求められるのは手に取った先のアクション
――量販店と飲食店、それぞれの特徴に合わせて取り組みを行っているんですね。
皆巳:はい、現状アウトプットとして出しているのはその2つですね。ただ、お酒離れといった言葉も叫ばれている現状なので、そこ以外でもキリンの商品のお客様接点を増やせないかを考えています。たとえば、レンタルスペースを借りて小規模のパーティーを行う人が増えていますが、そこに届けるお酒はどうなっているのかを考えます。もし、フードデリバリーなどでキリンの商品を注文できるようにすれば気軽に頼んでいただけるのではないか、といったアイデアは常に模索しています。
お客様のカスタマージャーニーを描きながら、デジタル手法を活用して、どのお客様接点にキリンの商品が入っていけば飲んでいただけるのかを考えるのがデジタルマーケティング部のミッションだと考えています。
――ちなみに、様々なデジタル販促を行っていると思いますが、現状の手応えはいかがでしょうか。
皆巳:お客様に見てもらう、手に取ってもらうといったリーチの観点で言えば、SNSのサンプリングをはじめ効果が高いものが出てきたと思います。ただ、これからはその先でお客様が購入などのアクションを起こしているのか、もし起こしていなければなぜ起こしていないのか原因がわかるようにしていくことが求められていると思います。
――デジタルだからこそ、データをもとにPDCAを回していくことが求められているのですね。効果計測を精緻にするために、どのようなことを行っていますか。
皆巳:たとえば量販店はPOSデータや顧客ID、カードのデータを保有していますが、それは買った結果であって、どの販促や広告に触れて買ったのかまで把握することは困難です。そのため、決済データと販促や広告に関するデータを突合してお客様の購入経路を見える化していきたいと思っています。
そのためには、メーカー、デジタルプラットフォーマー、小売企業の3者が連携してどこまで取り組みができるかが重要だと思っています。まだ具体的な施策やフレームは完成していませんが、現在作り上げている最中です。
デジタル販促が持つメリット、デメリットは
――デジタルを活用した販促が持つメリット、デメリットについてどのように考えていますか。

皆巳:メリットは、ターゲットを絞ってアプローチすることができ、その経過の可視化が可能なところです。また、既存の紙を使った販促物よりも制作コストが下がる場合もあるのでコストパフォーマンスが改善されることもあると思います。
一方、デメリットはデジタルに特化するあまり、本来獲得すべき多数のお客様を見逃してしまう可能性がある点です。SNSを使っていない、デジタルリテラシーがあまり高くない人はデジタル販促ではリーチできません。たとえば、チラシを見て商品を買ってくれるお客様がいるのに、チラシをやめてデジタル広告を配信したら「あの店特売するのやめたんだ」と他のスーパーに行ってしまい商品を買ってもらえなくなる可能性もあります。チラシでリーチしていくこともまだまだ求められるので、デジタル販促とこれまでの販促の主従を間違えないことが重要ですね。
――デジタル販促とこれまでの販促のバランス感覚が求められてくるということですね。「位置情報の広告は来店単価ベースで見るとROIに見合わない」というのを他のマーケターから聞いたことがあるのですが、そこに対してはどのように考えていますか。
皆巳:どんな広告や販促にしろ、弊社の営業担当・小売企業にとって一番気になるのは「1人連れてくるのにいくらかかっているのか」という点です。そのため、ROIが正しく測れる仕組みはより求められていると思います。
永沢:デジタル販促を短期的なROIで見ると合わないということは徐々にわかってきています。そのため、長期的なROIで見て効果の出せる仕組み作りが課題の1つです。
一方で、ROIが見合うものも出てきています。たとえば我々の持つLINEの公式アカウントには多くの友だちがいます。維持するのにコストもかかっていますが、それを含めても短期的なROIは他のデジタル広告よりも良くなっています。今後は、そういったものを増やしトータルのROIが見合う状態にしていきたいです。
カテゴリごとの売上を活性化する施策を
――デジタル販促を進めていく上で欠かせないのが小売企業との連携だと思いますが、キリンではどういった連携を進めたいと考えていますか。
皆巳:先述の通り、小売企業は決済などに関するデータを持っています。さらに最近では顧客IDに紐づいたID-POSデータを発行しているところもあり、お客様の情報をより横断して見られるようになっています。メーカー側は、それらの開示可能なデータと、自社のデータとを組み合わせながら分析を行っていくべきと考えています。小売企業の中には「こういった分析ができないか」と頼んでこられるケースもあります。
我々としては、様々なデータを精緻に分析できる状態を作りたいです。店舗にカメラを設置している企業なども登場し、店舗のハード面も変化しています。そのような環境の変化にも対応し、様々なパートナー様と連携できる状態を作ったほうが、メーカーとしても強みを発揮できるのではないでしょうか。
――小売企業から決済に近いデータを提供いただき、キリンの商品を買っていただけそうなお客様の来店・購買を促進する施策を提案するという流れになるのでしょうか。
皆巳:我々としては、単一の商品軸で押し売りするような偏った施策ではなく、ビールやノンアルコールなどカテゴリごとの売上を活性化して棚全体の効率を上げる施策に着眼点を置きたいです。たとえば、自社商品を売るための施策を考えても、他社商品のシェアを奪うだけになってしまい、小売企業にとってのメリットが少なくなってしまいます。
そうではなく、カテゴリ自体の市場を拡大する、アップセル、クロスセルを生み出せるようなものを小売企業と一緒に作っていきたいです。