「クロスセルに使うだけ? それってユーザーに不義理だよね」
藤井:第二段階は「ユーザーに還元する思想があるか」。今の日本ではデータの重要性が叫ばれ、前述のように意味に欠ける生データ収集にも注目する割に、実際には販売のマッチングとプロモーション効率化くらいにしか顧客データが活用されていないですよね。
有園:販売のマッチングとプロモーション効率化、言われてみれば本当にそうですね。
藤井:すぐに使いもしないデータをユーザーに入力させて負荷をかけながら、企業目線のクロスセルやアップセルにしか使わない。以前、そんな話を中国の人にしたら「それって、普通に不義理だよね」とちょっと怒るくらいに反応されたんです。
ユーザーが自分のデータを差し上げているのに、あなたが自社のためにしか使わないなら、それは普通に取引関係として成り立っていない。UX向上でもインセンティブでも、ユーザーへの還元がないビジネスは、信頼関係を得られずに破綻するぞ、と。すごくちゃんとしているというか、真摯だなと感心してしまったんですよね。アリババにこの話をしたときも、同じことを指摘されました。
有園:データを提供いただいているのだから、何らか還元しないと不義理である、と。これも納得の話で、同時に日本ではできていないように思いますね。では、三段階目の社会貢献というのは?
藤井:アリババにデータ共有プラットフォームのダメ出しをされた際、僕が「アリババは国家に次ぐくらい相当なデータ量をもっていますよね、それって国民にどう思われていると考えていますか?」みたいな話をしたら、やはり「すごく気を付けている」と言っていて。ユーザーへの還元は当たり前で、さらに社会に還元すべきだと考えている、と返されたんです。

ユーザーにだけでなく、社会全体に貢献する思想が必要
藤井:たとえば、夜中に地震があって睡眠不足の人が増えると翌朝は事故が多くなるそうですが、ウェアラブルデバイスでエリアごとに睡眠不足の人を検知すれば、街の情報に還元して道路交通整備で事故を減らせる……みたいな。アリババは実現できているわけではないそうですが、こういうことが可能だよね、と。だから、日本とはデータ吸い上げの中央集権度合いやプライバシーの概念が違うことを差し引いても、相当リテラシーが高いと思いましたし、ここがUXインテリジェンスの精神面で目指すべきレベルだと考えました。
有園:なるほどね。聞いていて思ったんですが、ユーザーから信頼を得るというのはブランド価値の構築にも通じますよね。裏切るような行為をしたら、ブランドも失墜するわけなので。となると、実はUXをきちんと追求することは、はっきりとブランド価値の向上になるんですね。
藤井:UXを高めることがブランド価値を上げる……あぁ、それは僕は当たり前のことだと思っていました、本当にそうです。
有園:そうか、藤井さんの視点では至極当然なんですね。ブランディングに携わる一部の人は、クリエイティブがブランドをつくると思っているけど、でもクリエイティブもそもそもUXだから。
藤井:あ、そう思いますね。
有園:クリエイティブも内包した、全体のUXを捉えないといけないですね。