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奥谷さんと学ぶ、"勝てる"マーケティング思考

消費者視点のオムニチャネル戦略で重要な3つのポイント、鍵を握る店頭受取サービスの導入

オムニチャネル戦略の3つのポイント

 モバイルショッパーマーケティングを踏まえ、私の博士論文ではオムニチャネル時代の理論フレームワークを提案する計画です。とかくオムニチャネル化自体が目的になりがちですが、お客様が判断できるのは自分自身の体験に一貫性があるかどうかだけで、チャネルがシームレスかどうかは意識していません。そもそもお客様がそのようなことを考えて買物していると考えることに無理があります。お客様視点でオムニチャネル価値を考える際に重要なポイントはざっくり言うと次の3つでしょう。

  1. マルチチャネルショッピング
  2. ショールーミング/ウェブルーミング
  3. 店頭受取(BOPIS:Buy Online Pick-up In Store)サービス

 オムニチャネルショッパーを理解するには、まずスマホを活用した買い物体験の環境を整備することが前提となります。繰り返しになりますが、お客様は自分自身がオムニチャネルショッパーかどうかを自覚しているわけではありませんから、チャネルを行き来しているかどうかを確かめるには、顧客IDの統合や、ネットとリアルを行き来しやすい環境を作った上で、店舗スタッフにモバイルテクノロジーの武器(顧客情報やモバイルデバイス)を渡すことが大切です。

 たとえば、あるお客様が家電量販店でPCのショールーミングをしているとしましょう。まだ購入意欲は固まっていません。そこでの接客でそのお客様が商品を買う意欲は高まったものの、その店舗で買うまでには至りませんでした。

 その場合、少なくとも競合の店舗に行って、購入に至ることは避けたい。接客のプロであれば、会話の中からそのお客様が今日はこのお店では買わないことがなんとなくわかるもの。情報収集だけが目的とわかって、ガッカリするのではなく、そのお客様のデータを基に「うちもネットストアをやっているので、よかったらそちらでどうぞ」と言える仕組みが必要です。

 ウェブルーミングの場合はどうでしょうか。お客様の購入意欲は高まっているのですが、どこで購入するかはまだわかりません。先のPCの例で言えば、お客様はビックカメラのサイトやヨドバシカメラのサイトを見ているし、価格.comも見ています。自分たちを選んでもらうには、店頭在庫の可視化が必要です。お客様としては購入意欲を固め、店舗に出向いたのに欲しい商品を買えないことを避けたい。無駄足を避けるためにも、店頭在庫を確認できるテクノロジーへの投資が必要になります。

BOPIS(店頭受取サービス)がなぜ重要か

 店頭受取サービスがなぜ重要か。研究者も実務家も、オムニチャネルショッパーがネットとリアルとモバイルの3つのチャネルを使いこなせる人とみなしがちです。この定義が正しいと仮定して、その人たちをどうやって見つけるのでしょうか。

 たとえば、テーブルを買おうというお客様が、天板は店舗、脚はネットで同時に買う!?ことはまずないですよね。一方で、店頭受取サービスを利用する人たちは、多くの場合購入手続き自体はネットで終わらせますが、わざわざ店舗に来てくれるわけです。家で受け取ればいいのに、店頭に出向くのはなぜか。

 ネットと店舗という2つのチャネルを使っているのだとすると、マルチチャネルショッパーであると特定できます。そこにモバイルアプリの利用状況もわかればオムニチャネルショッパーと言えるのではないでしょうか?

 もっと言うと、店頭受取サービスは以前と比べて複雑になった顧客体験の理解にも役立つ存在です。店舗では接客はできてもネットではできない。ネットでは無限に商品を陳列できても店舗ではできない。チャネルの長所と短所を理解して、行ったり来たりをすることができるのが現代の消費者。でも、ネットで買った商品は普通にネットで受け取ればいいのに、わざわざ店舗に来てくれるということは、そのブランドに対する信頼の証かもしれません。

 お客様に直接「どうして来店してくださるのですか」と聞いてみれば、「いやあ、このブランドが好きなので店に来るんです。お店に来ると楽しいんですよね」という答えが返ってくるかもしれません。忙しくて買い物をする時間を最低限にしたいという人がいる反面、好きだからお店に来るという「冷静で熱い消費者」の存在が見えてくる可能性があるわけです。

 消費者視点のオムニチャネル戦略を実践しようとすると、店舗、ネット、モバイルの3チャネルの最適化を考えますが、実際に3つを使った経験がある人を調べたところ、まだ圧倒的に数が少ない。つまり「あなたはオムニチャネルショッパーですか」なんて聞くことには意味がなく(そんなことを聞く店舗スタッフはいませんよね)、店舗に商品を受け取りに来たお客様に「なぜ店頭でのお受け取りを選んだのですか」と聞いてみる方が早い。ブランドの熱量を何がしか感じて行動しているはずなので、この答えを理解することが、お客様の理解につながると思うわけです。

 「多くのチャネルを提供すれば購入が増える」という説がありますが、一方で「お客様はそのブランドが好きだから多くのチャネルを利用する」という説もあります。どちらが正しいか。おそらくどちらも正しい。ショッパーマーケティング時代に、メーカーの力を借りないとお客様の理解ができなかった小売業ですが、モバイルショッパーマーケティングで力を手にすることができました。TRIALの店舗のようなテクノロジー投資は無理だとしても、ネットやモバイルアプリのタッチポイントがあるならまずはそれを活用するべきです。そして、そのタッチポイントを活用して最初にやるなら、店頭受取サービスが良いのではないかということです。

次のページ
店頭受取サービスで得られるお客様の声

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この記事の著者

奥谷 孝司(オクタニ タカシ)

オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員COCO(Chief Omni-Channel Officer)
株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
株式会社イー・ロジット 社外取締役
株式会社Engagement Commerce Lab. 代表取締役

1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「Worl...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/04 09:00 https://markezine.jp/article/detail/32454

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