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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

奥谷さんと学ぶ、"勝てる"マーケティング思考

5G時代の動画活用のヒントを、BtoB企業とD2C企業に見る

BtoCからBtoBに拡がる動画活用

 コンテンツベロシティを実現する上で、筆者が特に注目しているのは動画コンテンツです。現在、携帯電話キャリア各社は、2020年を目標に5G(第5世代移動通信システム)の商用化に向けて準備を進めています。5Gの時代が来れば、高速・大容量に加え、多接続、低遅延(リアルタイム)が実現します。お客様がデジタルとリアルのタッチポイントを行き来する中、デジタルのタッチポイントから提供する動画コンテンツの役割も変化するでしょう。

 既に海外のD2C(Direct 2 Consumer)企業では動画コンテンツを積極的に活用しています。D2Cのビジネスモデルは、自ら企画、製造した商品を直接お客様に販売するものですが、デジタルのタッチポイントだけでなく、ガイドショップとしての位置付けの店舗を持っている場合もあります。

 そんなD2Cブランドは世界的に急増しており、この中には以前から筆者が注目するWalmart傘下の男性アパレルブランドの 「Bonobos」、パーソナルスタイリストサービスを提供する「Stitch Fix」、メガネの「Warby Parker」などが含まれています(下図)。

図1:D2Cブランドのカオスマップ 出典:LUMA Partners
図:D2Cブランドのカオスマップ 出典:LUMA Partners

 これらのD2Cブランドの特徴は、マーケティングを武器にしたモバイルネイティブな「カテゴリーディスラプター」であることです。どのブランドもFacebookやInstagramを使い、動画でブランドストーリーを語り、プッシュ型ではなくプル型のコミュニケーションスタイルでお客様の体験設計を通じた商品サービス提供に長けています。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Micaiah is a photographer and has been wearing Warby Parker glasses since 2018.

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 以上はお客様に対するBtoCのコミュニケーションにおける動画の使い方ですが、ここに来てBtoB向けの動画の用途でおもしろい動きが出てきていると感じます。その例を三つ紹介しましょう。

soeasy

 最初の例はデジタルネイティブなスタートアップのサービスです。今筆者がアドバイザーを務めているsoeasyは、知識やノウハウを動画で共有するSNSサービスを提供しています。

 この会社では困った時のハウツーを15秒で提供する「soeasy」と、知識やノウハウ共有を動画で行う「soeasy buddy」の二つのサービスを提供しています。「soeasy buddy」はBtoC向けの動画サービス「soeasy」で培ったノウハウをBtoB向けに展開するべく、立ち上げられたサービスなのです。

 「soeasy buddy」が提唱しているのは「AIと動画を使った、組織力強化ツール」です。社内に蓄積されている営業ノウハウや接客スキルを動画で共有することを奨励しているわけです。紙の業務マニュアルを作ってもなかなか読んでもらえませんし、集合研修は場所や時間の制約をともないます。けれども、コメントの残せるSNSプラットフォームで動画を展開するやり方であればその問題を解決し、若い世代から支持を集めることもできます。

 また、美容部員やアパレルといった比較的こういったツールへの抵抗が少ない接客業だけではなく、大手企業でも営業スタッフの営業トークやプレゼンをどんどんスタッフが更新しながら活用するという使い方も始まっている他、インドネシアで水産貿易事業を営む会社がHACCPに準拠したマグロの解体方法を展開する、など一次産業にも広がりをみせているようです。

竹延

 二つ目の例はスタートアップではなく、伝統的な産業である建設業での取り組みになります。京都に拠点を置き塗装を手がける竹延も、技術の伝承を目的とする動画サービス「技ログ」を提供しています。

 建設業はデジタルに強い業種というイメージはないかもしれませんが、一流の職人たちが持つスキルやノウハウを次世代に伝えていかなければならないという強い意志を感じます。人手不足の業界にあっては、「昔ながらの匠の技は目で見て盗んで覚えろ」を続けていては、業界全体としての成長が難しいという危機感が裏側にあるのでしょう。

 現在「技ログ」で見られる技能動画は800本以上。内容は専門的で、一般の生活者がその動画を見てやってみたいと思うものではないかもしれません。しかし、今の意欲のある若い人たちが何かを学ぼうとした時、身近にあるスマートフォンをそのまま使うことができるという点で、今の時代の文脈に合ったBtoB型のコンテンツベロシティを実現した動画サービスを提供していると言えるでしょう。

HERO

 先の二つは国内の事例でしたが、海外事例も紹介しましょう。HERO(本社:英ロンドン)は2015年6月創業のスタートアップであり、店舗スタッフ向けに動画を使った接客ソリューションを提供しています。同社は今年の1月にニューヨークで開催された小売業界のカンファレンスNRF 2019に出展しており、動画活用の新しい試みを紹介していました。

 HEROが提供するのはライブ接客です。オンライン上にいるお客様がある商品に興味を持ち、「この商品はどんな感じ?」と質問したとしましょう。すると、店舗にいて手が空いているスタッフがお目当ての商品を探しに行き、手にとって、動画で商品の紹介と説明をしてくれます。お客様は店員と納得できるまでチャットでのやり取りを繰り返し、その商品を気に入ったらそのまま買い上げるか、店舗に取り置きをしてもらうかを選ぶというのが大まかな流れです。この仕組みの裏側ではスタッフ単位で何人に接客し、どれだけ売ったかも管理しています。

 まだ日本では店内で店舗スタッフが接客中にスマートフォンを持つことの是非が議論されているような段階ですが、今は店舗の役割が変化する時代で、すぐにお客様とつながることのできるデジタル環境を背景に斬新な顧客体験が続々と生まれていることに注目する必要があります。

次のページ
強いD2Cブランドは店舗スタッフのエクスペリエンスも考えている

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この記事の著者

奥谷 孝司(オクタニ タカシ)

オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員COCO(Chief Omni-Channel Officer)
株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
株式会社イー・ロジット 社外取締役
株式会社Engagement Commerce Lab. 代表取締役

1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「Worl...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/06/11 08:00 https://markezine.jp/article/detail/31209

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