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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

V字回復を実現 マーケティングに活路を見出した丸亀製麺の体制改革

「店内手作り」を打ち出して客数増

――マーケティングに活路を見出し、内製化と外部からの両面でテコ入れしたわけですね。既存のマーケティング部のミッションも変わりましたか?

 はい、大きく変わりました。一般的に外食は営業が強く、当社の以前のマーケティング部もあくまで営業部と連携したプロモーション企画や制作に留まっていました。そこで顧客分析を軸に川上から川下まで戦略を立てる機能として新たに発足した形です。現在は、丸亀製麺以外のブランド担当者も含めて18人の部署になり、丸亀製麺は刀さんと協業している状況です。

――今年6月に協業を発表した際のリリースでは、1月末に新しいマーケティング施策を開始して、わずか3ヵ月で来店客数を前年同月比95%から102%へとプラス転換したと書かれていました。実際、何をどう変え、また何を変えなかったのでしょうか?

 本質的には、何も変えなかったんです。我々の強みや方針は一切ぶらさずに、訴求する内容を刷新しました。具体的には、これまでフェア商品を主に訴求していたのをやめて、「店内で手作りしていること」を大きく打ち出しました。ブランドメッセージも「ここのうどんは、生きている。」と改め、また麺のおいしさにフォーカスした「丸亀食感」というキーワードも新たに設定しました。

自社の強みを訴求する、新しいブランドメッセージ「ここのうどんは、生きている。」に基づいたクリエイティブ。
自社の強みを訴求する、新しいブランドメッセージ「ここのうどんは、生きている。」に基づいたクリエイティブ。

数字こそが唯一の拠りどころ マーケティングの力を実感

――本質的な価値は何も変えず、むしろそれをコミュニケーションのど真ん中に据えたのですね。

 そうです。実は改めて調査すると、なんと店内で製麺していることを知っているお客様は半分くらいしかいませんでした。店に入ればお客様の見えるところに小麦粉の袋もあるし、製麺機も回っているし、「手作り」なんて皆さんご存知だろうとばかり思っていたんです。

 でも、店舗数が増える中で、ブランド自体がコモディティ化していたんですね。お客様にとって丸亀製麺は「店内で手作りしている特別な店」から、よくあるチェーン店になってしまった。その変化に我々は気づいていなかったのです。顧客を見失っていました。

 併せて調査からは、我々の想像以上に「うどんを外食する人」が少なかったこともわかりました。中食や内食(自宅)を含めた「うどんを食べる人」のうち、1割しかうどん店に行っていないんです。ここにはまだ、伸びしろがあります。そこで刀さんともひざを突き合わせて、まだうどん店に足を運んだことがない人もターゲットにし、かつ強みをメインに打ち出すという転換をしました。

――これまでのコミュニケーションを大きく変えることに、ご自身に抵抗はなかったのでしょうか?

 抵抗というか、不安はありました。需要を喚起していると思っていたのにそうではなかった、自分の間違いがわかった瞬間から、不安でした。ですが、実際に来店客数が前年を割り込み、変わらないといけない現実はあるわけです。それならもう、やるしかないと腹を括りました。

 これまでのフェア商品の訴求と違って、現在の路線はとても地味ですが、方針を転換した翌月から客足が持ち直し、今も成長がしっかり数字に表れています。これまでうどん店に来ていなかった方にも届いていると、マーケティングの力を実感しましたし、お客様の気持ちが目に見えない以上、数字は唯一の拠りどころだと思うようにもなりました。

渋谷ソラスタの新オフィス。オランダ発の自由度の高い働き方「ABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)」をコンセプトに採用し、先進的な働き方を追求している。
渋谷ソラスタの新オフィス。オランダ発の自由度の高い働き方「ABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)」をコンセプトに採用し、先進的な働き方を追求している。

「お店が主役」の考えでライフスタイル提案企業へ

――現状では、刀さんとは施策の検証や日々の数字の確認などをどのような形で進めているのですか?

 現場は南雲が率いながら、刀さんのメンバーには数字などもすべて開示して、社員レベルでコミットメントしてもらっています。刀さんと組み始めた当初は、それこそ10年分くらいデータをさかのぼり、一緒に傾向の分析、仮説立て、調査を繰り返していましたね。目下、広告宣伝による集客売上の予測モデルの精度を高めており、今後は店舗ごとの原価や人件費まで予測できるモデルを構築したいと考えています。

 いくら優秀な外部パートナーと組んでも、主体性をもって対等に渡り合えるだけの組織がなければ、いつまでも頼りきりになってしまいます。なので、もちろん数年単位の話ですが、我々もいずれマーケティングを内製化して自走することを目標にしています。

――ちなみに、新体制になって新たなツールの導入やIT投資はされたのですか?

 いえ、大きくはしておらず、もともとあった基盤を活かしています。以前も意思決定が遅い会社ではありませんでしたが、現状の体制になってデータを積極的に活用するようになり、高速でPDCAを回して意思決定も速くなりました。ツールや投資ももちろん重要ですが、やはり、人の力が原動力になるのだと思います。

――前半でも、人材の力こそが御社の強みだというお話がありました。改めて「手作り」を打ち出し、その価値を顧客が実感するためには、店舗スタッフにまで会社が大事にしていることを理解してもらう必要があると思いますが、飲食業ではかなり難しいことだと聞きます。その点の工夫と、今後の展望をうかがえますか?

 おっしゃるとおり、それは簡単ではありません。一つ言えるのは、店舗スタッフの皆に「成功体験」をしてもらうことです。「お客様はできたてを食べたいはずだ」といくら私が言っても、店舗で実際にできたてが作られる過程を体感したお客様が嬉しそうでなければ、スタッフも楽しくはならないですよね。今回、手作りの麺のおいしさを改めて訴求したことで、今後は店内の製麺機や麺を作るスタッフの姿にも一層注目が集まると思います。その注目やお客様の喜びを、もっと感じてほしいですね。

 当社では「お店が主役」という考えを徹底していて、本社スタッフは皆、お店で働くスタッフに寄り添う姿勢でいます。昨年は南雲の提案で、全国4ヵ所で社員やスタッフ向けのブランド説明会をし、直接話せて私も力をもらいました。別ブランドにはなりますが、現在店舗展開を進めているハワイの食卓をテーマにした「コナズ珈琲」など、飲食を含めたライフスタイルを提案するブランドにも注力しています。今後も皆で一丸となり、また社外の力も借りながら、食を中心にした我々ならではの価値を提供していきます。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/25 13:00 https://markezine.jp/article/detail/32223

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