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離脱とファン化の分岐点は“顧客応対の質”にある デジタル時代のCXと顧客ロイヤルティ向上の鍵とは

 MarkeZineの「マーケティング最新動向調査2020」によると、「カスタマーエクスペリエンスの向上」を経営課題として取り組む企業が増えている。こうした企業のカスタマーエクスペリエンス向上を、コンタクトセンターという分野から長年支援してきたのがトランスコスモスだ。そんなトランスコスモス 取締役 専務執行役員の松原健志氏が、同社の「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2019」のデータを踏まえ、カスタマーエクスペリエンスの向上に向けてコンタクトセンターが果たす役割、そしてその先にある顧客ロイヤルティの強化にどうつながるのか、MarkeZine編集長の安成蓉子と語り合った。

企業の約3割が課題とするCX向上、その背景とは

安成:MarkeZineが実施した「マーケティング最新動向調査2020」によると、マーケティング活動として企業が取り組んでいるテーマとして「カスタマーエクスペリエンス(CX)の改善」が注目されており、複数回答ではありますが、回答者の30.4%の企業がCX向上に向けて動いているようです。

『マーケティング最新動向調査2020』MarkeZine編集部、翔泳社、2020年、p.103より図表「マーケティング活動として取り組んでいるもの」
『マーケティング最新動向調査2020』MarkeZine編集部、翔泳社、2020年
p.103より図表「マーケティング活動として取り組んでいるもの」

安成:トランスコスモスは長年この分野で企業を支援していますが、なぜいまCXが注目されているのか、その背景についてどうお考えでしょうか。

松原:確かにCXがバズワードになっている感はありますね。実際、私たちも、「CXを向上したい」とか「デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するにはどうすればいいか」というお問い合わせをよくいただきます。

 私たちが手掛けてきたコンタクトセンターの分野でいえば、CXにしてもDXにしても、そもそも「顧客に対して一気通貫でサービスを提供する」ということが基本です。ところが多くの企業では、コンタクトセンターならコンタクトセンター、WebならWeb、サポートならサポートと部門がバラバラなので、顧客体験が一貫せず、結果として「あまりいい印象につながらない」というケースがあります。まずは、その分断状態を改善しなければなりません。

 こうした状態を解決するために、近年企業内にCDO(Chief Digital Officer)が登場するようになりました。CDOは、企業内のさまざまな活動をデジタルやデータ活用を起点に変革する役割を担う担当者で、CDOの下、デジタル化を推進する企業も出てきています。

 注意したいのは、多くの企業に見られる「じゃあAIを導入しよう」「RPAが必要だ」など、特定のテクノロジーを導入することが目的になっているケース。技術は手段であるはずなのに、それが目的になってしまうと、本来の課題解決にはつながりません。私たちはそこに貢献できると思っています。

トランスコスモス 取締役 専務執行役員 デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括 共同統括責任者 兼 デジタルコミュニケーションセンター統括 松原健志氏
トランスコスモス 取締役 専務執行役員 デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括 共同統括責任者
兼 デジタルコミュニケーションセンター統括 松原健志氏

スマホで企業情報を確認する人は7割超

安成:企業側もCX向上の重要性については認識しており、実際に取り組みは進めているのですが、残念なことに技術主導になってしまうこともあります。加えてCXの場合、企業側が生活者の行動変化に気付いておらず、そもそも何を改善したらいいかわからないというケースもあると思いますが、この点はいかがでしょう。

松原:それについては、トランスコスモスで2016年から始めている調査結果で、興味深いデータがあります。最新の「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2019」 では、「消費者と企業のコミュニケーションの変化」ということで、2016年時と比較しているのですが、この4年間でコミュニケーションチャネルはかなり変化しました。

 たとえば「スマホで企業情報を確認したことがある」という人は、49%(2016年)から72%(2019年)と23ポイントも向上していますし、「企業とのコミュニケーションにチャットを使ったことがある」という人は、5%(2016年)から23%(2019年)と伸びています。

『消費者と企業のコミュニケーション実態調査2019』(トランスコスモス、2019)より、「消費者と企業のコミュニケーションの変化」
『消費者と企業のコミュニケーション実態調査2019』(トランスコスモス、2019)より
「消費者と企業のコミュニケーションの変化」

松原:コミュニケーションチャネルということでいえば、やはり電話が最も強く2019年も78%ですが、実は2016年時の86%と比べると8ポイント下落しています。おそらく、2016年当時はスマホでの情報提供や、チャット、メッセージングアプリなどのチャネルを用意していなかった企業が多かったが、この4年間でチャネルが増え、そちらに流れた層がいるということでしょう。

 チャットやメッセージングアプリは決して特別なものではなくなってきています。実際、私たちのクライアント企業でも、40代〜60代の層でチャットの利用率が高いという事例がありますし、すべての年代で企業とのコミュニケーションチャネルの変化が起こっているわけです。

消費者が求める企業とのコミュニケーション手段

安成:それは重要なデータです。「チャットは若い人向けなので、うちには必要ない」と思っている企業も多いでしょうね。

松原:そのとおりです。先ほどの調査で、消費者のチャネル利用実態と利用意向の相関関係を分析したのですが、「メッセージングアプリやチャットを使いたい」と思っている消費者は5割以上いるのに対し、実際に使ったことがある方はまだ2割程度となっています。

『消費者と企業のコミュニケーション実態調査2019』(トランスコスモス、2019)より、「消費者のチャネル利用実態×利用意向」
『消費者と企業のコミュニケーション実態調査2019』(トランスコスモス、2019)より
「消費者のチャネル利用実態×利用意向」

松原:「使いたい」と思っているのに、利用した方が少ないのは、「企業側が消費者のニーズに十分に対応できていない」といえるでしょう。

安成:顧客接点という視点でいうと、従来からコンタクトセンターは大きな役割を果たしてきました。特に消費者が直接アプローチしてくる数少ない接点として、コンタクトセンターには大きな価値があると考えています。

 個人的には、そうした価値や役割も、やはり時代によって変化していると思っているのですが、松原さんはコンタクトセンターにどのような価値変化が生じているとお考えでしょうか。

MarkeZine編集部 編集長 安成蓉子
MarkeZine編集部 編集長 安成蓉子

松原:ECで物を購入する人が増えているので、何か困った時のコミュニケーションチャネルとして、コンタクトセンターの価値が高まっているといえるでしょう。さらにCXの重要性が増すにつれ、コンタクトセンターの役割も大きく変化してきています。

役割は「効率化」から「One to One」へ

松原:かつてコンタクトセンターといえば、「いかに多くの問い合わせに迅速に答えるか」というスピードや効率性が最優先されてきました。そこでの価値は、「いかに顧客の待ち時間を少なくするか」ということだったんです。

 これは逆にいうと、顧客が「もう少し詳しく聞きたい」と思っても、その要望に対応しづらく、手厚いフォローが困難だったと言えます。

 その点、いまはWebやスマホがあるので、ほとんどの方はそれを見たうえでコンタクトセンターに問い合わせします。Webを見てもわからないこと、あるいは自分が知りたいことを「より深く」聞きたい、それが顧客の希望です。そのためコンタクトセンターも、一人ひとりを意識した対応が求められています。

安成:とすると、「電話がかかってきた時点で対応する」のではなく、その人がWebでどんな情報を見て、何を調べてきたのかを踏まえて対応する必要がありますね。冒頭の話に戻りますが、まさに「企業で一貫して顧客をフォローする」ことが求められているわけですね。

松原:そのとおりです。Web担当部門のアクセス解析と、コンタクトセンターの対応ログの分析をバラバラでやるのではなく、その顧客の行動を一貫して捉え、顧客一人ひとりに適切に対応することが、CXの改善につながるのです。

安成:CX改善の先にあるのは、良い体験を紡ぐことで1人の顧客をロイヤルカスタマーにしていくことだと思います。そのきっかけとして、コンタクトセンターの価値はより重要になっているというお考えですね。

松原:消費者が自ら企業に問い合わせをしたり、要望を伝えたりすることは、企業にとって大きなチャンスです。そのチャンスで消費者をきちんと理解し、真摯に対応するということは、消費者にとって良い体験になりますし、リピートのきっかけにもなり、良い口コミにもなります。

顧客ロイヤルティ向上につながる顧客応対の改善

松原:実際、当社のクライアントで、顧客ロイヤルティを測るネットプロモータースコア(以下NPS)を定点観測している企業がいますが、コンタクトセンターが顧客の要望に応える取り組みを始めたら、NPSが向上した例もあります。私はコンタクトセンターに来る問い合わせについて、企業はいま以上に重視すべきだと思います。

安成:その事例を詳しく教えてください。

松原:先ほども出た、コミュニケーションチャネルの拡充の例です。その企業では、もともと問い合わせチャネルは電話とメールがメインで、チャットの対応はほとんど行っていませんでした。しかし顧客からの要望もあり、Webページからチャットにスムーズにつながる機能を加えたり、われわれも電話応対のなかでチャットの案内をしたりするなど、誘導を強化することで、3年間で約4割の方がチャットを使うようになったのです。単にチャットに切り替わるだけでなく、チャットの方が電話より効率良く対応できるといった効果もありましたし、NPSを測定したところ、電話ユーザーよりチャットユーザーの方がNPSの「推奨者」が多いという結果が出ました。

安成:なぜチャットユーザーの方が、電話ユーザーよりロイヤルティが高いのでしょうか。

松原:電話に比べて待ち時間は少なく、知りたい情報をわかりやすく教えてくれるという点が大きいでしょう。また情報の提示方法が多様なことも特徴の1つです。たとえば電話だと、質問に対して口頭でしか説明できませんが、チャットなら写真画像を共有したり、FAQの該当ページのURLを送ったりするなど、よりわかりやすく情報を伝えることができます。こうした対応1つひとつによって満足度が上がり、ひいてはロイヤルティの向上につながったのだと考えられます。

安成:CXの改善が、NPSの向上という成果に現れてくるのはどれくらいのタイムスパンが必要ですか?

松原:その企業の商品やサービスの特性、顧客との関係性、具体的なCX改善の施策内容によるので、一概には言えません。

 大切なのは、「成果を上げる」ことを考えたCX改善施策の設計と、それを現場で継続的に実行し、改善し続けていくことです。うまくいっていないのであれば、その原因を探らなくてはなりません。私たちは、それぞれの企業の状況を踏まえ、課題に対して一緒に取り組んでいく体制を整えてご支援しています。

顧客応対はファン化と離脱の分かれ目になっている

安成:いまのお話からすると、コンタクトセンターはロイヤルカスタマーを育てる拠点として大きな役割を負っているわけですが、そのコンタクトセンターの役割、価値について詳しく教えていただけますか。

松原:先ほどの『消費者と企業のコミュニケーション実態調査2019』では、ファンを生み出す優良顧客の育成マップをまとめているのですが、「消費者」「見込み客」「顧客」「ファン」になるまでのプロセスを分析したところ、商品を購入した後の「相談段階」がすべてを左右することがわかりました

 商品購入後に不満が生じた場合、57%の方が「企業に不満を伝える」としています。そもそもコンタクトセンターにはなんらかのマイナス状態で問い合わせしてくる方が多くいます。その際の対応やコミュニケーションが良ければ、69%が「リピートする」と回答、逆に悪い体験なら「他社に乗り換える」という人が72%いることがわかりました。

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『消費者と企業のコミュニケーション実態調査2019』(トランスコスモス、2019)より
「ファンを生み出す優良顧客育成地図 全世代版」
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松原:つまりコミュニケーションの良し悪しによって、7割の人がリピーターになるか、それとも離脱するか分かれるわけです。この分析結果を見ると、コンタクトセンターに求められる価値がいかに大きいかがわかると思います。

安成:コンタクトセンターの役割は今後ますます大きくなるわけですね。その一方、コンタクトセンターにおいても技術革新が進んでいますが、ファンを育てるためにはどのようなテクノロジー、イノベーションが期待されているのでしょうか。

松原:一人ひとりに最適な対応をするため、コンタクトセンターのオペレーションはより高度化していきます。音声認識技術や自動化技術を使って効率を高めた上で、人とAIが協調してより高い品質の顧客対応を行うことができるようになります。さらに感情解析やWeb上のリアルタイムな行動データをもとに一人ひとりの顧客理解を深めることで、より満足度の高い適切な対応ができるようになっていきます。

 とはいえ、繰り返しになりますが、テクノロジーはあくまで手段でしかありません。「消費者にとって一番改善しないといけないポイントは何か」を明らかにし、そのために必要なテクノロジーを活用することが重要です。当社は技術の導入が目的ではなく、消費者により良いサービスを提供するためのデジタル技術の活用を検討、試行されている企業を応援しています。

安成:ありがとうございます。では最後に、今後注力したい領域や目標をお聞かせください。

松原:企業の経営課題、マーケティング課題は1つだけではありません。CX強化のための体制が十分整っていない企業も多く、自社内だけで課題を整理し、解決に向けた優先順位を決めて継続的に取り組んでいくのは難しいケースも多いと思います。私たちは数多くの企業の課題解決をお手伝いしてきた経験から、その企業の状況に合った取り組みを提案し実行することができます。「コミュニケーションを通じて自社のファンを増やしたい」ということであれば、当社の知見やサービスがきっとお役に立てると思います。

 デジタルマーケティングやコンタクトセンターのイノベーションなど、さまざまな分野で技術やデータを活用するシーンが増えている現在、企業の悩みや課題に寄り添って一緒に成果を上げられるパートナーとして、これからも期待に応えていきたいと思います。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/03/12 11:00 https://markezine.jp/article/detail/32929