生活者の限られた可処分時間をよりリッチな時間に
自宅に帰り、テレビでお気に入りのバラエティー番組を楽しむ。10年前はそんな日常が当たり前でしたが、この数年そうした時間はどんどんネット動画やソーシャルメディアに置き換わっています。コンテンツからコンテンツへと、興味の赴くままに消費を行う様は、マスメディアからの一方的な情報接触に偏っていた時代と比べて、より自律的なものへと変わりました。
デジタルデバイスが提供する情報量は加速度的に増え続け、その結果、生活者の手元には情報が溢れています。さらに昨今のステルスマーケティング問題などもあり、生活者にとって情報の真偽について正しく判断することは難しくなってきています。
このような時代において、デジタルプラットフォームは、生活者の限られた可処分時間をよりリッチな時間にしていかなければならないと考えています。デジタルプラットフォームが取り組むべき課題は2つ。
1つはテクノロジーの力で情報リコメンドの精度を高めること。多量の情報に直面している生活者にとって、今までの検索/フォロー発想のプル型情報摂取では、適切な情報接触の実現が難しく、今後は高度な機械学習に基づく、コンテンツレコメンデーションが実現するプッシュ型の情報摂取の重要度が増していくでしょう。
もう1つは、生活者が求める“信じられるリアル”を提供するために情報生成のエコシステムを構築すること。情報が溢れている今、生活者は心から信じられる正しい情報を求めています。等身大で飾らない新しいタイプのクリエイターと、リアルに信じられる情報発信を強化することの意義が今後益々増していくと考えています。

TikTok Ads Japan Head of TikTok Ads Japan
西田真樹(にしだまさき)氏
2000年に電通入社、以降国内・海外のデジタルマーケティングを担当し、途中7年間の海外駐在を経て2018年にTikTokAdsJapanに参加。同社が提供するすべてのプロダクトのマネタイズを主管する。
「テレビを活用したパワーブランディング」への期待
テレビ広告でもインターネット広告でも、現在行われているのは「人々の注目を集めるコンテンツの間に、広告メッセージを挿入する」というモデルです。この二十数年間をかけて、生活者はコンテンツ視聴の自由度を支持した結果、そこに多くのユーザーが集まり、テレビとは別のアイボールを獲得できる場所としてインターネット広告費も増え続ける結果となりました。
これまでの四半世紀で進んできたのは、「スクリーンの中」のデジタル化です。テレビも、インターネットも、生活者が日々接触するスクリーンという接点だと捉えると、スクリーンの接触時間量は、ここ数年飽和傾向にあります。
私の所属するメディア環境研究所の「メディア定点調査」のデータでも、その傾向は明らかです。今後、企業が生活者とつながりを作る接点は、スクリーン以外にも増えていくでしょう。自律走行のモビリティ、スマート家電、会話型のAIアシスタント搭載イヤホン、こうしたサービスは、AIDMAのようなステップを大幅に圧縮していくことでしょう。スマートフォンの比ではないくらい、生活空間は「商品に対するアクションをおこす無数の接点のかたまり」となります。
そこで重要になるのは、純粋想起されるようなブランドかどうかです。「思いついたらすぐ」が可能であるからこそブランドの力はますます重要になり、また、新規ブランドの戦い方は再考が求められるでしょう。そうした環境を想定すると、「テレビを活用したパワーブランディング」への期待は大きいです。「接触量」だけでなく、「ブランドの強さを作る」接点としてのテレビ活用が重要視されていくのではないでしょうか。

株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
メディア環境研究所 主席研究員 加藤薫(かとうかおる)氏
1999年博報堂入社。営業職を経て、2008年より現職。生活者調査、テクノロジー系カンファレンス取材、メディアビジネスプレイヤーへのヒアリングなどの活動をベースに、これから先のメディア環境についての洞察と発信を行っている。
従来の区分を超えた柔軟な発想が求められる
今回の発表を受けて、媒体別広告費の勝ち負けの目線も一段落するのではないでしょうか。これからはマス四媒体もデジタルシフトしていく前提で、従来の区分を超えた柔軟な発想が求められます。この視点で、2020年には以下3つのことに注目していきます。
1つめは、パートナーの分断に対するクライアントのグリップ力。媒体間の広告費変動は、それを支えるパートナー企業の性質の変化とも言えます。一方で、クライアント企業では、トラディショナルもデジタルも含めた一連の顧客体験を設計する必要があります。専門性の異なるパートナーを束ねてマーケティング活動の全体設計とマネジメントを行うスキルが一層求められるようになるでしょう。
2つめは、データ規制の観点からマス媒体により戻しが起こる可能性。GDPR、CCPA、個人情報保護法改正、ブラウザのCookie規制など、生活者にデータの主権をおいた保護規制の動きが加速している中で、インターネット広告事業者にとって信頼性の担保が必須要件となります。同時に、プライバシー規制の観点からリスクの低いマス媒体への一部より戻しが発生する可能性もあるでしょう。
3つめは、マス四媒体の新しいビジネスモデルへの期待です。2018年より記載されているマス四媒体由来のデジタル広告費は決して大きくありません。一方、テレビでは民放各社がSASというオンライン経由で指定枠の買い付けが可能なシステムの提供を開始。パブリッシャー各社も、会員基盤を活かしたサブスクリプションビジネスへの取り組みを開始しています。こうしたデジタル変革がニューウェーブを生み出せるかにも注目していきたいです。

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ
代表取締役社長 菅恭一(すがきょういち)氏
2015年、デジタル時代のマーケティングプロデューサー集団、BICPを創業。1.戦略プランニング、2.データマネジメント、3.チームビルディング、の3つの視点で国内外クライアントのマーケティング活動を支援している。