10年後、「2030年日本の広告費」に「放送テレビ」の項目は残っているか
慶應義塾大学の中村伊知哉教授(当時)は、記事「NHK 同時配信を認める放送法改正、成立。」の中で「BBCがあと10年で電波を返上するという噂も流れている」と述べています。今後、世界がIoT化することで、放送局に電波は要らなくなるでしょう。
5Gの次の6Gも検討が開始されました。AbemaTVを見ればわかります。ネットテレビで流せばいいのです。BBCが電波を返上するとNHKも電波を返上するでしょう。スマートシティや自動運転車、遠隔医療、遠隔授業、スマート農業など、新たな電波需要で電波帯域が逼迫します。
「国家戦略として、成長見込みのないテレビ局から電波を取り上げるべき」専門家の間ではこうした意見が増えてきています。10年後、「2030年日本の広告費」。放送テレビの項目はあるのでしょうか? 2030年、テレビ局が電波を返上する。その確率は高いです。さらなる日本の成長と発展を目的に、今後、総務省はテレビ電波の返上に奔走するでしょう。そして、その代替策が同時配信です。
テレビ局には電波返上の強い意志を持ち、日本の経済成長に貢献しようとする人がいます。他の産業に電波を譲るという器の大きな人間です。失われた平成の30年を取り戻し、先人が作った豊かな日本を維持・発展させていく。それが電波返上と重なるとき、もう「マスゴミ」とは呼べない敬意、社会の信頼を回復するでしょう。

zonari合同会社 代表執行役社長
電通総研パートナー・プロデューサー
アタラ合同会社フェロー 有園雄一(ありぞのゆういち)氏
1995年「貨幣の複数性」(卒業論文)を『現代思想』で出版。グーグル営業戦略企画担当、電通デジタル客員エグゼクティブコンサルタント、電通総研カウンセル兼フェローなどを歴任。
テレビ広告とインターネット広告という区分けは意味をなさなくなる
この発表に大きな驚きはありませんでした。インターネット広告は効果が可視化されやすいなど様々なメリットがありますが、特に小額で出稿ができることから、今まで広告出稿自体していなかった広告主も手軽にインターネット広告を出稿してみることにつながっているかと思います。それがインターネット広告費並びに広告費全体を押し上げている気がします。
また、テレビとネットでは広告フォーマット、視聴態度、視聴属性なども異なりますので単純に比較することは難しいと思います。テレビは近年では録画視聴がかなり多くなっていて「なんとなく見る」「なんとなく画面がついている」というリーンバックの視聴傾向がなくなりつつあるような気がします。空き時間に録画したテレビ番組を見るのか、YouTubeやNetflixなどを選ぶのか、いちユーザーのコンテンツ選択に垣根はなくなってきているのではないでしょうか。そういう意味でもインターネットとテレビは近づきつつあるように思います。
ただテレビ広告には、大画面、音声ありという特性があり、これは印象に残すという点ですごく強力だと感じています。加えてリーチなども含めると、このテレビ広告を代替できるメディアは現状ありません。広告単体の力としてインターネット広告がテレビ広告に並んでくるにはまだ時間がかかりそうで、それが近づくとインターネット広告費がさらに伸びてくるのではないでしょうか。米国などでは、既にOTT広告などテレビとネットの境目がなくなりつつあります。そうなってくるとテレビ広告とインターネット広告という区分けも意味をなさなくなるのかもしれません。

株式会社TimeTree Growth & Business Platform
吉本安寿(よしもとやすとし)氏
TimeTreeのプロダクトマネージャー&マーケター。TimeTreeのサービス企画を行うと同時にテレビCMやデジタル広告などのマーケティングを担当。
「メディアニュートラル」の視点に立ち返ることが必要
世界市場においては既にデジタル広告費がテレビ広告費を上回っているので(2018年構成比はデジタル広告費38.5%、テレビ広告費35.4%。2019年1月発表「DAN(Dentsu Aegis Network)世界の広告費予測」による)、日本市場においてもいずれ同じ状況になることは予期されていました。
インターネット広告の強みは、情報摂取行動や消費行動などの様々なデータを解析し、消費者にピンポイントで効率的に広告メッセージを伝えること。効率的に商品・サービスを提供するためにアドテクノロジーを駆使してどんどん進化しています。リアルタイムでデータを収集できるインターネットには他のメディアは追随できない状況でもあります。
インターネット広告が登場して四半世紀が過ぎようとしていますが、いち早く取り組んだ広告主はこの間様々な試行錯誤を繰り返してきました。消費者の生活がすべてインターネットのみに閉じているわけではないので、インターネットだけでは伝えきれないコミュニケーションがあることもわかってきています。商品やサービスを訴求するためには、最も適したメディアを活用する「メディアニュートラル」の視点に常に立ち返ることが必要なのです。
スマートフォンの普及でインターネット広告が最適な場合ももちろん多いですが、マスメディアやプロモーションメディアの広告が効果を発揮する場合も多いのです。大切なことは消費者に常に最適なメディアを通してメッセージを伝えることであり、そのために特定のメディアに拘泥するのではなく、最適なメディアをどう組み合わせていくかを考えることが重要でしょう。

株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ
研究主幹 北原利行(きたはらとしゆき)氏
マスメディアやコミュニケーションの研究、メディア企業のコンサルティング、組織人事制度コンサルティング、広告および関連市場・業界動向調査などに従事。「日本の広告費」『情報メディア白書』を担当。