広がる「採用」と「マーケティング」の接点
採用とマーケティング。一方は組織づくり、他方は事業づくりにおいて「経営」に直結する重要業務でありながらも、これまでさほど接点の多くなかったこの二つの職務領域に今、大きな重なりが生まれつつあります。
そもそも両者はこれまでも、実務面では似通った作業をしてきました。すなわち、各種メディアプランを作成し、予算配分を決め、媒体運用を行うという点で、マーケターと採用担当は同じ行動パターンを共有してきたのです。
とりわけ各種デジタルツールが採用領域にも浸透しつつある現代においては、両者の実務上の類似点はますます広がっていくことが予想されます。採用の成果を様々な変数に因数分解し、最終的なアウトプットの最大化を図る「HR領域のデジタルハック」が注目されていることもまた、このトレンドの拡大を裏付けていると言えるでしょう。
リクルートメント・マーケティングの新しさ
「リクルートメント・マーケティング」は、ビジネスSNS「Wantedly」を運営するウォンテッドリー株式会社の提唱する新しい採用理論であり、文字通り採用のマーケティング化というコンテクストの上に成り立っているフレームワークです。そのフレームワークとしての新しさは、決して「リードジェネレーション」や「リードナーチャリング」といったマーケティング用語を採用領域に置き換えて説明するということだけではありません。
その「新しさ」について理解するということは、企業が直面している現代的な経営課題を理解することでもあります。そしてこの理解を通じてのみ、マーケティングと採用とは真の意味で「経営のセンターピン」としての思考様式を共有することができるでしょう。
前段が長くなりましたが、リクルートメント・マーケティングを解説する本連載の1本目を飾るこの記事では、「採用のマーケティング化」が映し出す経営課題について、事業を取り巻く諸々の変化との関連から明らかにしたいと思います。
「VUCA時代」の到来と、マス型組織の苦境
どんなに安定してみえるビジネスモデルでも、新興テクノロジーのもたらす破壊的イノベーションにより一夜にして陳腐化しかねない現代。世に言う「VUCA時代」の到来により、すべての企業が外部環境の予測不能性に対してフレキシブルに対応することを求められています。
ここ数年の間に表面化したメガバンクでの人員削減の動きは、この予測不能性を最も象徴的に示す事例と言えるかもしれません。人手不足が慢性化する中で、なぜ大規模なリストラが行われるのか? この問いに対する答えとしては、定型業務をこなすために「量」として囲われた人材のスキルセットが、市場の変化や技術の進歩によって無用の長物と化してしまったからだという説明が主要メディアを通じてなされています。
こうした苦境はもちろん金融業界に限った問題ではなく、大量生産・大量消費型の経済を支えた組織モデルの陥った袋小路として位置づけることができます。つまり、ピラミッド状の組織階層の上から下へと大量のタスクが分解されるとともに、その裾野においては与えられた下位タスクを次から次へとさばき続ける「量(マス)」としての労働力が重宝されるような組織の限界が露わになっているのです。
このような「マス型組織モデル」は、外部環境の変化におびやかされることのない直線的な企業成長が予測できる限りにおいては合理的でした。しかし、VUCA時代においてはこの堅牢なオペレーションシステムが事業の方向転換を阻み、かえって成長の足かせになってしまいます。