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定期誌『MarkeZine』特集

CRMで収益と顧客満足度を最適化する

ハイプ・サイクルの概要と「CRMのハイプ・サイクル」の使われ方

 前提として、誤解されやすい「ハイプ・サイクル」そのものについて簡単に説明します。ハイプ・サイクルとはガートナーが1995年から活用しているメソドロジーで、特定のテクノロジーやサービス、関連する方法論、プラクティス、コンセプトなど(以下、キーワード)の認知度、成熟度や採用状況、および各キーワードが実際のビジネス課題の解決や新たな機会の開拓にどの程度関連する可能性があるかを視覚的に示したものです。ハイプ・サイクルは、横軸に「時間の経過」、縦軸に「市場からの期待度」をプロットしています。ハイプ=誇張という意味の通り、多くの新技術は出始めのころに一定の注目を集め、その期待がピークを過ぎると急速に関心が薄れる、大きな山を越えるような軌跡をたどります。

 この落ち込む時期を「幻滅期」と呼びますが、決してそこにプロットされた技術が役に立たないという意味ではなく、あくまで企業の注目の山を越えた段階と見なします。ここから、本当に価値ある技術はじわじわと企業に浸透していき、やがて当たり前のものとして定着していきます。

 幻滅期は、企業からの期待と現実とのギャップが浮き彫りになった状態ですが、このギャップを読み解いていくのは簡単ではありません。当然、ここで消えていくものもあります。どの技術がどのくらいのスパンでギャップを埋めて再び浮上するのかは、各ベンダー企業の努力が見える部分であり、アナリストとしてとても興味深いところでもあります。

 ハイプ・サイクルは軌跡の形こそ一定ですが、当社では継続的に様々な領域でこれを調査・発表しています。その中で私はCRM領域の技術の導入率などを経年で調査し、「日本におけるCRMのハイプ・サイクル」をまとめているというわけです。

図表1 日本におけるCRMのハイプ・サイクル:2018年
図表1 日本におけるCRMのハイプ・サイクル:2018年
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 毎年の発表時にはこの図をメディアで取り上げていただくことも多いので、CRM関連テクノロジーの浸透と成熟の目安として広く参考にしていただいています。当社のクライアント企業向けには、詳細な解説とともに定期的に発行するレポートとして提供しています。クライアント企業の担当部門は、ユーザー企業なら情報システム部門、テクノロジーベンダーならマーケティング部門が中心になります。前者は技術の成熟度合いを次の投資の参考に使い、後者は自社が扱う技術が客観的にどの段階にあるのかをマーケティングや営業の材料にしています。

CRMとは、収益と顧客満足度を最適化するビジネス戦略

 さて、ガートナーではCRMを、「顧客セグメントを中心に顧客満足度が向上する行動を推進し、顧客中心型のプロセスを実装することで形成される収益性、売上、顧客満足度を最適化する成果をもたらすビジネス戦略」と定義しています。マーケティングにおける一手法ではなく、CRMの中に営業やマーケティング、コマース、最近ではカスタマーサクセスなどの領域も含んでいます。ですので、たとえば昨年から少し進展している従業員向けの「ワークフォース・エンゲージメント管理」や、2019年に新たに登場した「営業エンゲージメント・プラットフォーム」なども、「日本におけるCRMのハイプ・サイクル:2019年」にプロットしています。

図表2 日本におけるCRMのハイプ・サイクル:2019年
図表2 日本におけるCRMのハイプ・サイクル:2019年
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 なお、各技術の用語は基本的にガートナーのグローバルの用語に準じているため、日本市場ではピンとこないものもあるかと思います。たとえば既に安定期に入っている「リード管理」は、日本でいうところの「マーケティングオートメーション」を実質的に意味していますが、当社では以前から新規リード獲得とナーチャリングを「リード管理」と表現していたのでそれを踏襲している、などの表記の注意点があります。

 併せて「CRMのハイプ・サイクル」という名称も、実は担当者としてこの数年は迷うところもあります。実際、既に米国では「CRM」としては作成しておらず、営業やマーケティングなどの業務領域に細分化したハイプ・サイクルを作成しているのですが、日本では市場規模が小さいこと、また前述のように情報システム部門の方が社内投資の参考にされる際に1枚に網羅しているほうが有益なことから、今のところCRMやCXの向上に貢献すると考えられる様々な技術を集約しています。

 以下はその前提で、図の見方と今年の「日本におけるCRMのハイプ・サイクル:2019年」のポイントを解説していきます。まず図の見方ですが、やはり毎年注目されているのは、左側の黎明期にある技術です。出始めの技術、いわゆる“流行り言葉”がこの線上に集まります。

 この線上にある技術は、注目すべきである一方で、急に関心が上るものほど期待外れになる可能性にも注意しなければなりません。山を越えて下降したまま上昇せずにそのまま廃れてしまうこともあるため、あまり大きな投資をするのはリスクが大きい面もあります。

 たとえば「顧客データ・プラットフォーム」(以下、CDP)は、現在急激に期待度が高まっている技術のひとつです。今まで見えなかったデータを可視化できるという点で、新技術を積極的に取り入れる先進的な企業を中心に熱心に使われ始めていますが、顧客データはプライバシーの問題と密接で、法整備も含めて今後クリアすべき事項が出てくる可能性も大いにあります。

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2019年の傾向:プラットフォーム化とリテンションシフト

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この記事の著者

川辺 謙介(かわべ けんすけ)

ガートナージャパン株式会社 リサーチ&アドバイザリ部門顧客関係管理/カスタマー・エクスペリエンス管理シニアディレクター、アナリスト
ガートナージャパンにおいて、CRMを中心とした調査・分析・予測と、それに基づいたユーザー企業への提言を行っている。ガートナージャパン入社以前は、無線電気通信事業者においてCRM(顧客分析...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:41 https://markezine.jp/article/detail/32355

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