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運用型広告時代の要!トレーディングデスク最前線(AD)

スマホファーストマーケティングを実践する、資生堂ブランド「レシピスト」のインハウス戦略

 若年層をターゲットとする企業にとって、今はマーケティングが難しい時代だ。テレビや雑誌など従来のメディアから離れつつある若年層は、次々と新たなチャネルに移行していく。トレンドの移り変わりが早く、若年層との接点を持つこと自体が困難な状況で、再現性のあるマーケティングをスピーディーに実施するにはどうすればいいのか。今回は資生堂グループの株式会社エテュセでマーケティング部長を務める長野種雅氏と、インハウス事業支援を提供するハートラス代表の高瀬大輔氏に、若年層向けのマーケティングに挑む姿勢とその実践を聞いた。

若年層のお客様と、ブランドを通して接点をつくる

MarkeZine編集部(以下、MZ):本日は若年層をターゲットにした資生堂のスキンケアブランド「レシピスト(recipist)」のマーケティングを担っている長野さんを、ハートラスの高瀬さんと一緒に訪問しています。まず、長野さんのこれまでの経歴と現在の役割を教えていただけますか。

長野:2000年に資生堂に入社し、当初は研究所に所属していました。入社してから10年間、シャンプーやコンディショナーの処方の構成や、基礎研究に取り組んでいたんです。

 その後、マーケティング部門に移動し、FWB(重ねたメークがお湯で落とせる化粧下地)やunoなどのマーケティングを担当していました。2017年1月から、現在担当しているレシピストのマーケティングに携わっています。様々な部署を経験してきていますが、私自身のミッションは変わっていません。資生堂がこれまで出会えていない、若年層のお客様と、ブランドを通して接点をつくることに注力し続けています。そのチャレンジの一つが、ミレニアル世代&EC特化型スキンケアブランド「レシピスト」です。

ターゲットの肌にぴったりあうような処方に仕上げたレシピストは、価格帯も全アイテム1,000円未満。「自然由来成分でうるおいつるん肌」というキャッチコピーで、若年層の心を掴んでいる。

施策&組織体制をデジタルシフトし、ケイパビリティを高める

MZ:デジタルシフトの流れは様々な業界で起きていますが、長野さんは化粧品業界におけるデジタルシフトについて、どのようにお考えでしょうか。

長野:化粧品業界のEC化率はたった5%と言われていますが、逆に私はここに大きな伸びしろがあると考えています。「化粧品は店頭で買う」という消費者心理を乗り越えるインサイトを発掘し、デジタルを活用した新しい仕掛けやコミュニケーションを実践していく必要を感じていました。

 ただ、私たちも各SNSの公式アカウント自体は立ち上げていましたが、効率的・効果的に活用できているかというと、そうではありませんでした。

高瀬:デジタルチャネル上では、生活者とのコミュニケーションもインタラクティブになり、 その分スピードも求められますよね。SNS施策は鮮度が命なので、そういったスピード感にも課題を感じていたのでしょうか。

長野:そうですね。世の中の流れに合わせて、社内で施策を進めるフローをスピーディーに、また組織の在り方も変化させ、会社全体としてケイパビリティを成熟させていく必要性は強く実感していました。

MZ:企業規模が大きくなるほど、スピーディーに施策を回すことは難しくなると思うのですが、資生堂ジャパンではいかがでしょうか?

長野:エテュセは、資生堂ジャパンの通常のマーケティング部よりもさらに意思決定を迅速にできるように、権限移譲されています。

高瀬:デジタルシフトにおいては、施策ベースだけでなく、組織・体制も鑑みて実行すべきです。レシピストはそこまで踏まえて、各施策を実行しているブランドですよね。

実務的なスキルに加え、インサイトを掴む定性的な要素も重要

資生堂ジャパン株式会社 事業戦略本部 株式会社エテュセ マーケティング部長 長野種雅氏

MZ:レシピストはマーケティング戦略の1つに「スマホファースト」を掲げていますよね。

長野:そうですね。基本的には、ターゲットユーザーがよく利用している、Twitter、Instagram、そしてYouTubeを中心にプロモーションを展開しています。

 ただ、プロモーションを行っていくなかで専門知識の不足を痛感することは増えていきました。たとえばABテスト1つやるにしても、どのような検証を行い、結果をどう分析すればいいのか、とにかく時間がかかっていました。

 PDCAを早く回すためにも、ブランドマーケティング×ECの知見を持つ、デジタル領域において専門性の高い人をアサインしなければいけないという課題を感じていました。そんな時に、資生堂ジャパンのEC事業部でグループリーダーを担当している小椋に相談したところ、ハートラスさんのインハウス支援を紹介してもらいました(参考記事)

高瀬:若年層に寄り添えて、InstagramやTwitterといったプラットフォームへの理解がある、デジタル広告の専門家を探されていました。求めているスキルと人材像がとても明確だったので、適した人材をすぐに探すことができました。

長野:昨年12月の中旬ごろにハートラスさんと初めてお話しして、1月にはハートラスさんからインハウスコンサルタントがレシピストのチームに加わりました。すごいスピード感ですよね。今はちょうど半年経ったところで、既にチームの一員として活躍していただいています。

高瀬:また「若年層に寄り添える」という条件がありましたが、ここがポイントです。実務的なスキルだけでなく、ユーザーインサイトが読み取れるかどうか。もっと平たく言うとユーザーの気持ちになれるかどうかという定性的な要素も意外と重要なのです。

 ただコンサルタントを派遣して、専門的な知識や業務リソースを提供するだけであれば、当社じゃなくてもいい。小手先の施策に終始せず、ユーザーを理解しながら事業に深くコミットし、ナレッジをレシピストのチームの方々にお渡ししていくのが私たちの使命だと信じています。

専門人材の投入により、全施策の効果検証ができる体制に

株式会社ハートラス 代表取締役社長 高瀬大輔氏

MZ:ハートラスさんのインハウスコンサルタントの方がチームに加わってから、どのような変化がありましたか?

長野:たとえば今年の6月に、ジャニーズJr.チャンネルでレシピストを紹介する施策を行いました。Twitter上で想定以上にファンの方のツイートと拡散が起きました。そこから出てきた言葉からチーム内でアイデアを出し合い、すぐに次の施策につなげることができました。「#長野部長」もその一環ですね。

 こういった行動をとれたのは、施策の目的と、それを達成するためのKPIとECの導線まで、しっかりと設計図を作ることができていたからです。ハートラスさんのインハウスコンサルタントの方がチームに加わったことで、一つひとつのアクションに対するKPIを設計し、効果を測定し、良し悪しをチェックできる環境を整えることができたのです。

高瀬:SNS施策は、世の中の動き、ユーザーの反応に即時対応しなければ、タイミングを逃してしまいます。データをもとに判断し、かつスピーディーに施策を進めることができる体制の構築も、ハートラスは支援したいと考えており、弊社としてもやりがいを感じながら取り組めていると思います。

長野:施策の効果検証を綿密にできるようになったのは、大きな変化です。設計図がないと、うまくいったのか、いかなかったのかが検証できず、ノウハウもほとんど蓄積できていませんでした。ハートラスさんにインハウス支援をお願いしてからは、設計図がしっかり構築され、効果が想定よりも良いのか、悪いのかが明確に把握できるようになりました。

高瀬:有難うございます。プロモーションにおける設計図を構築し、一つひとつのアクションの結果をデータで計れるように基盤を整えるのも重要な仕事の一つです。ただ並走すればいいわけではないんですよね。一方で、レシピストのチームの皆様にも、「いちメンバー」として迎え入れていただいているからこそ、だとも思います。

長野:そのおかげで、たとえば広告キャンペーンを打った時に、昨日の結果がこうだったから今日はこのように改善してみようと、データを判断軸に話し合えるようになりました。PDCAを回すスピードはかなり向上しましたね。

 私は、どれだけ派手なキャンペーンを打っても、設計・検証は地味に愚直に進めることが何より重要だと考えています。施策一つひとつの効果をしっかり検証し、ナレッジとして蓄積して再現性を高めてけば、成功率を格段に上げることができますからね。

テレビCMを使わない、認知拡大を狙った大型キャンペーン

MZ:今後はどのような施策を実施されるのでしょうか。

長野:この7月から、「スマホファースト」をキーワードに、Instagramを軸にした大型プロモーションの実施を開始しました。

MZ:Instagramを軸に据えた理由は?

長野:認知をとる施策というと、一般的にはテレビや雑誌などのマス媒体を活用しますが、私たちのお客様にはそこではリーチできません。レシピストのメインの顧客である若年層に最も効率的にリ―チするために、既存のマス媒体ではなく、若年層が普段から見ている媒体や場所に振り切ったほうがいいと判断したのです。Instagramだけでなく、YouTubeや駅広告も戦略的にメディアプランニングを組んでいます。

高瀬:その裏側で、各媒体を横断した個々の施策の結果の良し悪しを、データで判断できる設計図を作り、結果を見ながらチューニングできるようにしています。レシピストはEC専売商品ということもあり、認知が高まり、顧客が欲しいタイミングでECサイト上で商品の購入がスムースにでき、手元に届くまでの物流が滞りなく進行することが重要です。そのためには、マーケティングチーム内だけでなく、EC事業部やIT部門など、部署を越えて調整・連携をサポートさせていただいています。

変化の激しいマーケットに柔軟に対応し、成果の出せる組織へ

MZ:ゆくゆくは自分たちで効果検証し、社内にナレッジを貯めていく状態になるのがゴールだと思います。レシピストチームが自走できるようになるまでのスケジュールはどのように設定しているのでしょうか?

高瀬:まだ、明確な時期は決めていません。今年から取り組みを始めて、最初の3ヵ月はレシピストというブランドと、お客様の理解に徹しました。次の3ヵ月でプロモーション施策の効果検証するための環境構築を進め、徐々に基盤ができています。すべての施策はレシピストのお客様ありきで行われるものなので、お客様の変化に合わせて施策も変えていかなければいけない。また新たなプラットフォームが台頭するかもしれないので、柔軟に対応しつつ、私たちがお役御免になる状態を目指しています。

長野:私がハートラスさんに期待しているのは、施策を体系化し、処方箋を作ってもらうことです。処方箋を見れば誰でも同じように施策を運用できる状態になるのがベストですね。高瀬さんのお話にもありましたが、いつ新たなプラットフォームが出てくるかわかりません。大事なのは資生堂を主語にせず、お客様である若年層の変化を捉えること。彼らが何を求めているのかを読み取ることです。

 変化を把握し、ユーザーインサイトを理解したうえで施策に落とし込み、効果検証できるようになるまでは、まだ時間が必要です。1年か2年なのかはわかりませんが、変化に対応しつつ、安定した成果を出せる組織をハートラスさんと一緒に構築していきたいですね。

高瀬:やはり、ツールやデータという手段ありきのサポートではなく、チームビルディングやナレッジ蓄積にどれだけ貢献できるかがインハウス支援においては重要だと思っています。有り難いことに、近い距離感でお仕事させていただいており、今や自分たちをレシピストチームの一員と認識しています。今後も誠実に、かつ要望に対してはスピーディーに応えるといった日々のコミュニケーションの積み重ねの中で信頼関係を構築しながら、一緒にブランドを成長させていきたいです。

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この記事の著者

水落 絵理香(ミズオチ エリカ)

フリーライター。CMSの新規営業、マーケティング系メディアのライター・編集を経て独立。関心領域はWebマーケティング、サイバーセキュリティ、AI・VR・ARなどの最新テクノロジー。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/07/10 10:00 https://markezine.jp/article/detail/31408