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定期誌『MarkeZine』特集

“新規偏重”のマーケティングから脱却せよ ゼロパーティデータに注目したロイヤルティ構築

ゼロパーティデータとは何か

 はじめに説明するのは、ゼロパーティデータとは何か。図表1に示したとおり、これまで企業は1st〜3rdパーティデータが有するそれぞれのデータを活用してきました。

図表1 消費者のデータタイプ(タップで画像拡大)
図表1 消費者のデータタイプ(タップで画像拡大)

 ゼロパーティデータは文字どおり、1stである企業の手前にいる“顧客自身”が有する情報と位置づけられ、「顧客が自らブランドへ共有する情報」を指します。グローバルでの個人情報取り扱いの厳格化を背景に、米国の調査会社であるフォレスター・リサーチが2018年に命名したものです。

 ゼロパーティデータの大きな特徴は、企業が自動的に取得できるPOSやECの購買情報やWeb上の行動情報などと違って、顧客が明確な同意に基づいてブランドに差し出してくれる情報であることです。

 その点で、会員情報などとして企業がごく一般的に取得している誕生日やメールアドレスといった1stパーティデータも、自己申告データだと言えます。ただ、ここでフォーカスするのはもう少し踏み込んだ、趣味趣向や好みの傾向や志向性、また購入の意向があるかといった、顧客の姿をより明確に把握することに役立つ情報です。自己申告の収入やデバイスのマッチングを通じて推測されることのないデータの種類であり、支出行動やCookieデータからも観察できないデータの種類がゼロパーティデータなのです。

 当社の調査によると、消費者の43%は「自分に合った有益な案内やオファーが得られるなら、自分に関する情報を積極的に提供しても良い」と答えています。従来のように、自動的に取得したデータを“使っても良いか”と顧客に許諾を取るという方法ではなく、同意を得た上で収集している個人に紐付いた情報のため、精度の高いパーソナライズを実現することができます。また、パーソナライズしたオファーがその顧客を喜ばせ、エンゲージメントを向上させるという好循環も狙えます。

 もちろん、顧客にメリットをもたらすという前提でゼロパーティデータを収集したなら、約束したオファーを提供できないなど顧客との約束を反故にした場合、信頼を裏切ることになるので注意が必要です。このように、これまで企業が行ってきた情報の取り扱い方とは異なる点がありますが、昨今の情報をめぐる環境下で注目されているのがゼロパーティデータです。

ロイヤル顧客の理解と組み合わせて活用する

 ゼロパーティデータは、ロイヤルティの考え方とセットにしてはじめて活用できるものです。というのも、たとえば「A、B、Cのスタイルのうちでどれが好きですか?」という回答1つをとっても、それがロイヤル顧客の回答なのか、あるいは離反した顧客の回答なのかによって、意味も重みも変わってくるからです。したがって、ゼロパーティデータの取得・活用を行う際には、まだ接触できていない顧客を含めたすべての顧客をある程度の粒度で分類し、把握しておく必要があります。

 汎用性が高いのは、認知と購買経験の軸で分ける方法です。この場合、何をもって「ロイヤル顧客」とするかは、商材やカテゴリーによって大きく異なるのであらかじめ定義する必要がありますが、それ以外の「一般顧客(定期的に買っているがロイヤルの定義に満たない)」「離反顧客」「認知・未購買顧客(知ってはいるが買ったことはない)」「未認知顧客(知らない)」については、シンプルな調査で分類できるのではないかと思います。

 その上で、ゼロパーティデータの取得と同時に「どの層の顧客の回答なのか」を紐付けることができれば、ロイヤル顧客のゼロパーティデータの分析を基に新規顧客獲得のアプローチを検討する……という、逆引きのマーケティング戦略立案が可能になります(図表2)。

図表2 ロイヤル顧客から逆引きするマーケティングへ(タップで画像拡大)
図表2 ロイヤル顧客から逆引きするマーケティングへ(タップで画像拡大)

 また、「パレートの法則」でいわれるように、ごく一部の顧客が大半の売上を担っているケースは多いですが、私の知るところではわずか2%の顧客が50%の売上を担っているケースもありました。極端な例ですがこの場合、その2%の顧客を深く理解して一般顧客に展開し、もう1%引き上げることができたら、売上は1.5倍になるわけです。このことからも、顧客理解に基づく逆引きマーケティングに大きな可能性を感じていただけると思います。

「経済・行動・心理」の3軸でロイヤルティを整理する

 では、ロイヤルティマーケティングの本丸である「ロイヤル顧客」の分析を行うにはどうすれば良いのか。様々なロイヤルティ指標を一緒くたに測定・分析するのではなく、整理・分類しながら理解を深めていくことが有効です。ここでは「経済」「行動」「心理」の3軸を紹介します。

 購買金額などの「経済ロイヤルティ」、購買頻度や情報接触の仕方といった「行動ロイヤルティ」の指標は、わかりやすいと思います。ただしこれらには、POSやWeb上の行動のように自動で取得できるものだけでなく、たとえば購入する予算をどこから拠出しているか、他ブランドとの併売状況など、顧客に聞かなければわからないゼロパーティデータの指標も多く含まれることに注意が必要です。

 経済、行動の軸に比べてこれまであまり注目されてこなかったのが、心理ロイヤルティです。ブランドへの好意度、愛着や推奨度合い、継続利用の意向、製品サービスへの満足度など、多岐にわたりますが、企業主導で収集できる情報は不足していました。

 ところが、心理ロイヤルティを見過ごしてしまうことは大きなリスクをともないます。たとえば経済と行動の軸で分類した場合には相当ロイヤルティが高い顧客でも、好意度や継続利用意向が低ければ、競合がより高い満足が見込めるオファーを出していた場合、すぐに離反してしまいそうです。

 このように、3軸に分解してロイヤルティを把握することで、顧客基盤をより盤石にするための戦略立案が可能です。健康的な事業成長が見込める、とも言い表せるかもしれません。経済と行動と心理をそれぞれ、身長・体重・体脂肪率にたとえると、身長と体重だけみると一見健康的でも、体脂肪率が高ければ健康とは言えません。そのような状況を検出し、手を打つために、この3軸での把握が有効だと考えています。

 心理ロイヤルティの分析を進めマーケティング活動に反映することができるよう、当社では現在チャートを使ったワークショップを開発中です。心理ロイヤルティをブランドとして大事にしている機能的価値と情緒的価値に分類し、それぞれを数値化して把握していきます。アパレルブランドなら「着やすさ」「デザイン性」などが機能的価値、「ショップ店員の親しみやすさ」などが情緒的価値になるでしょう。これも3軸の比較分析と同様に、全体のバランスを見ながら、足りない部分を埋めていく施策を検討すると、次の打ち手が見えてきます。

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データ取得の前提には顧客との「価値交換」がある

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この記事の著者

加藤 希尊(カトウ ミコト)

チーターデジタル株式会社 副社長 兼 CMO
広告代理店と広告主、BtoCとBtoB両方の経験を持つプロフェッショナルマーケター。WPPグループに12年勤務し、化粧品やITなど、14業種において100以上のマーケティング施策を展開。2012年よりセールスフォース・ドットコムに参画し、日本におけるマーケティングオートメ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:43 https://markezine.jp/article/detail/33191

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