広告会社の仕事がなくなる未来、新たな媒体は“個人情報”
2015年10月、私は京都の料亭で、元電通顧問の秋山隆平氏にお会いした。秋山氏は、2004年に電通が提唱した「AISASモデル」の考案者で、電通デジタル・ホールディングス社長など要職を歴任し、その後、引退して京都に居を構えていた。
秋山氏が作った「AISASモデル」を、私は勝手に改変し「Dual AISAS Model(R)」を作っていた。その改変したモデルを、ありがたいことに、電通と一緒に商標登録することになっていた。電通の役員の方のアドバイスで、秋山氏に事の顛末を説明し「ご承諾を得る」のが、京都訪問の目的だった。
東京から同行した電通スタッフと一緒に料亭の個室で秋山氏を囲んだ。「Dual AISAS Model(R)」について私は説明したが、それについては、まったく意に介する様子はなく、「モデルは必要に応じて、作り替えていくものです」とアドバイスを頂いた。そして、広告業界の現状から最先端テクノロジーの動向まで、話は多岐に及んだ。
その秋山氏の話の中で、私の印象に残ったものとして、量子コンピュータの話がある。当時のメモを要約すると、その時の秋山氏の話は、以下のような感じだ。
量子コンピュータの開発によって、今後はどのメディアにいくら投資することが効率的か、ボタン一つで算出することができるようになるだろう。今の小学生が大人になったときになくなる職業は、1:薬剤師、2:弁理士(弁護士)、3:広告代理店、と言われている。
量子コンピュータは、これまでのコンピュータと違って、複眼的な視点で全体を見ながら複数のタスクを同時に実行することができる。今のネットのパスワードなどはすぐに解読できてしまう。そうするとデジタルセキュリティをもう一度作り直さなければならない。
量子コンピュータはもう実現できているといわれている。噂では、ロッキードは軍の予算を使って開発。他にもGoogle、IBM、アリババなど、次は、実用化の段階だ。
ハード(コンピュータ)とネットワークの容量不足が交互にくる。量子コンピュータができれば、そのときには、インターネットは容量不足になる。もう一度ネットワークを作り直さないといけない。
量子コンピュータの時代には、マーケターが不要になる。データを蓄積して解析すれば答えが出てしまう。人間には、そのロジック・理由はわからないかもしれない。モデルなど意味がない。そのときどうするか?
秋山氏の口ぶりは、京都の禅寺で修行した禅僧のようだった。その超然とした声で、「私はもう、引退したんだよ。広告業界の仕事、電通の仕事も、いずれなくなっていく」と。
「どうしたらいいでしょうか?」と私は返した。
「そのときどうするか?」と、ポツリと秋山氏。私は、まるで、秋山氏から宿題を出された気がした。
秋山氏と別れて、東京に戻ったあとも、秋山氏からもらった宿題が、私の頭から離れない。「そのときどうするか?」という秋山氏の柔和な、語りかけてくる声が、繰り返し、私の大脳をグルグルと回っている感じだった。
それから数日経った、ある朝、「そうか!」と私はベッドから飛び起きた。「個人情報だ。個人情報は媒体じゃないか!」と私は思い至った。その時の、私の小さなヒラメキが、電通グループの情報銀行「株式会社マイデータ・インテリジェンス」の設立につながっている。