オムニチャネル買物価値に影響を与える要因とは何か?
以前、私は「なぜ、オムニチャネルの前に、買物価値なのか 『買物の快楽性』を問い続けよう」で、買物価値には欲求に基づく「快楽的買物価値」、最短・最速で必要なものが買える「合理的(功利的)買物価値」、ブランドロイヤルティや賢い消費者でありたいという欲求に対応する「社会的買物価値」という3つの要素があると解説しました。これはヒューレという先生が、共同研究者と2017年に発表された論文がもとになっています。
この3つの価値がオフライン(店舗)、オンラインストア(EC)、モバイル(アプリ)での買物を通じて満たされていれば、オムニチャネル買物価値は高いと指摘したのがヒューレ先生(仏レンヌビジネススクール)です。
この先行研究の成果をもとに、今年の春頃、日経リサーチ様にご協力いただき、デジタル時代の買物体験に関する大規模調査を行いました。複数のブランドに対する店舗、オンラインストア、モバイルアプリの利用経験をアンケートで回答してもらい、これら3つのチャネルをすべて利用したことのあるユーザーを抽出して、データ分析を現在行っています。
このデータをもとにヒューレ先生のモデルを検証し、そこから見えてくる買物体験を現在考察中なのですが、改めて「オムニチャネルとはどこまでいっても企業視点の考え方にすぎない」のではないかという疑問が浮かび上がってきています。
当たり前に聞こえるかもしれませんが、消費者はチャネルがシームレスにつながっているかどうかを意識していません。買物時に「店舗とネットをシームレスに行き来ができてサイコー!」と、普通のお客様は思わないわけです。自分の買物が時にウェブルーミング的であり、時にショールーミング的であるだけで、その買物がうまくいくかどうかだけが消費者が認識できることだと私は考えています。
とは言え、買物価値を得るのは消費者ですし、消費者がチャネルを自由に行き来することによって、価値は生まれますから、企業はオムニチャネル戦略を策定し、実行していく必要がありますが、あくまでお客様が体験できるのは、お客様一人ひとりのオンラインとオフラインを行き来するマルチチャネル体験であると考えるべきだと思います。
さらに、実際に3つのチャネルをすべて使った人たちのアンケート結果を見ながら考察を繰り返している中で、おぼろげながら見えてきたのが、オムニチャネル買物価値に影響を与える要素には、プラスのものとマイナスのものが混じり合っていそうだということです。
プラスの要因
- 「買いたいものがちゃんと買えた」
- 「買物の純粋な楽しみ」
- 「ブランドへの好意」
マイナスの要因
マイナス要因はプラスの要因の裏返しともいえそうなのですが、
- 「買いたいものがなかった」
- 「何らかの理由で、買いたいものが買えなかった」
チャネルを行き来する消費者は、「そのブランドが好きで、かつ冷静に買物をする過程で、お得はもちろん、楽しく、自分の買物目標をクリアしたいという体験追求を行っている」。それは逆にいうと、店舗、オンラインストア、モバイルアプリと自分の大切な時間をどこかのチャネルから買物するために費やしたのに、欲しいものが買えなかったり、オンラインとオフラインでちぐはぐな接客をされたりと不愉快な体験があると、お客様のオムニチャネル買物価値は低下してしまうのではないかという考え(あくまで仮説ですが)に最近たどり着きました。