広告フォーマットごとの効果&投資余地は、予想外の結果に
――今回の分析から見えてきた結果を教えてください。
廣澤:今回は2017年から2018年までの出稿を対象に、分析を行いました。認識を揃えるための前提として「キュレル」の広告出稿の状況をお話しすると、元来静止画を使ったバナー広告を重視していたのですが、デバイスや配信面、タッチポイントの変化にともない、数年前から動画広告にも予算を振り分けることも増えています。
感覚的には動画にもそれなりに投資しているつもりだったので、今回のMMMでは、動画広告のROIが高く出るだろうと予想を立てていました。ところが広告フォーマットごとの結果を見ると、バナーのROIが最も高く出たのです。媒体別で見たところ、Facebook・Instagram広告のバナー広告は他媒体に比べて貢献度が高いこともわかりました。
――予想とは異なる結果だったのですね。
廣澤:はい。そこで広告の投下量の適正レンジをフォーマット別に確認してみると、動画広告への投資量は「まだ足りていない」と出ていた一方、バナー広告への投資量は「適正」と出ていました。このことから、動画広告は十分な量を配信できていなかったために、想定よりパフォーマンスが低く出ていたのだと判断しました。
動画広告にまだ伸びしろがあると示されたのは、今回の分析における発見の一つです。今思えば、バナー広告には長年取り組んできたため、「これぐらいだろう」という勘所が掴めていたのだと思います。
倉迫:バナーとInstagram上の動画広告の相乗効果についても、分析を行いました。Instagramの動画広告では、バナー広告との同時出稿によって7%の売上リフトがあったという報告になっており、これは他メディアと比べて最も高い数値です。
仮説ではありますが、テンポ良く短尺の動画を楽しむビジュアルのプラットフォームであるInstagramは印象を残しやすく、バナー広告と親和性があるのかもしれません。
廣澤:レポートの結果は代理店さんにも部分的に共有したのですが、「FacebookやInstagramは思っていたよりも効果が高いですね」という反応がありました。メディアプランのご提案にも活かしていただいています。
社内のデータマネジメントを確認する機会にも
倉迫:先ほど廣澤さんから「MMMは健康診断のようなもの」というお話がありましたが、私もまさにその通りだと考えています。
様々な施策を走らせていると、日頃追いかけるKPIはGRPだったりインプレッションだったりと、部署ごとに異なってきますが、最終的に目指しているのは売上への貢献だと思います。MMMを通じて貢献度を定期的に確認することで、ゴールを見失わずに進めていけるのではないでしょうか。
廣澤:そうですね。MMMにはもう1つ、組織や個人スキルの健康診断という側面もあると思います。分析に必要なインプットデータの収集プロセスを通じて、それぞれのデータの在処や、社内のデータマネジメントがどのような状態にあるかを改めて確認できるのです。現状やリソースを把握することで、データ活用の新たなアイデアが浮かぶかもしれませんし、もしデータ管理や連携に問題を発見できれば改善案を示せるかもしれません。
――反対に、課題だと感じたことはありましたか。
廣澤:効果測定は一度やってみて終わりではなく、施策に反映させ、その後のパフォーマンスを継続的に確認していくことに意味があります。たとえば、大きな手術をしたあとは、術後の経過を定期健診で見ていきましょう、という感じですよね。ただ、MMMは実施にあたりリソースが必要な「重たい」分析で、社内外で協力していただく関係者も多くなるため、仕組み化していくのはとても大変です。
理想的なのは、MMMで適正な投下量を割り出し、SEMを参考にその投下資本の詳細な配分の仕方を明らかにする。さらに結果がどうなったのかを追うために、ブランドエクイティーのトラッキングを行う。認知や純粋想起、ブランド選好が高まっていれば、店頭の売り上げに結びついているはず、と予測できるところまで進めていくことです。
ところが、これらをすべて同じ粒度で分析していくにはかなりの労力が必要です。自分たちの仕組みやリソースに合わせていかにバランスをとりながら実施していくかが、分析における大きな課題なのではないでしょうか。