目指すKPIに応じてダイナミック広告の配信設計を
「キャンペーン設計」「シグナル」「クリエイティブ最適化」という3つの切り口でダイレクトレスポンス目的のInstagram広告活用について解説したのは、Facebook Japan営業本部長の日下部大氏。まずはキャンペーン設計において、ダイナミック広告が有効であるということを、事例を交えつつ説明していった。Facebookのダイナミック広告は、利用者の興味関心に応じた広告を動的に生成するというものだ。カタログに登録された商品からおすすめのものを、自動的に表示する。
「ダイナミック広告はECサイト向けのものだと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、我々はその他のお客様にも活用いただけると考えています」と日下部氏。
暮らしをデザインする住まいのビジュアルプラットフォーム「LIMIA」がアプリインストールを促すダイナミック広告を行った事例では、CPIが32%削減されたという。
「一つひとつの記事をECにおける製品と同様に捉え、ダイナミック広告を活用していただきました。カタログには、たとえば検索ランキング結果なども取り込むことができます」(日下部氏)
一般的に、商品の認知施策はブランド側が行い、購入施策は小売店が行うことが多いが、ダイナミック広告を活用することで、購買目的の広告をブランド側が直接出稿することも可能となる。ブランドは小売店のカタログを使って商品のダイナミック広告を直接Facebookに配信。広告をクリックすると、小売店のWebサイトに移動し、そこで商品を購入することができる。この仕組みをコラボレーション広告という。
「コラボレーション広告を使うことで、たとえば、楽天市場のようなECモールが持つカタログをもとに、ブランドが直接自社商品のダイナミック広告を出稿するということができます。クリックされると、楽天市場に遷移し、商品を直接購入することができるというわけです」(日下部氏)
似たようなダイナミック広告は他にもあるものの、Instagramならではの強みがあるという。現在、1人の利用者は、平均して7つのCookie情報を持つと言われている。たとえば会社のPC、個人のPC、会社のスマホ、タブレット、個人のスマホ、あるいはモバイルのブラウザ、アプリといったように複数のデバイスや閲覧環境があるためだ。そのためCookieベースで機械学習を行うと、一部の行動だけを判断材料にそれぞれ最適化していくことになる。しかし、Instagram広告はFacebook IDによって同じ人であると紐付けることができるため、分散したデバイスの個別最適ではなく、全体最適ができるのだ。
詳細マッチングを併用し、シグナルの質と量を上げる
続いて日下部氏は、収集するシグナルデータの質と量を上げることについて語った。シグナルとは、Instagramのフィードやストーリーズへの投稿表示順位や表示させる対象を最適化する機械学習のベースとなるデータポイントのことだ。
シグナルというとWebサイトに埋め込むピクセルやアプリにおけるSDKのみの話だと思われがちだが、それ以外にもシグナルを収集する方法はいくつもあるという。日下部氏が薦めるのは、「詳細マッチング」という機能を使用することだ。これは、既に保有しているメールアドレスなどの顧客データを使用し、その顧客とInstagram利用者とを高い精度で照合していくもの。これにより、シグナルの質や量を上げていくことができるのだ。
たとえばオルビスの事例では、詳細マッチングを導入することでCVRが1.4〜1.6倍ほど改善傾向にあったという。詳細マッチングには、「自動詳細マッチング」と「手動詳細マッチング」の2種類があり、オルビスの事例ではその両方を併用していた。
自動詳細マッチングでは、手動詳細マッチングに比べて捉えられるデータが限定的だ。たとえば、自動詳細マッチングは金融業界では使えないが、手動詳細マッチングは使える。データ形式についても、前者では規定フォーマットのみだが、後者ではカスタマイズが可能。たとえば日付を「20191029」と表記することもあれば、「2019-10-29」と表記する場合もある。こうしたフォーマットが広告主とFacebookで異なる場合、自動詳細マッチングだけではデータがマッチしないということが起こり得る。また、データ送信タイミングに関しては、手動詳細マッチングでは、利用者がフォームに入力した時に別の情報も自社のデータベースから出して促すことができるので、より確度の高いマッチングを行うことができるのだ。
自動詳細マッチングでFacebookにログインしていない利用者に対してもCV計測が可能となり、手動詳細マッチングでピクセル/SDKを改修することで、よりリッチなシグナルを補足できるため、可能な限り両方を併用することを推奨しているという。
エン・ジャパンはInstagram広告への投資金額を大幅にアップした
続いて、エン・ジャパンの田中奏真氏を迎え、クリエイティブ最適化についてパネルディスカッションが行われた。
日本の生産年齢人口は右肩下がりだが、転職者数は増加している。「では何もしなくても弊社に登録していただけるかというとそうではありません。他にも人材サービスはたくさんありますし、求職者が優位なマーケットなのでプロモーションの難易度は高い。特に若年層へのリーチは難しいので、若年層が多く利用するInstagramの重要性はとても高いです」と田中氏は話す。
実際に、エン・ジャパンのInstagram広告への投資金額は、前年比でフィード広告が131%、ストーリーズ広告が441%と大幅に伸びている。田中氏は、「投資金額に対するリターンも非常に大きい」とその実感を語った。
わずかな違いがCV10%の差を生む
エン・ジャパン運営の転職サイト「エン転職」は総会員数が750万人を突破していて、新規会員が毎月7万人ペースで増えているという。Instagram経由の登録も少なくない。
「Instagramでは、潜在層の方へのリーチに注力しています」と田中氏。「エン転職を知らない」「エン転職を知っているがアプリをダウンロードしていない」「アプリをダウンロードしたが求人を閲覧していない」というファネルの上位3つに対して、Instagramキャンペーンを活用している。
田中氏は、「1人がたとえ100社に応募しても入社するのは1社。1人に何通も応募してもらうより、多くの求職者にエン転職を知っていただくことを優先しています」と語る。
田中氏がInstagram広告で特に注力しているのがクリエイティブだ。Instagram上で他のコンテンツと並んだときに、その人にとって見たいもの、保存したいものになっているかが非常に重要だからだ。また、進化し続けるアルゴリズムに対応していくために、高品質なものを大量に作っていくスタンスを保っている。2年前には月に10本用意していたものが、今はAIも活用することで月に100本用意するといった具合だ。
「観察(Observe)」「仮説構築(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」の4つからなるOODAループによる効果検証も行っている。同じ背景画像でもロゴや文字の入れ方を少し変えただけで、コンバージョンが10%も違ってくることもあるという。
最後に日下部氏が来場者へのアドバイスを求めると、田中氏は「アドバイスできるほどの立場にいない」と恐縮しながらも、次のように締め括った。
「3年前の自分に伝えるなら、新たな広告ソリューションはいち早く使えと言います。仮にそのキャンペーンが成功しなかったとしても、機械学習が日々進化する中で、教師データを貯めることが重要だからです。また、Facebook社さんと目標設定を行い、パートナーシップで目標とのギャップを埋めていくことも大切でしょう。インハウス運用による知識だけでなく、外部のパートナーから得た知見も活かして、利用者のためのコンテンツ制作を続けていきたいと思います」(田中氏)
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『資生堂がInstagramを中心としたブランディング戦略を公開 ストーリーズ広告の新常識とは?』