インフルエンサーリレーションズという新たな形
最近は“中の人”が前面に出る企業アカウントもあるが、「運用が属人的になるのでは」と廣澤氏。中の人が人気になることと、ブランドへの貢献は別ではないかという見方もある。一方、運用を広告PR会社に完全に委託するケースも多いが、すると“生活者と直接つながれる”というそもそもの特長が薄れるのは否めない。
これに対し太田氏は、「運用を請け負う立場として、タイムライン上の一種の広告としてブランドを露出する、という割り切った考え方はあると思う。その反面、リアルタイムで会話したりして関係が深まっていく、そんなSNSのダイナミクスさが失われる歯がゆさもある」と話す。
ストライプインターナショナルの各ブランドのSNSは、すべて内製だという。ブランドの世界観を軸にすることで、担当者が変わっても違和感なく続けられ、ファンとの関係を深められているという。また、最近はインフルエンサーとのコラボ企画を通したコミュニケーションを強化。「エンゲージメントの指標としてはコメント数を見ている。人気があるインフルエンサーの投稿には、数多くのコメントが付く。フォロワー数が多いという単純な見方ではなく、その先にいる生活者とのつながりを見据えながら、インフルエンサーさんとの関係構築を図っている」と石渡氏は話す。

「考えてみれば、メディアリレーションでも優れたPRパーソンはメディアというより、その中の編集者や記者とも関係を築いていますよね。つまり、影響力を持つ個人との関係構築という面では変わらないとも言えます」と廣澤氏。そこに、SNSで影響力を持つ個人インフルエンサーが加わった格好だ。マスメディアとSNSで話題が巡ることも多いが、それぞれのリーチの範囲や機能が異なるため、それを前提に各ステークホルダーとの理想的な関係をデザインする必要があるだろう。
「キュレル」が積み重ねてきたPR
さて、話題は2つ目の質問「キュレルのPR戦略」へ。1999年に誕生し、20年以上愛されるブランドのPRに関心が寄せられた。廣澤氏はステークホルダーの考え方について、「最も重要なステークホルダーはもちろん顧客ですが、顧客との関係構築の手段として直接的なコミュニケーションが常に最良かというと、必ずしもそうではない」と話す。

同ブランドは「乾燥性敏感肌を考えた」というコピーの通り、乾燥からくる肌悩みを抱えた人向けだが、“乾燥”や“敏感肌”というキーワードを単純に話題化するだけでは、選んでもらうことはできないという。乾燥に悩む人がどのような行動をするかというと、悩みや解決策を検索したり、医師へ相談する方も多い。そのため、同社は長年にわたり医師や大学病院との関係を築いている。その結果、今では多くの医院で患者へ推奨してもらえている。医師からの信頼や推奨はブランドにとって重要であり、結果としてこれは競争優位の一つにもなる。
「僕が事業活動におけるPRの役割として重要だと思うのは、競争環境を自分たちに有利にすることです。事業によっては専門家の推薦の他、業界の標準規格を作る、法律を変えるなど方法は様々ですが、それは自分たちがどのように優位なポジションを狙うのかに立脚するので、事業戦略と結びつけて手段を選ぶ視点が重要だと思います」(廣澤氏)
石渡氏から、市場拡大にどのくらい重きを置いているかと問われると、廣澤氏は「潜在顧客向けの施策はもちろん行っているが、最終的には“乾燥性敏感肌”で悩む人がゼロになることが、ブランドが目指すことでもある」と答える。もしそんな日が来たとしたら、「キュレル」ブランドは役目を終えて、花王の中でまた別のブランドが意義を果たしていくことになる。ただ売れればいいのではない、顧客への貢献がベースにあるアプローチであるからこそ、炎上などで関係性を大きく損ねる可能性も低いのだろう。
