握して、都度のアウトプットに反映しています。

――今はメディアも生活者の価値観も多様化し、以前のようにいわゆるラグジュアリーブランドへの憧れを醸成するのも難しくなっていると思います。それに対してどのように考え、取り組まれているのでしょうか?

 おっしゃるとおり、もう画一的なコミュニケーションではメッセージが伝わらないと思っています。それぞれの年代に対して、違うアプローチが必要です。そのとき大切なのは、それぞれの価値観がどこにあるのか、それに対して我々の提供できるブランド価値をどのようにアジャストできるのか。それを見極めて、その人たちの価値観に見合った形で伝えていくことだと考えています。

 今の20代と実際のポルシェオーナーに多い50代を比べたとき、たとえば車に求めるものは何かというと、20代からは「Wi-Fiがあること」なんていう回答もあります。これは絶対に、50代の方からは出てこない意見です。

――Wi-Fiですか! 前段で若者向けのイベントのお話も挙がりましたが、伝統あるラグジュアリーブランドほど、若年層の獲得も課題になるかと思います。若年層についてはどうお考えですか?

 そうですね、ブランドが歴史を重ねるほど、若い人にはどうしても「ポルシェはおじさんの車」というイメージが出てきてしまっています。これはグローバル全体の傾向なので、若い人へのアプローチに危機感を持っているのは事実ですし、ミレニアル層への展開は各国が特に気を配っています。ブランド全体での、大きなチャレンジだと捉えています。

 具体的には、たとえば昨年ベルリンでは「SCOPES」というアートや音楽、クリエイティブな要素を前面に押し出したイベントを開催しました。小さく「driven by Porsche」と入れてはいますが、車を前面に押し出すというよりは、ポルシェの尖った「進化と挑戦」という世界観を感じてもらえるイベントに仕立てています。

2018年にベルリンで開催したアート×音楽×クリエイティブをテーマにしたイベント「SCOPES」
2018年にベルリンで開催したアート×音楽×クリエイティブをテーマにしたイベント「SCOPES」

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年齢も国籍も幅広く多様性を兼ね備えたチームに

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/04/25 13:00 https://markezine.jp/article/detail/30862

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