バズったツイートを企画のヒントに
自身のTwitter活用について語ったのは、博報堂のコミュニケーションプラナーとして活躍する小島翔太氏。2019年度のTCC新人賞を受賞するなど、今最も勢いのある若手クリエイターの一人だ。
思わずつっこみたくなる、シェアしたくなるようなおもしろいプロモーションを多く手がけており、代表的な広告に日清食品「どん兵衛」の「どん兵衛ポエム」などがある。
一部ネット上で話題になっていた、つっこみどころ満載のやや斜め上感をひた走る「マンションポエム」と言われる高級マンション広告で使われる独特な言い回しを、「どん兵衛」でも用いて広告にした。その再現性の高さが受け、若者を中心にTwitterから他のメディアへと拡散し大きな話題を呼んだ。
同商品の別企画では、ブランドサイト上にCMキャラクター「どんぎつね」の写真集を公開し、これも話題に。ただ可愛いものを出すのではなく、写真に添えるコピーはどこかつっこみどころのある内容になっている。
最近の施策では、ロッテの飲むアイス「クーリッシュ」のプロモーションの一環として、俳優の竹内涼真さんを主人公とした恋愛シミュレーションゲーム「ときめきクーリッシュ」を企画。通常の恋愛ゲームと違い告白されたらゲームオーバーとなるため、すぐに告白してくる竹内涼真さんに惚れられないようにクリアを目指すというのがおもしろいと、大きな反響を呼んだ。
そうした企画を考える際小島氏は、Twitterからヒントを得ることも多いと語る。自身は少しのスキマ時間や時には仕事や打ち合わせ中にもTwitterをチェックするほど、とてもアクティブな利用者だという。
「企画の案出しをするときに、過去にリツイートしたツイートをザっと見ることで、脳が刺激されて良い案が出やすくなる気がします。また、打ち合わせ時にバズっているツイートを持っていくと、普通の広告事例を持っていくよりもTwitter上で起きているリアルな感性や情緒がダイレクトに伝わるため反応が良く、打ち合わせも盛り上がります」(小島氏)
小島氏の思うTwitterの特性とは
講演の中では、実際に世の中で話題となったツイートがいくつか紹介された。小島氏はそれらのツイートを通じて、プラットフォームとしてのTwitterの特徴を明らかにした。Twitterは雑多なツイートが集合していて、利用者の力で選別されたおもしろいものがリツイートされる。そして、素敵なものや感情を動かすものが拡散されてタイムラインで押し上げられていくと説明する。
「広告の仕事は、その商品と世の中の良い関係、新しいつながりやおもしろい伝え方を考える仕事。だからこそ、Twitterを見ることはデジタル施策をやるから見るという話ではなく、広告の仕事全部に役立つと思っていますし、もっと言うと人間の心を知るのにも役立つ。そういう内容が集まってくる構造になっていると思います」(小島氏)
では、どのようにTwitterでアイデアの種を見つければ良いのだろうか。小島氏はクーリッシュを例にTwitterの使い方を紹介した。
「たとえば、クーリッシュで検索すると、よく『揉む』という言葉と一緒につぶやかれている。商品が硬いから食べ頃にするために揉んでいるってことなのですが、このワードと一緒につぶやかれるアイスはほとんどないので、『揉む』というワードや揉んでいる瞬間というのがいつか使えそうだとメモするわけです」(小島氏)
Twitter施策を成功に導く3つのポイント
次に、小島氏はTwitter施策を行う際に大切にしている3つのポイントについて紹介した。
1.キャラ、シズル>話題
Twitterをはじめとしたデジタル施策を行うとなると、話題化やエンゲージメントを重視しがちだが、とにかくバズれば良いというわけではない。デジタル施策を考える上でも、企業や商品のキャラクターや商品と結びついている気分、シズル感が大事だという。
「たとえば『どん兵衛』は、名前に入っている“どん”のイメージやパッケージ、味から、どこかホッコリとして、とぼけたお笑いが似合うキャラクターで、感動させるよりも笑わせるほうがあっている。一方で『クーリッシュ』は、アイスの冷たさやパッケージの青色から、爽やかで恋や青春が似合うキャラクター。笑いに振りすぎると似合わない感覚があるように、ブランドの持つシズル感に合わせて考えています」(小島氏)
2.自分>マス
Twitterは、個人から発信される情報が支持されて拡散しやすい場所なため、個人の趣向が強く反映されている熱量の高いツイートが人気を得やすい。そのため、大衆の好みを考えすぎるより、自分がとにかくおもしろいと信じられるものを追いかけるほうが成功する可能性が高いという。
「ただし、自分がおもしろいと思う感覚が、Twitterとずれ過ぎていても引っかからないので、普段からツイートを見て流行をチェックして、自分の感覚をTwitterと近い状態にしておくことは必要です」(小島氏)
3.企業、広告であることを忘れない
企業アカウントである、広告であるという自覚、冷静さを持っておく。はしゃぎすぎないことも大事だ。
「Twitterには独特の様式があるので、つい企業の施策でもTwitterならではの言葉やノリを使ってしまいたくなりますが、Twitterの文化に迎合しすぎるのは良くないと考えています。たとえば、学校で先生が本気で生徒とまったく同じノリで生徒に接したら引かれてしまいます。でも、生徒の気持ちがわかるおもしろい先生は一目置かれるし、好かれる。そんな立ち位置がちょうど良いのではと思っています」(小島氏)
確かに、シャープやキングジムなどTwitterの文化にうまく乗っかった企業アカウントもいくつかある。しかし、小島氏は「そこには相当な経験値と、一人の人がとんでもない権限とスピード感とセンスを持って運用しているわけで、やり方を真似るのはかなり困難」だとした。
小島氏に対してそうした要望があった際には、おもしろい施策をアカウントが提供して話題を届けるような使い方を提案するという。
Twitterは広告と口コミの中間
最後に、小島氏はマーケティングにおけるTwitterの価値と役割について言及した。
「企業がお金を払ってでも届けたい広告を、Twitterの利用者は『プロモーションしていると明記したハッシュタグ』もなく無料で、そして熱量を持って他の人に届けてくれる。奇跡みたいなことが起こりうるメディアではないでしょうか」(小島氏)
さらに、「ツイートは広告と口コミの中間ぐらいの位置にあるもの」と小島氏は解説した。
「バズっている状態って人が好意的に思って他の人にパスしている状態ですよね。そう考えると、広告から口コミのパスを生み出す可能性もある。マス広告を作る際も、Twitterでもターゲットに反応されるようなものを作れると良いと思うし、そういう視点が今の若いクリエイターたちにとって必要な発想だと思っています」と話す。
心理的な面での憧れがブランドの価値に
茂呂氏は、講演内容を一通り話した小島氏に対し「ソーシャルでどういったブランド価値を作れると思うか?」と問いかけた。これについて小島氏は自身の考えを次のようにまとめた。
「ひとつは、人が日常的に触れる情報量が膨大になっている中で、企業の情報に触れて、それを他の人に広めてくれるぐらいのコミットメントを持ってもらえるようなものをブランドとして生み出せているかどうかは非常に大事な視点だと考えています」(小島氏)
さらに、「ブランドの立ち位置としては、色々な商品が出尽くしている今、僕たちが憧れる商品ってそんなにはないし、憧れを作るのはすごく難しい」とした上で、今後求められるコミュニケーションのあり方について語り、セッションを締めくくった。
「『共感』が僕ら世代の生活者に対するアプローチの手法として重要だと思います。僕らが出したものに対して笑ってくれたり、いいと思ってくれたり、パスしてもらえたりするような共感を作っていくのが良いのではと思います。プロダクトの中でなくても『こんなおもしろい、尖ったことするってすごい!』という心理的な面での憧れがブランドの価値になると思います」(小島氏)