オムニチャネル統合度が顧客体験にもたらす影響
これからはお客様にチャネルを提供したらどう行動するかを見なければいけない時代が来ます。そのチャネルは必ずしも販売チャネルだけではなく、DMやIoTデバイスも含まれるでしょう。
企業は本当の意味で消費者視点に立ったオムニチャネル買物価値向上に向けてデジタル時代の買物体験を設計していく必要があります。元々取り組むべきことでしたが、購入の時間ばかり見ていて、気がついていなかったのです。チャネルだけに注目していると、購買のフェーズしか理解できません。これは筆者が提唱する顧客時間のフレームワークにおける基本中の基本となります。いよいよ、オムニチャネル買物価値の解明と進化、そして変化の時期が来ていると思います。

本記事でお話しした内容は、筆者が進めているオムニチャネル買物価値研究のほんの一部であり、まだまだ学術的根拠の薄いものであります。
データ分析結果からオムニチャネル買物価値に影響するかもしれない要因が少し見えてきましたが、今回の大規模調査は様々なブランドの利用経験者に同じ質問をしているため、特定のブランドで店舗とオンラインショッピングを使いこなす人に、今回の調査と同じ質問をすることも必要になると考えています。特に期待しているのが、店頭受け取りサービスの利用者を分析することです。このサービスを使いこなす人をオムニチャネルショッパーと仮定し、その考えや行動を明らかにしたいと考えています。
さらに新しいモデルにおいてもヒューレ先生のモデルにある「オムニチャネル統合度(Omni-Channel Intensity)」という考え方が大切だと思います。オムニチャネル統合度は、簡単にいうと企業が提供するオムニチャネルの完成度のことで、この概念を構成する要素として「シームレス度」と「知覚された一貫性」の二つがあります。オムニチャネル統合度が高いと評価される企業と低いと評価される企業では買物価値に差が生まれそうです。
お客様にとって重要なのは意図した買物ができるかであり、チャネルの「シームレス度」を知覚することはありません。ですが、オンラインショッピングで自分の買ったものが不良品だったり、返品のために店舗まで行ったのに受け付けてくれなかったりすると、「知覚された一貫性」が壊れたと認識し、オムニチャネル買物価値は低下します。
店舗でもオンラインストアでもモバイルアプリでも、どこから買う場合でも体験に差がなく、安心して買物ができると知覚(理解)していることが何よりも重要です。一貫性の維持が重要だとすると、やはりオムニチャネル統合度という変数は必要になります。オムニチャネル買物価値がチャネルの完成度を前提にしていると仮定すると、その環境を提供した場合に消費者がどう行動したのかを検証する必要があるでしょう。引き続き、今回の考察内容のさらなる推敲を進め、新しいモデルの考察を行っていきます。
もっと重視するべきロイヤルティと顧客体験
さらにデータ分析を進めていく中で大切ではないかと考えているのがロイヤルティの存在です。ロイヤルティが生まれるということは、顧客満足も確実に生じていると考えられます。つまり、顧客満足が先にあって、ロイヤルティが生まれてくる。当たり前だといわれそうですが、この順番を意識することも大切です。
お客様にはチャネルへの帰属意識はありません。3つのチャネルを用意しても、店舗でしか購入しない人もいるでしょうし、全部を使わないと買物ができないわけでもありません。チャネルを増やした結果売り上げが増えるのではなく、元々そのブランドが好きなお客様が、チャネルが増えた結果、より多くの買物をしてくれるようになった、そこで満足感情が生まれて、ロイヤルティが生まれていくという構図が成り立つように思います。
ブランドに好意を持っているからこそ、消費者はチャネルを行き来することを厭わないのだとすると、冷静であると同時に熱い消費者との関係構築が重要になります。たとえ、口コミやソーシャルメディアでのエンゲージメントがなくても、ブランドを好きで購入してくれるならば、良い関係を築けていると判断していいのではないでしょうか。チャネルが増える分、これまでよりも顧客体験は複雑になりますが、「確実に買物をしたい」「失望したくない」と考えているお客様の思考や行動に関する仮説を、今後も継続してブランドごとに検証していくつもりです。
このことは消費者視点のオムニチャネル買物価値の理解に寄与するだけでなく、デジタル時代のブランドロイヤルティ、顧客満足も解明できるのではないかと考えています。次回の連載でも多くの気付きが共有できると思います。よろしければ是非お付き合いください。
