テレビの公共性を守りながら変化する
――2019年11月には、読売テレビへ転職されました。
プレゼントキャスト時代、放送局や広告会社など、テレビに関わる人たちと所属を超えて、「放送はどうあるべきか?」の視点を持ち、プロダクト開発やサービス運営に携わりました。だからこそ、いつかは放送局で仕事をしたかったので、読売テレビに中途採用でご縁をいただき、嬉しかったです。
現在は、所属するビジネス開発部で、既存のテレビビジネスから派生した領域も含めた、テレビの新しいソリューションを企画・設計しています。メディア接触はマスからデジタルへシフトし、見る時間や場所の変化などといった、接触行動自体にも変化が起きています。このような視聴者の変化に、会社も強い危機感を持っており、新しい仕掛けや取り組みを実行していかなくてはいけないと考えています。
――テレビビジネスに主体的に関わる立場となって、新しい気づきなどもあるのではないでしょうか。
放送は、国から電波を預かる免許事業です。報道機関を持ち、ニュースを届けていくインフラでもあります。ビジネス面と公共性の両立は、簡単なことではないと日々感じています。クライアントのマーケティング戦略も変わり、ビジネスや状況に応じた打ち手をフレキシブルに変えたいというニーズがありますが、たとえばバナーの差し替えがすぐにできるオンライン広告と異なり、テレビで同様のことを行うのはハードルが高いものです。柔軟に対応できたらというご要望はあると思いますが、放送事故を防ぐ観点から、最低でも4日前の入稿と素材指定が必要です。また、災害発生などの緊急対応時には、報道が優先されます。
このように、公共性があり、メディアとしての歴史が長いぶん、今すぐにがらりとルールを変えることが難しいテレビビジネスですが、少しずつ変化も起きています。たとえば、日本テレビや読売テレビをはじめとした一部の放送局では、1枠から購入できるようになりました(SAS/Smart Ad Sales)。これまでのスポット広告の出稿は、ある程度の期間とまとまった予算が必要でしたが、SASでは、初めてテレビCMを出稿したい、まずは試してみたいと考える新規のクライアントが取り組みやすい設計になっています。
また、読売テレビ独自に、ファイナルピッキングセールスという販売方法をスタートしています。これは、通常数ヵ月先の枠しか購入できなかった広告枠を、放送の数日前まで購入できる仕組みです。CMを打ったけど思っていたよりWeb検索が伸びなかったとか、想定していたGRPよりも低く、追加でスポット広告を出稿したいなどのニーズに応えることができます。
他にも、見逃し配信のデータやテレビの視聴ログまわり、自社のサイトデータを参考に、視聴履歴や行動を分析し、新しい広告商品や売り方を開発しているところです。このような新しい取り組みは、振り返りを行い、PDCAを回して、新しい打ち手として確立していきたいです。また、テレビだけでできることには限りがありますので、他のプレイヤーと組み、立体的なプロモーションの企画を作ることも大事だと考えています。

テレビの魅力は関わる人たちにある
――仕事で大切にしていることを教えてください。
定量データを重視するだけでなく、その背景に存在する人を意識することです。1インプレッション、1コンバージョンは小さな数字ですが、誰かがアクションしたことを意味します。データを重視する考えと矛盾してしまいますが、ロジックや数字、データで説明できることだけが重要ではないと思うんです。数字の裏にあるインサイトや、本質を見逃してはいけないと考えています。
――最後に、テレビビジネスの魅力についてお聞かせください。
「テレビ離れ」と言われますが、CMをきっかけに、ベンチャー企業のビジネスがよりスケールしたという話をきくと、テレビのビジネスへの影響力はいまだに大きいと感じます。テレビのデータ活用も進んでいます。今は、時間帯ごとの視聴者のデモグラフィックデータを知ることができますし、海外の動きを見ると、データをもとにCMを最適化するAdvancedTVの考え方が存在感を増してきました。読売テレビも、視聴者データを参考にした番組を作り始めています。車好きの視聴者が多い時間帯に、車メーカーへ番組企画を提案したり、好きな色や音楽の傾向データを編集に反映したりと、データを活用した番組制作に挑戦しています。また、テレビは入口と考え、リーチは配信やSNSで広げていく発想のコンテンツも出てきました。さらに、昨年9月に移転した大阪市の読売テレビ本社一帯(大阪城公園の周辺)は、パークビジネスを手がけています。開局60年を機に、オリジナルの自社IP、シノビーとニン丸も誕生しました。これからも各放送局は、それぞれの戦略をもとに、チャレンジしていくと思います。
そんなテレビビジネスの魅力は、放送局をはじめとした、広告会社や制作会社など、関わる人たちの存在にあります。みんな、テレビが好きなんです。ですから、私一人が何をしていくか? ではなく、テレビビジネスを変えたい、盛り上げたいと思う人たちと一緒に働きたいです。テレビにはたくさんの可能性があり、そして放送局も変わろうとしていることを発信していかなければなりません。もっと、テレビビジネスに関心を持ってくれる人が増えたらいいですね。