刈り取りマーケティングの概念を超えた共生の仕組み
「とくし丸」移動店舗の事業は、「地方に特化したサービスに徹することこそが価値を生む」という仮説を実践している。これぞデジタル起点の新事業の見本中の見本であり、おそらくキャッシュフローも黒字で成長しており、感服するばかりだ。
「とくし丸」事業のビジネスモデルのポイントは、本部利益の「会費=フランチャイズ費」を毎月3万円の固定額とし、それ以上の儲けは、地元スーパーとドライバー(個人事業主)の「がんばり」に還元される仕組みだ(図表2)。

疲弊が話題になるコンビニのフランチャイズとイズムが違う。「本部」が目指すのは、「スーパーが付近に存在しない、買い物が難しいエリアの人々の支援」、「地元スーパーの支援(販売代行)」、「個人経営者の支援(がんばる仕組み)」であり、近江商人の三方良しを超えた「四方良し」の構図になっている。
この「とくし丸」事業が体現している新たなビジネスの視点は、他事業にも応用が利く。たとえば地方局や地方新聞こそ、展開(保有・支援)できるはずだ。自社の既存のパブリッシャー・コンテンツ(プラットフォーム)を「紙芝居」だとして、その収益を上げる「飴玉」になりえる。地方新聞社が社内事業部として、ゼロからこのような事業を立ち上げるには体質的に難しくとも、このような「イズムの芽」を育てる「つもり」で探せば、まだまだハイパーローカルを束ね、Amazonが将来買収したくなるような資産化が可能だ。
米国の先を行く新プラットフォームのあり方
「とくし丸」事業が体現する「アナログや過疎地方に出向き、めんどうを代行するモデル」は、米国のAmazonやGoogleやWalmartでも、まだ手が出せていない領域だ。大企業である彼らは「スケール化」や「効率化」を一気に求めるので、地味なネットワークを構築しにくい傾向にある。
たとえばWalmartは冷蔵庫のドアの向こうまでデリバリーを請け負うサービスを開始したり、傘下の「JetBlack」は都市部の忙しい人たち向けの買い物代行コンシェルジュサービスを提供するが、拡大しないまま大赤字が続き縮小傾向にある。
あるいはDNVBやサブスクブランドは強いイズムを持ち、熱いコミュニティを有するが、ローカルに特化したブランドは少なく、ラストワンマイルは配送業者に委託しており、自社資産として構築している例は少ない。「とくし丸」のような「しんどい」「どろくさい」部分を感謝と利益で交換させているビジネスは、日本が米国よりも先行している可能性がある。地方の生協などがネットスーパー化や宅配化を進めているが「オーダー期待」のモデルから「軒先にお伺い」のモデルにシフトすれば一気に広がる可能性を持つ。
「とくし丸」もまだまだアナログな顧客接点が残る。今後は「(顔や名前は覚えているけれど)匿名顧客」である部分を、親会社となったオイシックス・ラ・大地が持ち得る資本とノウハウで向上させ、世界の過疎地域の「めんどう」を軽減させる日本モデルが広がることを期待したい。