アップセルチャレンジは営業と連携
次に取り組んだのがアップセルチャレンジだ。料金プランを刷新し、機能に応じて3つの料金プランを設定。同時にオプション機能も販売した。アップセルで重要なのは、既存顧客に対するアプローチである。高橋氏が留意したことは、「カスタマーサクセス担当として顧客側の視点に立つこと」だったという。
「カスタマーサクセスのミッションは、製品の魅力を伝え、顧客の課題解決に寄り添うこと。そのため、料金プランの話は担当営業に任せるようにしました」(高橋氏)

オンボーディング体制は順調に機能した。ただし、新たな課題も発生した。それは、SmartHR側の人手がかかることと、オンボーディングがうまく機能しない顧客に対するフォローが後手に回っていたことだ。高橋氏は、「サービスの成長スピードを考えると(この課題は)早めに次の策を考える必要がある」と指摘した。
こうした取り組みの結果、NRR(Net Retention Rate:サブスクリプションの月額継続収益)は、2019期中の実績で125%となった。その主な要因は、既存ユーザーからの売上増加である。これを達成するためには「解約率の抑制」と「コンスタントな売上増」を同時に実現しなければならない。高橋氏は、「そのためには顧客に愛される製品を提供しつづける必要がある。我々はそれを実現し続けたい」と力説した。
経営層がカスタマーサクセスに忠実であれ
高橋氏は「こうした取り組みはカスタマーサクセス部門だけで取り組むと失敗する。会社組織全体でカスタマーサクセスを意識する必要がある」と警鐘を鳴らす。
「『マーケティングだから』『営業だから』『開発だから』と言い訳をし、カスタマーサクセスに関係ないと思うのは危険です。カスタマーサクセスは、顧客がサービスを認知するところから始まっているのです」(高橋氏)
セールス部門との取り組みとして重要なのは、継続への意識を持ちながらも新規獲得を追うこと、継続利用が難しそうな顧客をとらないマインドを持つことだ。
「新規顧客獲得にチャレンジすることはもちろん良いですが、その場合はカスタマーサクセスを念頭に置くことが重要です。場合によっては、顧客からの導入依頼を断るケースがあっても良いと思います。一方、解約が発生した場合には、その原因を丁寧に分析することが大切です」(高橋氏)
最後に高橋氏は、「サブスクリプションモデルは信頼をつかむことが大事であり、各セクションで適切な期待値コントールを行う事でカスタマーサクセスを実現できる。全社一丸となってカスタマーサクセスに取り組むには、経営層がカスタマーサクセスに忠実である必要がある」とコメントし、講演を締めくくった。